毒 67
アムリテはカバンから大量の毒消し草を取り出す。本来はドットバットの毒にと思って持ってきたものだが、蛇の毒にも効く可能性はある。
「あーもう!こっちもポーションにしといたら!」
ドットバットの毒は巡りが遅く、噛まれてからでも多少の飲食をする余裕はある。しかし、現状のリーナは呼びかけに反応することも無く、薬草を飲むことができるとは思えなかった。
「水…はもう残ってない」
緊急時に必要な物はアムリテのカバンに入れ、他は重さが軽減されるリーナのリュックに入れているため、アムリテのカバンには三本のポーションしかなかった。アムリテはカバンにあるポーションを取り出して、口にする。
そして、空になった容器に詰めれるだけの毒消し草を詰める。
「やったことはない。けど、やるしかない!」
アムリテは杖に魔力を籠めて光らせる。魔法を使う際には呪文を唱えることで負担を軽減するのが定石だが、この状況で行使しようとしている魔法はオリジナルで呪文など用意していない。
アムリテの額に筋が入る。次第に周辺の木々が揺れ始めて、毒消し草を詰めた容器の上にどこからともなく水が集められる。水が一定量集まると、容器の中に入って行く。
「簡単に考える。あたしがしたいのは葉を極限まで細かくすること。刻む…いや、刻みながら回転!」
アムリテは容器の中に入った水に神経を集中させる。本来、アムリテの魔法は視覚に頼り、形状を変化させるものが多い。だが、容器の中に入った水は毒消し草の陰に遮られている。
「焦るな。でも、早く」
杖にさらなる魔力を籠める。容器がコトコトと音を上げて、小さく左右に揺れる。中では刃状になった水が激しい回転をして、毒消し草を細かく刻んでいく。少しでも乱れれば、容器が壊れてしまうだけでなく、毒消し草も回収不可能になってしまう。
次第に、容器の揺れが収まり、中の水が緑一色となった。緻密性を必要とされる作業をアムリテは成し遂げた。
「リーナ、無理矢理だけど我慢しなさい!」
アムリテは横になっているリーナの頭を腕で支え、魔法を使って、ポーションを肺に流れないように胃の中まで誘導する。
すると、すぐに効果は現れ、強張っていたリーナの体から力が抜け、素人目には正常と見える呼吸が戻った。
「よし。次は腕ね」
リーナの容体が持ち直したのを確認すると、アムリテは噛まれた左腕に目をやった。
左腕は噛まれた箇所を中心に赤黒く変色していた。
アムリテは噛み傷のついている腕に口を当て、毒を吸い出そうとする。口の中に入ってきた液体に刺激を感じる。その液体を飲まないように、アムリテは地面に吐き捨てる。
その作業を刺激がなくなるまで繰り返すと、アムリテはカバンからポーションを取り出し、飲み干した。
「残りは一本。走るしかないわね!」
アムリテが使える魔法は属性魔法の数属性のみ。身体能力を上げる魔法は使えないが、魔力を体に纏えば、身体能力はわずかに上がる。
リーナを背中に乗せて、アムリテは立ち上がった。ギルドへの報告に必要なドットバットの亡骸を捨てるのが惜しいとは思ったが、仕方のないことだと切り捨てる。
「お願い!」
アムリテは地面を強く踏みしめて走り出す。目的地は一番近くにある街、ロドリアだ。




