栞の秘密 71
「リーナ、様!これにて終了いたしマス!」
大量に押し寄せるモンスターを切り裂いていたリーナに、ロボットの声が届く。その後、モンスターたちは消えて、草原だった周りは白い布があるだけの部屋に変わった。
「リーナ、様は合計四百匹を討伐されマシタ!明日からは七百匹分の的を用意しておきマス!」
「四百匹も倒したんだね。楽しくて夢中だったよ!」
ホログラムで作られるモンスターは直進しかして来ず、当たれば消えるためその数になったのだろう。これが実際の虫や魔獣なら、五十も倒せるか怪しいとリーナは思った。
「ロボットさん、私達って病院の外に出てもいいの?」
「リーナ、様は構いませんが、アムリテ、様はおやめくだサイ!リーナ、様に関しましても、退院するまではアナザーの中でお過ごしくだサイ!」
「そっか。あ、あとアナザーにクエストの報告ができるギルドはある?」
「ギルドはございませんが、ミネトラ様かカミネート様の許可が降りれば、アナザー外への移動も可能でございマス!」
リーナとアムリテの手持ちの資金はミッシェル・ヴェリルで遊んだため、豊富とは言えない。二人分の費用を払うには、ドットバットの報告をしなければならなかった。
「ミネトラさんって、どうやったら会えるの?」
「ミネトラ様は多忙ですので、リーナ、様がお会いになるのは難しいカト!」
「カミネート?さんは?」
「カミネート様にはメールをお送りしてから、返事をお待ちいただきマス!しかし、カミネート様も多忙のため、いつになるかは分かりマセン!」
いつになるか分からないと言われても、お金がないのでは退院もできない。リーナはロボットにメールを送るように頼んだ。
「内容はどうなさいマスカ!?」
「内容?手紙みたいなものなの?」
「ハイ!手紙と同じでございマス!」
最初からそう言えばいいのにとリーナは思った。ロボットは魔獣や虫のことをモンスターと呼んだり、手紙をメールと呼んだり変な言葉を使うことが多い。
「なら、手術代を払うためにギルドに行きたいです。アナザーの外に出てもいいですか?って感じでお願いできる?」
「かしこまりマシタ!カミネート様にメールをお送りいたしマシタ!返事があれば、すぐにお伝えいたしマス!」
リーナはカミネートにメールを送った後、ロボットと共に病室に戻った。病室では、することのないアムリテが鼻歌を歌っていた。
「リーナ、体は動かせた?」
「うん!見たことない物がいっぱいで、遊んでるみたいだったよ!」
「いいわね!あたしも動けるようになったら、行かしら!」
魔法使いのアムリテが体を動かしたいというのは珍しかったが、一日中病室の中で過ごしているのだから仕方のないことだろう。
「それにしても、こんなことになるなら本の一冊でも買っておけばよかったわね」
「だね。私も読みたい本はあったけど、王国にいた時はお金がなかったから…」
リーナはその話で、老婆が経営しているであろう王国で立ち寄った本屋を思い出す。
「あの時の栞は…っと」
リーナはリュックに手を入れて、栞の姿を思い浮かべる。すると、手に硬い紙が収まった。
「よかったぁ…ちゃんと入れてたんだ!」
栞は端が折れることも無く、老婆から渡された時と変わらぬきれいな状態だった。
「あんた栞なんて持ってるのね。何か読むの?」
「ううん。立ち寄った本屋さんでおばあちゃんがくれたんだ。また行きたいなぁ」
その言葉に反応してか、栞が強い光を放った。
「それって光るの!?」
「分かんない!」
リーナとアムリテが混乱していると、栞から声が聞こえてきた。
「あー、あー、聞こえるかい?変な場所にいるね…。聞こえたら、栞に向かって何か言いな」
「おばあちゃん!?」
聞こえてきたのは、リーナが王国で立ち寄った本屋にいた老婆の声だった。
「久しぶりだね。元気にしてるかい?」
「うん!っていうか、どうやって話してるんですか!?」
「年の功とでも思っておきな。ところで、あんた今どこにいるんだい?」
「アナザーって言うところです。私とアムリテ、友達がけがをしちゃって…。ここで、入院してるんです」
「アナザー…。嫌な所に行ったもんだね」
ベッドの上にいたアムリテが、ツンツンと杖でリーナを突いた。
「どうなってんの?」
「あんたが、友達のアムリテかい?」
リーナの手の中にあった栞はひとりでに浮かびあがり、アムリテの目の前でぷかぷかと浮遊している。
「どうしてアナザーなんかに?」
「どうしてって…。リーナが言ってたけど、怪我をしたから治療して欲しくてよ」
「アナザーは転移ゲートを通らないと行けないはずだよ」
「それは、ロドリアの人たちに言われて…」
問い詰められるアムリテは、まるで自分が悪いことをしたかのように思い、語気が弱まって行く。
「ちょっと待ってください!アムリテは間違ったことなんてしてないですよ!」
「誰も間違っているなんて言ってないよ。状況を聞いただけなら、最善さ。あんた達、金は持ってるのかい?」
「少しだけなら…」
「少しじゃダメだね。何とかしてあげるから、これでも読んで大人しくしておきな」
老婆がそう言うと栞がさらに光だし、空中に魔法陣が描かれる。そこから、十冊にも及ぶ本が出てきた。
「な、な、なんて魔力よ!?」
アムリテがその光景に驚き、魔法陣に飛びつこうとするが、次の瞬間には消えてしまった。
「あの、どうしてこんなことまで?」
「通話を掛けたのは、あんたが本を欲しいって言ったからだね。お客は逃がさない性分でね。それがアナザーにいるとは思わなかったがね」
アムリテが栞を捕まえようとベッドの上で暴れまわるが、栞はひらひらと避けながら言葉を発する。
「アナザーはバカみたいなお金を払わないと、お客を外に出さないんだ。私のお客を取るつもりなら、見捨てられないね」
リーナは老婆の考えがそれだけではないことを直感で読み取ったが、悪意は感じられなかったので好意に甘える。
「ありがとうございます!おばあちゃんのこと、待ってますね!」
「ふふふ。素直な子だね。アナザーから出たら、その本の代金と何か買っておくれよ」
「はい!いっぱい買いますね!」
リーナの言葉を聞くと、栞は病室の扉の隙間から廊下へ抜け出していってしまった。
「見たことも無い魔法…!この本を調べればわかるかも!」
栞を捕まえられなかったアムリテは、魔法陣から出てきた本を手に取り、読み始めた。
「私も何か読んでよ」
王国で貰った栞というのが分からなかった方は、1章9話をお読みいただけると分かるかと!




