ミッシェル・ヴェリル 59
馬車の中で朝を迎えたリーナとアムリテがごはんを食べて、軽い運動をしていると御者から出発を告げられた。
二人は馬車の中に入り、アムリテの遊びやリーナの魔獣話しをして時間を潰した。
後の四日間、盗賊や魔獣に襲われることも無く、途中で立ち寄った村でもただ食事と宿に泊まっただけで、順調と言えば順調な旅が続いた。
計何回目かの馬車の停止を感じ、リーナとアムリテは御者の声を待たずに馬車から降りた。
その瞬間、二人の鼻腔を満たしたのは強烈なまでの潮の香りだった。
「アムリテ、この匂いは!?」
「ついに着いたのよ!あたしがずっと来たかった場所、ミッシェル・ヴェリルに!」
アムリテは鼻息を荒くして見るからに興奮している。興奮を抑えきれなくなったアムリテは街を覆う門の中に走って入ろうとすると───
「ちょっと、ちゃんと並んでくれ!」
───二人の門番に某を突き付けられてしまった。アムリテは数分叱られた後に肩を沈めて馬車に戻ってきた。
「……うん。まぁ、もうちょとだから我慢しよ?」
「……あたし、街に入るまでもう外見ない。入ったら教えて」
アムリテは馬車の中に入り、奥の方で小さくなってしまった。リーナはこれ以上のフォローは逆効果と思い、馬車の外で順番を待つことにした。
門番の審査が終わり、街の中に入るとリーナは連れのアムリテを降ろすように言われてアムリテに声を掛けた。審査の際にリーナと御者の人が一緒に門番に頭を下げたのは秘密だ。
「アムリテ、中に入ったよ。楽しみにしてたんでしょ?」
「リーナ、あたしの手を引いて外に出して」
アムリテは自分で立ち上がらず、リーナに手を差し出した。リーナは不思議に思い、アムリテの顔を見ると目に黒い布を巻いていた。その様子でリーナはアムリテが感動をより味わいたいことが分かった。
「段差あるから、気を付けてね」
リーナはアムリテの手を取り、馬車から降ろす。ある程度馬車から離れて、街が綺麗に見える場所まで移動する。
「ここらへんでいんじゃないかな?」
「あたしの布、外して」
リーナはアムリテの背後に回り、目を覆っていた布を外す。
「わぁあ…!」
アムリテは珍しく高い声を上げた。門番に叱られたにもかかわらず、アムリテの興奮は収まっていなかった。
「ここよ!ここ!鼻に入る潮の匂い!レンガの街並み!水の魔法使いなら、一度は憧れるミッシェル・ヴェリル!」
アムリテは街中を子供のように走り回る。リーナはそれについて行く形で街を見物する。
多くのお店には青を基調としたさまざまなお土産、あるいは魚の柄が入っているものが置かれていた。
「リーナ、見なさい!」
アムリテがある場所で立ち止まり、前を指さす。リーナはその方向を見ると、白い砂で出来た砂漠と終わりの見えない水たまりが広がっていた。
「すごい!何、あれ!?」
「でしょ!?すごいでしょ!?これが、海よ!」
リーナは海を見た瞬間、まさしく感動という言葉の意味を知った。




