医者の戦い 92
ミネトラの爆発によって顔の皮が剥がれ、無機質な輝きを放つようになったカミネートは白衣を脱ぎ棄てて、みぞおちに手を入れこんだ。
「…血も出ねぇんじゃ、グロいって感情もわかねぇな。まさか鉄くずの下で働いてたとは…」
「そう悲観するしなくていいですよ。異世界では機械が政治を行っているようですので」
カミネートは体内に入れた手を掻きまわすと、刀身が紫色に輝く剣を取り出した。
「そこは銃とか薬品だろ。なんで近接なんだよ」
「剣は素晴らしいですよ。銃弾を切ることもできれば、不具合を起こすことも無い。それに、剣士の技量次第でいくらでも強くなれます」
カミネートは取り出した剣を振り回し、手になじませる。その剣からは風を切る音がしない代わりに、ブンブンと聞きなれない音を発した。
「もう鬼ごっこは許しませんが、準備はできてますか?」
「っは。カミヤを諦めた日に命への執着はとっくに失くしたんだよ!」
ミネトラは自身の両拳に唾を吐きかける。唾液の硬質化によってコーティングされた拳は叩き合わせると、火花を散らした。
ミネトラはソファの上に飛びあがると、その勢いを殺さずに空中からカミネートへと殴り込む。その拳をカミネートは剣の刀身で受け止めて、左下に受け流す。
空中で受け身の取れないミネトラの脇腹に向けてカミネートは剣を振りかぶる。その攻撃を赤く染まったミネトラの白衣が受け止める。銃弾をも受け止めた白衣は剣の貫通を許すことはなかった。
「ミネトラ君、お疲れ様でした」
攻撃を受け止められたカミネートは剣を引かずに、そのままミネトラへと押し当てる。一見無意味な行動に思えたが、ミネトラは文字通り肌でその意味を感じた。
「熱かよ!」
白衣の上から感じる熱でカミネートが白衣を焼き切ろうとしていることが判明する。カミネートの狙いは有効であり、白衣が焼けてミネトラの脇腹に刀身が振れる。
カミネートに短剣を押し付けられるミネトラは勢いに負けて、部屋の壁へと叩きつけられる。
「がはっ!」
ミネトラは刀身に触れられた脇腹を抑え、もだえ苦しむ。わき腹からは大量の血液が流れる。
「力加減を間違えましたね。今ので半身は切り裂くつもりだったのですが」
ミネトラの脇腹は臓器には届かないまでも十分な致命傷になっていた。
「四肢と唾液以外に役割は与えてないのですか?」
「うるせぇんだよ!」
ミネトラは倒れながらも、自身の傷口に手を入れる。すると、そこから白い煙が噴き出し、傷口がみるみるうちに塞がった。
「私は人間のつもりはないですが、君もたいがいですね。なんなら、君の方が化け物だ」
ミネトラは両手についた血液をカミネートへと投げ飛ばす。カミネートはそれを剣で切り落とそうと剣を振りかぶるが、刀身に血液が触れた瞬間に血液は爆発を起こす。
カミネートは風圧に押されて顔を腕で覆う。
ミネトラはその隙を見逃さずにカミネートへと接近して腹部に拳を叩きこむ。鉄で出来た腹部と唾液でコーティングされた拳がぶつかり、甲高い音を鳴らす。その打撃だけでは大したダメージにならないことを理解していたミネトラは、そのままの態勢で両手に付着させた血液を爆発させた。
「ぐう…!」
カミネートはうめき声を上げながらもミネトラの腕へと剣を振り下ろした。
爆発によってカミネートは体を天井に叩きつけられ、ミネトラは右腕を切断される。
カミネートは重力に従って部屋の床へと落ちてくるが、すぐに起き上がる。
「…驚きはしましたが、等価交換とはなりませんでしたね」
ミネトラは切断された腕を拾い上げて、自身の腕に押し付ける。
「あぁ。タダでお前に痛みがあることが分かった」
「切断されても…。……化け物が」
ミネトラは切断されたはずの右腕の指を握って感覚を確かめると、再びカミネートへと走り出す。
カミネートも余裕と言った表情を消して、剣を構える。ミネトラが射程範囲に入ると、肩へと向けて切り下す。
ミネトラはその刀身に向けて唾を吐きだす。刀身と唾が触れた瞬間に唾液は爆発して、再び部屋の中を煙が覆う。
ミネトラの唾液を硬質化と判断していたカミネートはその事態に反応できないでいると、煙の中からミネトラが飛び出してカミネートは左頬を殴られる。ミネトラの拳は打撃を与えるだけではなく、再度爆発を起こして推進力を飛躍的に向上させる。
その衝撃に顎を繋ぎとめる部品が耐えきれず、カミネートの頭部から顎が外れ飛ぶ。
「がぁぁあ!」
ミネトラは声を上げて腕の痛みを紛らわせる。
吹き飛ばされたカミネートは先ほどのようにすぐに起き上がることはなく、しばらくしてから起き上がる。顎を吹き飛ばされたカミネートは無言のまま部屋の外へと駆け出す。
「待てこの野郎!」
ミネトラはその背中を追って部屋の外に出ると廊下の窓が開いており、窓の下をを覗き込むとふらふらと歩くカミネートの後ろ姿と、カミネートに向かって走ってくるアイカの姿があった。
「まずい!」
ミネトラは二人の接触に嫌な気配を感じて、階段を駆け下りる。




