統括ロボット 異世界 スキル 73
頭を強打したリーナは統括ロボットの支えを借りながら、病室まで戻ってきた。
「あの、ありがとうございました」
リーナは統括ロボットに礼を言って中に入ろうとする。
「リーナ様、アムリテ様の点滴を取り換えさせていただきたいので、入室してもよろしいですか?」
リーナは統括ロボットの言葉を不思議に思った。他のロボットは点滴を夜に取り換える場合は、患者を起こさないように静かに行うことが多い。それに、治療にかかわることは断定して話すものだ。なのに統括ロボットは、アムリテの点滴を触ってもよいかとリーナに尋ねてきた。健康にかかわることを、拒否できるはずもないリーナは統括ロボットを中に入れる。
「カミネート様の部屋で何があったかは存じ上げません。しかし、カミネート様はお優しいお方でございます」
点滴を取り換えながら話す統括ロボットの声はすごく静かな物だった。
「寝る魔も惜しまれて、新薬の開発に明け暮れています。たまに集中のし過ぎで我を失ってしまうこともありますが。一人での多くの人類を救いたいとの願いからなのです」
「…どうしてそれを私に?」
「カミネート様のお部屋から出てこられた際に、心拍数や呼吸に乱れがございましたので。いえ、もしかしたら同年代の子とカミネート様について話したかったのかもしれません。私の場合は設備年齢ですがね」
部屋が薄暗いせいではっきりとは統括ロボットの顔を見ることはできなかったが、窓から差し込む星明りに照らされた口元は笑っているように見えた。
「では、明日の朝に四千六百三十五番が朝食をお持ちいたします。あの子ったら、リーナ様のお話ばかりするので」
統括ロボットは他の仕事があるのか、リーナの言葉を待たずに部屋を出て行った。
リーナはベッドに潜るが、眠気が消えてしまったカミネートとの会話を整理することにした。
第一に、アナザーから外へ出る許可は得ることができなかったこと。
第二に、入院費の代わりに実験に付き合えとのこと。
第三に、カミネートが王国で出会った老婆、カミヤのことを知っていたこと。
そして、リーナはカミネートに何らかの薬を盛られていることだ。
「外に出れないのは最悪だけど、アナザーで働いてお金を返せばいいかな。そうすれば、実験に付き合う必要はなくなるよね」
アナザーで働くことで、リーナは第一と第二の問題を解決することに決める。
「おばあちゃんのことと、薬のことは考えても仕方ないかな…。できるだけ、アムリテと一緒に居よう」
何とかしてあげる、そう言ったカミヤを信じないわけではないが、完全な信用はできなくなったリーナはできる範囲で、この状況を抜け出そうと考えた。
翌朝、おそらく四千六百三十五番であろうロボットが病室に朝食を届けに来た。しかし、リーナは睡眠不足により、完全に熟睡していたので代わりにアムリテが朝食を受け取った。
「うぅ、冷めてる…」
その流れを知ったのは、昼食まであと一時を切った時だった。
「もう残せばいいんじゃない?すぐにお昼ご飯、来るわよ」
「そうなんだけどさぁ…」
カミネートに対する嫌悪感のようなものはあるが、ロボットたちには感謝している。それに、そもそもとして食べ物を残すのには抵抗があった。
「全部食べるよ!」
リーナは料理の入った器を傾け、胃に流し込む。ゼペットがこの場に居れば、行儀が悪いと叱られたことだろう。
「あんた、昼食食べれるの…?」
「ちょっと、トレーニングルーム行って───付いてきて!」
「あたし、運動するなって言われてるんだけど」
「お願い!私の頑張る姿を見てて!」
「キャラ変わったわね…」
リーナは自分でもそう思いながらも、アムリテを連れ出そうとする。
「ま、ずっとベッドの上で退屈してたしいいわよ。場所は分かってるの?」
「場所は分かるんだけど、機械が動かせないからロボットさんを呼ぶよ」
リーナはベッドの横に備え付けられている呼出ボタンを押す。すると、一体のロボットがすぐに到着した。
「トレーニングルームに案内いたしマス!昼食の時間も調整させていただきマス!」
「ありがとう!」
リーナ達がトレーニングルームへ入室した同時刻に、カミネートはある実験室にいた。見つめる先にはガラスを隔てた暗い空間が広がっており、その中央には一人の青年が椅子に座っていた。
「おはようナオキくん。調子はどうですか?」
「…せよ。……俺の全てを返せよ!」
青年は固定化されている椅子の上で暴れるが、両腕と両足を拘束されており、身動きが取れない状態だ。
「君達異世界人のおかげで、この世界でも病気で苦しむ人は劇的に減った。技術に関しても、素晴らしいの一言だよ。ありがとう」
「黙れ!騙されなければ、お前なんかに協力するはずもなかったんだ!」
天井から何か細い物が降りてきて、暴れ続ける青年に巻き付く。その結果、青年は口以外の動きを封じられた。
「君たちの世界の大人は少し協力したら、すぐに逃げ出そうとした。全く、右も左も分からない君たちを助けてあげたのは僕なのに…」
「お前たちが勝手に呼んだんだろ!俺たちは元の世界で生きていたかっただけなのに!」
「それはひどいんじゃないですか?ちゃんと、こっちに来る前に同意はしてもらったはずですが?」
「あの時、お前はこの世界で好きにできると言ったじゃないか!それなのにこれはどういう事だよ!?」
「好きにできるとは言いましたよ。だけど、君たちを捕まえないなんて一言も言っていない。逃げたければ逃げるがいいです。舌を切ろうとした大人もいましたよ?」
カミネートの口調は乱れずに淡々と青年に語る。体の自由を奪われた青年は、その言葉を無理矢理聞かされている。
「でも、君と一緒に来たアイカさんは一人で逃げられますかね?」
「っ!アイカに手を出したら、本気で殺すぞ!?」
青年がカミネートに向かって睨みつけても、カミネートの表情は一つとして変わらない。
「ははは。怖い怖い。そう怒らなくても、何もしませんよ。ただ、君がスキルを解いてくれればね」
「その瞬間、俺に薬を打つだろうが!?それをされたら、人形になることぐらい知ってんだよ!」
「まったく。この部屋から出していないというのに、どうして知っているのか。それも神が与えたスキルの一種でしょうか?」
カミネートはため息交じりにその言葉呟くが、その顔は諦念を一切感じさせなかった。
「また来ますよ。次はアイカさんに交渉しに行かないと。本当にあなたたちは楽しませてくれます」




