発展した病院 72
病院から出される晩御飯を食べ終え、二人が眠りについたころに病室をノックする者が現れた。その音にリーナだけが気付き、アムリテを起こさないように病室を出る。
「リーナ、様。カミネート様から返事が来マシタ」
病室のドアをノックしたのはロボットだった。夜中だからか、いつもの大きな声ではなかった。こんな時間に訪れたのは、カミネートから返事がありしだいすぐに伝えると言っていたからだ。
「許可は貰えた?」
「一度お話がしたいとのことデス」
「今から?」
「できれば今からデ。本日を逃してしまいますと、五日は開けられないとのことデス」
リーナは頭を悩ませる。眠気は我慢できないほどではないが、呼び出す時間が気になるのと、アムリテを一人にしてしまうのが気がかりだった。
「ロボットさん、私が戻るまで病室の前で居てもらってもいい?もし、起きたら教えてあげて欲しいの」
「かしこまりマシタ。では、案内に統括ロボットをお呼びいたしマス」
その数分後、病室の前に統括ロボットが訪れて、カミネートが待つという部屋まで案内された。
「カミネート様、リーナ様をお連れいたしました」
統括ロボットがある部屋の前で止まると、部屋の扉は自動で開き、統括ロボットが中に入るように促した。
リーナが中に入ると扉は閉まり、統括ロボットが外に取り残されてしまった。
「リーナさん悪いですけども、奥までお願いいたします」
どこからともなく声が聞こえてきて、リーナは部屋の通路を進む。すると、奥から見えてきたのはソファに座る男だった。体は細く、頭は白くなっている。風が吹けば今にも倒れそうだ。
「初めまして。そこのソファに座ってください」
リーナはカミネートと机を挟んで対面になるソファに座る。座り心地は大変良く、ここでも眠れそうなほどだとリーナは思った。
「改めまして。私はカミネートです。アナザーへようこそ」
「あ、私はリーナです。助けてくださり、ありがとうございます」
リーナは座りながら頭を下げる。
「いえいえ、アナザーはもう慣れましたか?」
その様子をカミネートは穏やかな笑顔を浮かべて、見つめている。
「まだ、病院内しか知りませんけど、トレーニングルームはすごいと思いました。あれは、カミネートさんが?」
「はい。アナザーの全ては私とミネトラ君で作りました。とても素晴らしい協力者もですね」
その笑顔は穏やかだが、リーナは招待のつかめない不信感を募らせる。
「あの、恥ずかしい話なんですけど──」
「お金のことですよね?」
早く本題を切りだして、ここから離れようと思ったリーナの台詞にカミネートが被せる。
「そんなに驚かないでください。メール、読みましたから」
「あ、いえ、驚いてなんて…。アナザーの外に出てもいいですか?」
「お金を払わずに、退院させてあげましょう」
その言葉に今度こそリーナは驚きを隠せなかった。予想もしていなかったためだ。
「それは、嬉しいですけど…」
「なら、私の実験に付き合ってください。なぁに、一時間もかかりませんので」
「…どういう実験ですか?」
実験の内容を聞いておきながらも、リーナは首を縦に振る気はなかった。リーナの額や背中から冷や汗が噴き出す。
「一時間以内に出来ますよ。不安ならアムリテさんの前で行いましょうか?」
「あの、お金は払いますので退出しても?」
「どうぞ。ですが、私とミネトラくんはアナザー外に出ることは許可しません。過去に何度も痛い目にあってますからね」
リーナはソファから立ちあがり、出口を目指して元来た通路を歩いて行く。
「お金の宛はあります。ここを退院してから、堂々と出て行きますよ」
「カミヤばあ様のことですか?あの、王国で本屋をしている」
その言葉にリーナの足が止まる。
「あのばあ様のことはよく知っていますよ。私も昔はよくあの人が出す本で勉学に励みました。今の私がいるのは、あの人のおかげでもありますね」
「そのおばあちゃんが待ってなさい、って言ってくれたので。今日はありがとうございました」
リーナは歩みを再開する。だが、なおもカミネートの声はリーナに届き続ける。
「あのばあ様は昔から面白い魔法を使うんですよ。物の瞬間移動などね。そう言えば今日、久しぶりに見ましたね。あんな小さい栞からでも、出せるとは驚きです」
「…見ていたんですね」
「患者の様子を確認するのも仕事ですから。あぁ、普段はロボットに任せておりますので、プライベートは守っているつもりですよ?」
得も言われぬ不快感に襲われ、リーナは通路を走り抜けようとする。
しかし、リーナはあることに気付く。
「なんで、こんなに走っても出れないの!?」
入ってきた扉から、話していた部屋までの距離は数十歩だった。なのに、今はどれだけ走っても扉までたどり着かないのだ。
「ははは。どうやら、純血の魔族にも異世界の薬は効くようですね」
「どうしてそれを!?」
「私は医者ですよ?あなたの血を抜くことなんて、できて当たり前です。気づいた時には年甲斐もなく声を上げましたがね」
「どうするつもり!?」
「何もしませんよ。私も魔族の怒りを買うのは避けたい。なので、協力してくれるようでしたらロボットに言ってください。私の元へ案内させます」
カミネートが話し終えると、同時にリーナは扉に激突した。扉は再び開き、外には統括ロボットがいた。
「大丈夫ですか?治療をしますか?」
「い、いえ…」




