ミネトラ 76
お互いの能力を知った二人はしばらくして、村に小さな診療所を開いた。カミヤが体の異常を見て、ミネトラが治す。その診療所には村中の年寄りや子供が集まり、ミネトラは骨折などの怪我をすぐに治した。
だが、ミネトラの能力は万能ではなかった。風邪などの流行り病や臓器の異常までは治せない。そのことを知らずに、病で訪れた患者は追い返すことしかできなかった。
「俺にちゃんとした医療知識があれば…!」
ミネトラはカミヤと共にいることで、自分の力不足を痛感した。カミヤは一目見れば、異常がある箇所が体内であろうと分かる。その上、カミヤは瞬間移動という魔法まで使えた。
「元気を出して。あなたの能力は多くの人を救っている」
実際、ある事故が原因で下半身を動かせなくった少年がいた。その少年は大きな街の医者にも診てもらったが、手術すら受けさせてもらえなかったそうだ。しかし、ミネトラが彼の足に触れると、少年の足がわずかに動いた。その数日後には走り回れるようになった。
「…そうだな。俺たちは人のためにこの力を使わないとな」
二人の診療所のうわさは各地に広がり、王族や貴族から声がかかるようになっていった。そんな中、カミヤが買い出しに行った時間に一人の男が診療所に訪れた。
「どうも。神の遣い様」
「なんですかそれ?」
その男はミネトラの父親ほどの年齢だった。
「あなた達のことですよ。見ただけですべてが分かる巫女。触れただけですべてを治せる巫まさしく、紙の遣いではないですか」
「やめてください。俺が治せるのは怪我だけなんです」
ミネトラは自分がカミヤと同等に扱われるほどの存在とは思えなかった。
「ここに訪れたのは俺達を勧誘するためですか?」
二人の名前が広がったことで、二人を自分の専属にしようという輩が増えていたのだ。
「実は数週間前から、足が痛むようになりまして…。歩けないほどではないですが、どうにかなりませんか?」
ミネトラはこの時、この男を早く帰らせたいと思っていた。その結果、触診などをせずに男の足に触れた。すると、男の足には違和感があった。
「あなた、この足──」
「おぉ!痛みが引きました!ありがとうございます!」
男はミネトラの手を握り、感謝を伝えると代金を置いて診療所を出て行った。それと入れ替わりでカミヤが帰ってきて、先ほどの男について問い合わせる。
「ミネトラ、さっきの人はどこが悪いって?」
「足、って言ってた。だが、あの触感は…?」
ミネトラが触った足は異様に固く、人体というよりは石やガラスに近い触感だった。
「断ったの?」
「いや、触ったら良くなったと言って帰った」
その翌日、再び男が現れた。
「巫女様、巫様先日はありがとうございました。おかげさまで、足の具合は非常に好調です」
「その呼び方はやめてくれと言ったはずだ」
「では、名前をお伺いしても?」
「……俺がミネトラで、こっちがカミヤだ」
カミヤとこの男が会話するのを避けたかったミネトラは、カミヤの自己紹介も代わりに行った。
「足が治ったなら、ここに用はないはずだ。それとも、またどこか怪我したのか?」
「君が治せるのは怪我だけではないよ」
男はおもむろにそんな言葉を口にした。
「これを見たまえ」
そう言って、男は履いていたズボンの裾をまくり上げる。ズボンの下には見た目に比例した細い足があった。
「これは、昨日君が触った足だ。そして、こっちが本来の私の足だ」
男はまくり上げた方とは逆のズボンをまくり上げた。そこにあったのは、人の足ではありえない鈍い光沢を放つ足だった。
「なんだ…これは?」
「私は昔、事故で両足を失ってね。自分で作ったのさ」
カミヤとミネトラはこの時、男がなにを言っているのか理解ができないでいた。
「君の力は怪我を治すなんて安っぽい物ではない。まさしくそれは真実の書き換え、創造とでも呼べるものさ!」
男は手を大きく広げて立ち上がる。
「君たちの力があれば、世界の多くの人間が救われる!私と共に来るんだ!」
男は二人に手を差し出す。ミネトラはその手を掴みそうになるが、伸ばした手をカミヤが制止した。
「ミネトラ、冷静になって。この人は何かを隠している。それに、あなたの能力がこの人の言う通りだったとは確定してない」
「そ、そうだな…。悪いが、あんたの言ってることは信用できない。何に協力するのか。何をもって人を救うのか。それに、今となってはその足の話も絶対とは言えないんだ」
ミネトラは言葉を発しながらも、昨日の感触を思い返せばそれだけは信用できると思っていた。
「…また明日来よう。だが、これだけは先に言っておく、君の能力は想像さえできればどんな事象だろうと書き換えることできる。それは、どんな魔法よりも優秀だ」
男は昨日と同様、すぐに診療所を出て行った。その晩、事件は起きた。




