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ミキタビ始めました!  作者: feel
3章 もう一つの小さな世界
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喫茶店は憩いの場であるべき 85


「ミネトラ!あんなのが出るなんて聞いたないわよ!?」


「理論上は可能だが、ほんとに出来るとは思ってなかったんだよ!とにかく、踏みつぶされたくなければ走れ!」


 カミネートを倒すべく突入した三人は、突如二足歩行で歩き出した建物、ロボットの下敷きにならないように全力で距離を取る。しかし、その大きさのせいで走っても走っても距離が広がらないように感じていた。


「ミネトラさん、あれは爆発できないんですか!?」


「無理だ!爆発させたところで、大したダメージにはならない!」


 三人が全力で走った距離も巨大なロボットの地面を揺らす一歩で詰められてしまい、もう片方の足で踏みつぶされそうになる。


「これはこれで痛いんだけどな!」


 回避することは不可能と判断したミネトラはナイフで自分の腕を切り裂いて、三人が立つ中央に自身の血を振りまく。地面に触れた血は赤く光ったのちに、大きな爆発を生んだ。


「きゃああ!」


 三人はその爆風に体を押されて、走るよりもはやい速度で移動を成功する。その結果、ロボットの下敷きになることは回避できた。


 しかし、ロボットは倒れた三人に起き上がる時間を与えずに再び踏みつぶそうと足を上げる。


「ミネトラ、もう一回よ!」


「くそが!」


 ミネトラは再び自身の肌を切り裂こうと、ナイフを肌に押し当てる。


「そんなことしてもジリ貧だよ」


 肌にナイフを通そうとしたミネトラはその声につられて、ナイフを地面に落とす。振り返るとそこには、ナオキを連れたカミヤがいた。


「お、お前…!」


「話はあとだ。そこの二人も早く掴まりな!」


 カミヤが差し出す手にリーナとアムリテは手を伸ばして掴む。ミネトラは少しのためらいを見せるが、迫ってくるロボットの足を目の前にすれば、掴む以外の選択肢はなかった。


「合計五人か…。それでもやるしかないね」


 カミヤは腰を落として全身に力を籠める。あわやロボットの足が直撃する寸前にカミヤは飛ぶことに成功した。


「……少し考えないといけませんね」


 その光景を見ていたカミネートは目を細くして、ロボットの足を見つめた。


「ナオキったら、元気そうでよかった!」


 アイカの方はナオキの姿を見ることができたからか、上機嫌に鼻歌を歌いだした。




 カミヤが飛んだ先は、カミヤとナオキが軽食を食べていた喫茶店の中だった。急に現れた五人もの人間が現れた店主は驚いて声を上げそうになるが、カミヤによって口を抑えられたことで声を上げることはなかった。


「すまないね。だけど、また来ると言っておいただろ?」


「そ、そんな困ります…。あなた達を匿っていたことがばれたら…。それに、私があなた達を捕まえるかもしれませんよ!?」


「そんなことをするなら、出てきた飲み物に薬でも仕込んでただろ。あんたは私達をどうこうする気はない。そうだろ?」


 この店主がカミヤたちを捕まえるつもりなら、初めて来店したときに飲食物に薬を仕込めば容易かったはずだ。しかし、店主はそれをしなかった。ただ、二人に退店を促すだけで。


「何が目的ですか…?」


「明日の朝まででいい。私達を二階にある部屋に泊めてくれ。それだけだ」


 店主はしばらくの間考えこむが、すぐに結論を出した。


「分かりました。一番手前の部屋以外なら、好きに使って下さい。もっとも、人数分の部屋はありませんが。あと、もしもバレた時には脅されていたことにしてくれますか?」


「するも何もこれは脅しだ。感謝だけはしておくよ」


 カミヤはまるで自分の家のように店の奥にある暖簾をくぐって、階段を昇って行く。


「あの、ありがとうございます!」


 リーナ達は店主に礼を言って、カミヤが昇った階段に進んでいった。


「私はこの部屋を使う。リーナとアムリテは向かいを。男どもはその隣に行きな」


 二階に上がると部屋は四つもあり、店主が言っていた部屋を除いた三部屋にはベッドが二つずつ置かれていた。


「ひと眠りしたら叩き起こしてでも会議を始める。今は休みな」


 カミヤはその言葉を一方的に付けて、部屋の扉を閉めてしまった。


「あたし達も休みましょ。久々の魔法で結構、眠いのよ」


「俺も血を使い過ぎた…。おい、小僧。ちょっとでも物音を立てたら、殺すからな?」


「うるせぇよ!舎弟ごときが指図するな!」


 他の三人も疲れの色を出して、早々に部屋の中に入って行った。だが、リーナは眠気よりも喉の渇きがひどかったので、一階に降りた。


 一階には客席のテーブルに座って、肩を落としている店主がいた。


「あの」


 リーナの声掛けに気付いた店主はゆっくりと振り返る。


「なんですか?何か用ですか?」


「すみませんが、水をもらえませんか?喉が渇いてて…」


「分かった。そこに座って待っていてくれ」


 店主は自分の対面の席を指さしてから、厨房に入った。リーナは指定された席に座って大人しく水が出てくるのを待っていると、厨房の方から甘い匂いが漂ってきた。


 しばらく待っていると、店主はプレートを持って厨房から出てきた。


「待たせたね。食欲があるなら食べて欲しい。ホットケーキって言うんだ」


 水と一緒に持ってこられたホットケーキは黄金色に焼けていて、ほのかな甘い匂いを漂わせていた。


「ありがとうございます!」


 リーナはコップに入った水を飲みほした後、ホットケーキを口にする。疲れた体に糖分がいきわたり、リーナは睡眠よりも回復すると思った。


「おいしいです!でもどうしてですか?突然、来た私なんかに…」


「深い意味はないよ。ただ、訪れたお客様には笑顔で帰ってほしいんだ。それが、私が店を始めた理由だからね」


 店主は空になったコップに水を注ぎ、リーナの対面に座った。


「少しだけ話を、愚痴を聞いてくれないか?」


「もちろんです!何でも聞きますよ」


「ありがとう。私がここに来たのはね、妻が病にかかったからなんだ」


 二人だけの店内には店主がかけたのであろう、落ち着いた音楽が鳴り響く。


「ここに来たこと自体は恨んでなんかいない。でもね、君たちみたいにアナザーに敵意を持った人が来るたびに、私達は捕まえろ!殺せ!って命令されるんだよ」


「そうですよね…。だって、街を荒そうとしてる人たちを放っておくなんてできないですよ」


「私は元々、人が全員穏やかな気持ちになってほしいんだ。けど、この店に来るのは殺伐とした住民だけだ。もう、嫌になるよ」


 店の外ではリーナ達を探しているのか、住民があちらこちらを血眼になって捜索している。


「だから、君たちがこんな気持ちを壊してくれるのなら、って期待してしまったんだよ」


 そう話す店主の目には涙が溜まっており、これまでの苦労を物語っている。


「すまないね。夕飯も言ってくれれば、出すから降りてきて欲しいな」


「…期待して下さい」


「…え?」


「私達が現状をどうにかしますから、期待して下さい!そして、壊せたときは店主さんがみんなを笑顔にしてあげてください!」


 リーナは現状をどうにかできるほどの考えなどはなかった。だが、この店主の思いをむげにしてはならないと思った。


「そう、か。なら、頼んだよ。妻と私が憧れた店を実現するために、君たちに期待しよう」




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