鍵 86
「おーい、お姫さん方!起きてるかー?」
リーナとアムリテを夢から覚ましたのは扉をノックするミネトラの声だった。
「んん、うるさいわね…。リーナ、出られる?
「会議するって言ってたし、起きた方がいいよ。それに晩御飯も食べないと」
まだ眠気が残っているのか、アムリテは瞼を擦りながらベッドから起き上がる。その間にリーナは部屋の扉を開けて、ミネトラと対面した。
「ミネトラさん、会議はどこでするんですか?」
「そのことなんだがな、ちょっとカミヤの部屋に入ってくれ」
ミネトラは説明をすることなく、リーナをカミヤが入った向かいの部屋へと誘導する。
その部屋にはリーナ達の部屋と同じようにベッドが二つあり、その奥でカミヤは横になっていた。
「あれ、カミヤさん起きてないんですか?」
カミヤが起きてから会議を始めると思っていたリーナは少しだけ疑問に思った。
「…起きてるよ。アムリテの方は?」
ベッドで横になっているカミヤは体制を変えることなく、顔だけをリーナに向ける。その顔は青ざめていて、とても健康とは言えない様子だった。
「大丈夫ですか!?」
「大きな声は出さないでくれ。それよりも、アムリテを起こして会議を始めるよ」
「今来たわよ…って、うわ!死にそうじゃない!」
アムリテもカミヤの様子を見て声を上げる。それほどまでにカミヤの様子は弱っていた。
「全員揃ったね。寝たままで悪いが、カミネートを倒す会議を始めるよ」
「会議なんて後回しでいいですよ!今はゆっくり休んで下さい!」
カミヤの体調を心配してリーナが寄り添うが、カミヤはそれを跳ね返す。
「私の体調は一日でもすれば治るさ。今は何よりもカミネートが優先だ」
「そんな…。ミネトラさんからも何か言ってくださいよ!」
「…一日で瞬間移動を乱用したツケだな。寝とかねぇと死ぬぞ?」
「そんなの分かってるさ。ナオキ達を呼んだ一週間は外に出ることもできなかったからね」
ミネトラの忠告も意に介さずカミヤは会議を始める。
「まず、第一としてカミネートは私達がここに居ることは分かっているだろう。ゆっくり回復なんて時間はない。それでも仕掛けてこないのは、向こうにも時間が必要になったからだろうね」
「おそらくだが、アイカの能力の予備を増やしたいんだろう。病院の地下には犯罪者どもを大量に収監した部屋があるからな」
カミヤの推測にミネトラが経験談からなる補足を付け加える。
「能力って?」
「そういえば、リーナとアムリテは知らなかったな。カミネートと会った時、横に女がいただろ?あいつは動物の魂をほかの器に入れ替えれ、書き換えることができるんだ」
リーナとアムリテはカミネートと戦った時を思い出し、ミネトラの説明をかみ砕く。
「つまり、他人の魂を人形に入れたうえで命令ができるってこと…?」
「そうだ」
「それって魔法なの?あの子からは魔力なんて感じなかったけど?」
人間が魔法を行使する際には必ず魔力を体外に出す必要がある。カミヤの瞬間移動も例外ではなかった。しかし、アイカが電球を割った時にはアムリテは一切の魔力を感じなかった。
「魔法とは違うな。異世界人が持っている能力、彼らはスキルと呼んでいた。そこのナオキも異世界人だ」
リーナとアムリテはその言葉に驚き、部屋の隅で椅子に座っていたナオキを見つめた。
「あんたもあの人形が作れるの?」
「作れねぇよ。俺の能力は未来を見るだけだ。戦闘はできない」
ナオキは苦々しそうな表情を浮かべる。
「未来が見れるなら余裕で勝てるじゃない!さっさとどうやったら勝てるのか見なさいよ!」
「そんな便利なもんじゃねぇよ!未来視は俺が動ける範囲までしか見ることはできないんだ。だから、俺が思いつかない方法で勝つことなんてできないんだよ」
ナオキが見られる未来はその未来に至る行動をナオキが取った場合のみだ。ナオキの知らない、分からない前提条件の場合は未来視は発動できないのだ。
「そうなんだ…。でも、未来が見られるならどうにかなりそうだよね!」
「そんなの…」
「いや、リーナの言う通りだよ。アイカを助けられるかどうかはナオキ、あんた次第だ」
カミヤは額に汗をにじませながら、体を起こしてナオキを見つめる。
「あたし達でなんとかアイカと二人っきりにしてやる。そこからはあんたの能力を使って、アイカの勘違いを治せる未来にたどり着くんだ」
「なるほど、訴えかけるか叩く。甘やかすか拒絶するか。失敗できない選択を何度でもやり直すのか。できるかナオキ?」
「…二人っきりなら、たぶんいける。だけど、どうやって二人っきりにするんだよ?アイカの横にはカミネートがいるだろ」
「その方法を今から伝える。決行は二時間後だ。一度で全部覚えな」




