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ミキタビ始めました!  作者: feel
3章 もう一つの小さな世界
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痴話喧嘩 74


「アムリテ、様!これが最後の点滴となりますので、晩御飯はリーナ様と同じものを養子させていただいてもよろしいデスカ?」


 それはリーナが昼食を食べ始め、ロボットがアムリテの点滴を取り換えた後の事だった。


「できるならそうしたいけど、あたしってあと一週間くらい入院するのよね?こんなに早く点滴を取ってもいいの?」


「ハイ!あとの一週間は魔力が正常に流れるかの確認ですので、この点滴が切れましたら運動や食事は自由となりマス!」


「そう。なら、晩御飯は普通のでお願い。できれば、肉系で」


「かしこまりマシタ!統括ロボットにお伝えしておきマス!」


 ロボットはアムリテの点滴を取り換えると、病室を出て行った。


「いきなりお肉なんて食べれるの?」


「体力付けるには肉を食べなきゃね!」



 

「カミネート様、カミヤ様がアナザーへのアクセスを求めております。いかがなさいますか?」


 カミネートがナオキとは別室にいるアイカへの用事を済ませ、退室したタイミングで統括ロボットが報告した。


「許可しなさい。ただし、許可を出す前に転移ゲートの前でお迎えしなさい。そして、お迎えしたら、リーナさんとアムリテさんに合わせてください」


「かしこまりました。ミネトラ様への報告はどういたしましょうか?」


「カミネートくんには報告しないでください。万が一にも、彼とカミヤばあ様が遭遇するような事態は避けるように」


 統括ロボットは頭を下げて、カミネートの元から去って行く。


「もう一度カミヤばあ様を使えば、あと二人ほどは…」




 リーナとアムリテが栞から出てきた本を読んでいると、病室のドアがノックされた。二人はその時、晩御飯の要望がダメだったのかと思った。


「リーナ様、アムリテ様。カミヤ様が参られましたので、入室しても───」


「もう怪我は治ったのかい?」


 二人の返事を待つどころか、統括ロボットの言葉が終わる前にカミヤは病室のドアを開けた。リーナには、言葉を遮られた統括ロボットの頬が少し膨らんでるように見えた。


「早かったですね!ここから王国までには相当な距離があると思ったんですけど」


「転移ゲートを使ってね。王国から少しだけ離れた街にも置いてあるのさ」


「ねぇ、おばあさん!どうやって、栞から本を出したの!?あたしにも教えて!」


 目を輝かせてカミヤに近づいたアムリテの頭をカミヤは持っていた杖で叩いた。


「痛い!どうして殴るのよ!?」


「うるさいからだよ。病院と本屋と図書館では静かにしな」


 叩かれたアムリテはベッドに戻り、大人しくするようにした。


「見たところ、治療は終わっているようだね。なら、さっさと退院するよ。荷物をまとめな」


「お待ちください。リーナ様はともかく、アムリテ様にはまだ入院してただく必要がございます。退院は許可できません」


 二人を退院させようとするカミヤを統括ロボットが制止する。その理由はもっともで、リーナも退院はもう少し先の話だと思っていたのだ。


「鉄くずごときが決定権を持っているような言い方をするんじゃないよ。ミネトラを出しな。じきじきに話をつけてやる」


「それも許可できません。ミネトラ様は今も他の方を治療中ですので」


 カミヤが統括ロボットを睨みつけるも、統括ロボットは一歩も引かずに毅然とした態度を示している。


「あいつは今休憩時間のはずだ。カミネートの指示かい?」


「お答えできません。私は患者様を第一に考えるように設計されておりますので、どうしても聞いていただけないようでしたら」


「あ、あの!ロボットさん!」


 不穏な空気になり始めた二人の間に、リーナは割って入った。


「少し、おばあちゃんと話したいので、席を外してもらえませんか?勝手なことはしないので」


「…かしこまりました。では、御用の際にお呼びください」


 統括ロボットは病室のドアを閉めて、立ち去って行った。その様子にリーナは人間味を覚え、ロボットが作られた物とは思えなくなっていた。


「私がいない間にあいつらは心まで入れたのかね…。ところでリーナ、カミネートには会ってないだろうね?」


「昨日、会いました…」


「遅かったか。その時、何もされなかったかい?」


「会った時に、お金はいらないから、私で実験したいと言われました。あと、部屋を出ようとして走っても、なぜか扉にたどり着けませんでした」


 リーナは昨晩にあった出来事をカミヤに打ち明ける。カミヤはそのことを真剣な表情で聞いていた。


「何よそれ…」


 その話を聞いていたアムリテが口を開いた。


「あたし、そんな話聞いてなかったわよ…。どうして、話さなかったのよ」


「ごめん…。けど、アムリテに余計な心配をかけるかなって…」


「余計って何よ。あたしが聞いたところで意味ないって?」


 アムリテの声は震え、表情が暗くなっていく。


「そういう訳じゃ──」


「あんたがそんなひどいことされてるのを知ってたら、すぐに殴りに行ってこんな街出て行ったわよ!?あたし、あんたのことは友達だと思ってたし…」


「私もだよ!けど、今はアムリテの体が心配で…」


「あたしのはもう治ってるじゃない!?これから何かされそうになってるあんたの方が、一大事でしょ!?」


 二人の声はほかの病室に届くかと思われるほど、大きくなっていく。


「そもそも、あんたいっつもあたしの心配ばっかで…。あたしの事、信用してないの!?」



「そんなことないよ!信用してるし、頼りになると思ってる!けど、だからって心配せずにはいられないよ!」


 二人の顔に涙が溜まって行く。その様子を見て、カミヤが杖を一振りした。すると、病室だったはずの景色が、とある丘の上になっていた。


「全く。ようはどっちもお互いが心配で、自分より大事ってことだろ。痴話喧嘩は後でしな」


 二人は景色が変わった事への驚きと、カミヤの言葉で興奮が少し収まった。


「アムリテにこのことを言ってなかったリーナは悪い。けど、言わなかった理由が分からないほどあんたも子供じゃないだろ?」


「それはそうだけど…」


「今はどうやって、アナザーから出るかだ。幸い、リーナの体に目立った異常はないから、カミネートも随分と慎重なんだろう」


 確かに、リーナはカミネートの部屋を出てから異常を感じることはなかった。


「リーナは退院できるようだから、今日中に退院させるよ。それでいいね?」


「分かったわ。待ち合わせ場所を──」


「待って!私、アムリテと一緒に居たい。そうしないとダメな気がするの」


 アムリテとカミヤが顔を見合わせる。


「リーナ、何か理由があるの?」


「ううん。だけど、安心はできるから」


「そんな理由で…!」


「いや、いいだろう。あたしとしても、二人が固まってくれてる方が守りやすい。ただし、これを持っておきな」


 カミヤはポケットから二枚の栞を取り出し、それぞれに渡した。


「何かあれば、それにあたしの名前を叫びな。カミヤでも、ババアでもいいから」


 二人は頷いて栞を自分のポケットの中へ入れる。それを見たあと、カミヤが杖を一振りすると景色は元いた病室に戻った。


「この部屋ではそれを出しちゃダメだよ。それじゃあね」


「おばあちゃん、どこか行くの?」


「ちょっと用事がね。舎弟のケツをしばきにいくのさ」


 カミヤはそう言って、病室から出て行った。


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