カミネート 77
ミネトラは瞼の裏を突き刺す強烈な光によって目覚めた。窓から見える空は暗く、日が昇るには早かったが、光の出どころは地上にあった。隣の建物、父と母が経営している宿が燃えていたのだ。
「親父!お袋!」
ミネトラの隣で眠っていたカミヤもその声で起き上がり、事態を把握した。
二人は診療所から飛び出して、宿の前まで走る。外に出ると、強烈な熱波が押し寄せるがそんなことはどうでもよかった。
「カミヤ!二人はどこにいる!?」
「寝室!二人とも意識はあるけど、横たわってる!火が廊下にまで来てる!」
壁越しで分かるのはその程度の情報だった。だが、それだけの情報があればカミヤは瞬間移動で助けることができる。
「行ってくる!ミネトラはタオルを濡らしてて!それと能力の準備も!」
宿の裏にある牛舎から牛用の飲み水を頭にかけて、カミヤの両親がいる寝室に瞬間移動した。
「お義父さん!お義母さん!」
寝室には煙が蔓延しており、その奥には弱弱しく肩を上下させる両親がいた。カミヤは力のおかげで、煙に惑わされることなく両親のもとに近づき、二人の肩を持って宿の外へ飛ぶ。
「カミヤ!」
両親を連れて出てきたカミヤにミネトラが駆け寄って、三人に濡れたタオルを被せる。
両親の表に出ている皮膚は黒いすすがついているが、その下からも分かるほど赤くただれていて重度のやけどを負っている。
「ミネトラ、早く!」
ミネトラがやけどしている個所に手を当てて行くと、肌は触れられた個所から健全な色と形になって行
った。
だが、両親の意識は戻らず、息は弱弱しいままだった。
「なんでだよ!目を覚ませ!」
「煙を吸い過ぎたの!どうにかしないと!」
ミネトラの能力では体内に入った煙を出すことはできない。もちろん、それが血液に浸透しているならもってのほかだ。カミヤの方も、異常は分かっても治療はできないでいた。
「これはこれは、大変なことに」
二人が慌てふためいていると、後ろからあの男の声がした。その顔を見た瞬間、ミネトラは男の胸倉をつかみ上げた。
「お前がやったんだろ!?」
「いえいえ。私は夜が早いですから、ずっと寝ていましたよ。ところで、どうしてご両親を治さないので?まさか、お亡くなりになることを?」
男の挑発をかわせるほどミネトラは冷静ではなく、男の顔を全力で殴った。男はその勢いで、肩から地面に叩きつけられる。
「ミネトラ!今はこっちよ!」
カミヤの呼びかけに気付き、ミネトラは両親の傍まで戻る。しかし、戻ったところでミネトラができることはなかった。
「カミヤ!病院まで飛べるか!?」
「分かった!私に掴まって!」
カミヤは両親の腕を握り、ミネトラはその肩に手を置く。カミヤが息を吸って、病院まで飛ぼうとしたところで再び男が声を掛けた。
「待ちなさい!私なら、すぐに治せます」
「カミヤ!飛べ!」
ミネトラはその言葉を無視して、すぐに飛ぶように命じる。しかし、カミヤは男の次の言葉を待ってしまったのだ。
「今ここで治さなければ手遅れになりますよ?」
「カミヤ!あいつの言葉は全部嘘だ!」
「……ミネトラ、あの人、嘘は言ってない」
人間は嘘を吐くときに体にその兆候が見られる。それは心拍数や呼吸などに。しかし、カミヤの能力で見たその男には一切のそれが見られなかった。
「その二人を助けたければ、私の元へ。もちろん、お代はいただくがね」
「ミネトラ、今はあの人の言う通りにした方が…」
カミヤが見つめるミネトラはやるせない思いでいっぱいだった。
証拠はないが、両親をこんな目に合わせたのは十中八九この男だ。それをこいつに治してもらうなんて、相手の思うつぼだ。
「早くしないと手遅れになりますよ?」
両親の息はみるみるうちに弱くなっていく。それは、素人のミネトラが見ても分かった。
「…頼む。二人を治してくれ」
その後、男は持っていたカバンから見慣れない小さな物を取り出して、それで両親の鼻と口を覆った。すると、両親の呼吸は安定し、顔色も改善していった。
「これだけでは安心と言えません。私の馬車に乗って、医療施設があるところまで」
二人は両親を男の馬車に乗せて、男が言う施設まで乗って行った。
男の馬車に乗り入った施設はとても医療が充実にしているようには見えないごくごく普通の一軒家だった。
「この部屋でご両親を」
案内された部屋は驚くほど白く、中央に人間が入れるくらいのの大きさで、細長い形をした物があった。
「このカプセルに入ってもらい、酸素を通常より吸収してもらいます」
カプセルの中には簡易な布団が敷いてあり、睡眠を取れるようになっていた。
ミネトラはカミヤに男が嘘を吐いていないか確認させたのち、両親をカプセルの中に入れた。
「ミネトラさん、カミヤさん。私の部屋でもう一度話を聞いてください」
それはお願いというよりかは命令で、二人に断る権利はなかった。
「昼間にも話した通り、ミネトラさんの能力は怪我を治せるなんてちっぽけな物じゃない。本来なら、君だけでも両親を救えたんだ」
「だが、今までやろうとしても…」
ミネトラは数多くの病に苦しむ患者を診てきた。だが、例外はなく能力で回復させることはできなかった。
「それは、君の知識と経験がないからだ。君の能力には想像が必要だ。だから、怪我みたいに見ればわかるものは治せたし、骨折は知っているから治せた。その証拠に、思い込みで触った私の足は人間のそれになった」
男は敬語をやめて、軽快に話す。本来はこちらの口調なのかもしれない。
「……その話が本当だとしても、病を治すところなんて見れないだろ」
「私なら見せることができる」
その言葉に下がっていたミネトラの顔が上がる。
「実は私も君たちのような能力を持っているんだ。それが、異世界の知識だ」
「異世界の知識…?」
「私はあるときから夢を見なくなった。その代わりに、寝ている間は異世界の知識を知ることができるようになった。それは、農業や機械工学、そして医療。異世界は素晴らしい。何もかもが、この世界よりも優れているんだ」
男は何かを思い出すかのように顔を上にあげて、手を広げた。
「あの世界では平均寿命がここの倍以上もある!人口が増えすぎて、困っているくらいだ!それに、社会制度や娯楽も遥か未来だ。私の体や先ほどの酸素カプセルもその一つだ」
「…それで俺達に何をしろと?」
「しばらくは私の傍で治療や機械の作成を見たまえ。そして、想像と知識を深めた後に異世界の人間をカミヤくんと協力してこちらに呼ぶ」
「そんなあるかも分からない世界の人間なんて、呼べるわけがない…!」
男の話す内容をカミヤたちは一切理解ができなかった。だが、カミヤはこの男が嘘を吐いていないことに動揺を隠せない。
「カミヤ君、君はどうして人の場所や状態がわかるんだい?ミネトラ君、君はどうして触れただけで生き物を治せるんだい?僕はね、こう思うんだ。神が僕たちに世界を救えと言っていると」
「ミネトラ、帰りましょう。明日の朝、またここにきて二人を連れて帰ればいい」
男は二人に手を差し出した。しかし、カミヤはこの場から立ち去ろうとミネトラに声を掛けるが、ミネトラは動かなかった。
「なぁ、あんた。もしその話が本当なら、俺の前から死ぬ人間はいなくなるのか?」
「えぇ。少なくとも病や怪我で亡くなるのは」
ミネトラは震える腕をゆっくりと伸ばし、その手を掴んだ。
「よろしくお願いしますよ。あ、私の名前はカミネートとお呼びください」
最近は面白い漫画が多いですね!ついつい、お財布の紐が緩んでしまいます!
もちろん、小説も読みますよ!?
でも、シリーズものを読む機会は減り、どうしても短編物やどこかの新人賞などを優先してしまいます...。
つまり何が言いたいかと言いますと、散財しないミキタビをよろしくお願いいたします!!!




