回復と幸運とリハビリ 70
統括ロボットと共に病室のドアを開けると、アムリテはベッドの上で体を起こしていた。
「おはようアムリテ!」
リーナは声を掛けて、アムリテに抱きついた。リーナを受け止めたアムリテはリーナの頭をゆっくりと抱き返した。
「無事でよかったわ…!」
アムリテの声が震える。リーナにはアムリテが涙を流しているのが分かり、リーナ自身も涙が出てしまう。
「アムリテのおかげだよ…!ほんとうにありがとう…!」
二人はその後、お互いの鼓動を確認するように抱き合い、涙を流した。
「アムリテ、ここはどこなの?」
落ち着いた二人は統括ロボットの簡単な検査を受けてから、お茶をもらって話し合っていた。
「太陽もないし、草も作り物。人だっていないんだよ。ロボットさんが言うには、外も施設の中だとか…」
「あたしも詳しいことは分からないけど、世界一発展した都市って言われてるわ」
アムリテは湯気が立っているお茶を一口のみ、言葉を続ける。
「医療も世界一だけど、ロボットみたいな機械産業が有名よ」
「機械?魔法じゃなくて?」
「その辺も分からないの。アナザーで作られたものは王族や貴族が買い占めるし、それの製造方法をアナザーは公開してないから」
リーナがアナザーに来てから目にした物は少ない。しかし、そのほとんどの物が聞いたことも見たことも無い物がほとんどだった。それが、アナザーだけで作られているのだとしたら、知らないのも違和感があるのも理解はできる。
「ま、あたし達が気にしても仕方ないわ。このチューブが抜けたら観光だけして、目的地のメルモに向かいましょ」
「だね。出る時に、ミネトラ先生にお礼言わなくちゃ」
統括ロボットによると、リーナは後数日で退院が可能になるが、アムリテは魔力が正常に使えるのかを見極めるために二週間は入院するそうだ。
「ここって、ギルドとかはあるのかな?」
「さぁ?でも、ドットバットはもったいなかったわね。仕方ないとはいえ、置いてきたわ」
リーナを抱えたアムリテには、子供の大きさほどのドットバットを持ち運ぶ力は残っていなかった。ギルドには討伐が確認できる物が必要となるので、報酬は受け取れない。
「あ、もしかしたら!」
リーナはドットバットの言葉で、あるものを思い出した。ベッドの横に置いているリュックの中に手を入れると、何かを取り出した。
「リーナ、それって…!」
「うん!首を切っちゃったから、頭だけはリュックに入れてたんだ!」
それは、袋に入ったドットバットの頭だった。討伐の際に首を切られたドットバットは頭と胴が離れ離れになった。その頭をリーナはリュックにしまっていたのだ。
「これでギルドに報告できるよね?」
「よくやったわ!ここの代金にお釣りが帰ってくるわよ!」
アナザーにギルドがあるかは分からないが、保存リュックに入れておけば腐敗は避けられる。ギルドに出すころには、十分間に合うだろう。
二人は数時間前には泣いていたにもかかわらず、この瞬間には満面の笑顔になっていた。
「リーナ、様!トレーニングルームをご利用になられマスカ?」
昼食を終えた二人の病室に入ってきたロボットは、おもむろに声を出した。
「トレーニングルーム?」
「ハイ!入院期間でも体を動かせるように作られた部屋デス!ランニングマシーンはもちろん、モンスター相手に剣を振っていただくことも可能デス!」
ランニングマシーンやモンスターなど、分からない単語はあるものの、リーナは体を動かせるということならぜひ行きたいと思った。
しかし、リーナが病室を離れるとアムリテが一人になるのが気がかりだった。
「行ってきなさいよ。退院したら、すぐにクエストに行きたいしね」
そんなリーナの心境を察してか、アムリテから切り出してくれた。
「うん!行ってみるよ!」
「では、こちらに付いてきてくだサイ!」
ロボットに連れられて長い廊下を歩き、階段を降りてまた廊下を歩くとある部屋に案内された。そこには、やはり見たことのない物が大量にあった。
「これも、全部機械なの?」
「ハイ!カミネート様がお作りになられました!どんなトレーニングをいたしまショウカ?」
カミネート、その名前を耳にするのは二回目だった。リーナの話では、アナザーの情報を管理している一人で、ミネトラと名前が並んでいた。
「えっと、まずは走りたいかな?」
このロボットに聞いてもおそらくは答えられないと思い、リーナは別の要望を伝えた。
「でしたら、こちらのランニングマシーンをお使いくだサイ!」
ロボットが指定した機械は手すりのような物が付いており、足場を踏むと土とも木とも違う感覚が足に伝わった。
「では、スタートしマス!」
ロボットの声と共に、後方に足場が流れ出した。立ち止まっていては、落とされてしまうため、リーナはゆっくりと歩き出す。
「すごい!これなら確かに、狭くても走り続けれる!」
足場が流れる速度はだんだんと早くなっていき、始めは歩いていたリーナも途中から走り出した。
「ロボットさん、もう少し早くできる?」
「もう一段上げますと、最速ですがよろしいデスカ?」
「うん。お願い」
ロボットの頭が緑色に光り、足場が流れる速度がさらに早くなる。
「うん、いい感じ!」
リーナはその機械で満足するほど走ると、ロボットがもう一度頭を光らせる。すると、足場の流れる速度がゆっくりと落ちていき、完全に止まった。
「リーナ、様がただいま走った距離は、約十四キロでございマス!」
「そんなのまで分かるんだね!」
「休憩なされマスカ?」
「ううん、次は剣を振りたいな。どれを使えばいいの?」
リーナは腰につけている鞘から、短剣を取り出した。ロボットに止められるかとも思ったが、ロボットは大丈夫だと返したのだ。
「案内いたしマス!」
そう言うとロボットは入ってきた扉とは別の、部屋の中にあるもう一つの扉を開けた。
「この中で、ホログラムを相手にしていただきマス!」
リーナが扉の中に入ると、ロボットは外から扉を閉めた。扉の中はまっくらになり、若干の恐怖心が芽生えたが、次の瞬間には消え去った。
「リーナ、様!開始いたしマス!」
ロボットの声と共に視界一面が光だし、次に目を開けると草原が広がっていた。
「え?私、室内にいたのに…」
その草原では、庭で感じられなかった風や太陽の暖かさまで感じられた。リーナは辺りを確かめるように歩くと、見えない壁に頭をぶつけた。
「リーナ、様!そこは、室内ですので動き回らないでくだサイ!」
ロボットの警告ののちに、大きな虫が一匹遠くから飛んできた。
「このようなモンスターが来ますので、動き回らずにタイミングよく急所に剣を振ってください!」
近づいてくる虫には矢印があり、その方向にリーナは短剣を振った。すると、切った感覚はあったが、それは虫の物ではなかった。
「現実で切ったのはただの的ですので、ご安心くだサイ!」
「へぇー!思ってた練習とは違うけど、面白そう!」
リーナはその後、次々と押し寄せるモンスターに剣を振るっては切り裂いた。




