遊び 58
リーナとアムリテの二人は馬車の中で暇を持て余していた。聞けばリーロットからミッシェル・ヴェリルまでは馬車で五日も掛かり、途中で小さな村を経由していくそうだ。
「リーナ、あんた面白い話とかないの?」
「その振られ方で今まで面白くなった話はないよ。アムリテは?」
お互いの間に沈黙が流れる。リーナとアムリテは荷物用の馬車に入っているため、その空間には二人だけだった。
リーナは色んな人との会話を楽しみたいので普通の馬車に乗ろうと言ったが。アムリテが割引になるからと強く推したために、生まれたのが現状だ。
「…私の言う通りに皆と同じ馬車に乗れば、退屈しなかったんじゃない?」
「退屈しのぎにお金を払うなんて、あり得ないわ!」
アムリテは節約の意志を曲げるつもりはなく、かたくなに認めない。とは言っても、退屈なのはアムリテも同じで、寝ようにも眠気が来ない。
どうしたものかと、腕を組んで考えているとアムリテはあることを思い出し、手を叩く。
「リーナ、両手をこっちに向けて!」
リーナは何も言わずに両手をアムリテの正面へ向ける。何をするのか、全く見当がつかないでいるとアムリテはリーナの両手を握り、腕をクロスする形で上下させた。
「えっと…?」
「この後に、自分の手を叩いたら相手と右手を合わせるの。その次はもう一度叩いて左手よ」
リーナは説明された通りに手を交互に繰り出す。この動作で、これが遊びであうことは理解した。
「レトレア三千メルー。で、次は両手を合わるの。その後は自分の指を重ねて、その手のひらを合わせるのよ。それが終わったら右手に戻るわよ」
アムリテの掛け声は分からないままだったが、リーナとアムリテはその遊びを続けた。遊びはだんだんと早くなり、リーナは失敗を繰りかえした。
「あはは!またあたしの勝ち!」
「こっちは覚えてないからだよ!もう一回やれば私が勝つよ!」
リーナは珍しく熱くなり、何度も再戦する。最初こそ頭で考えながらやっていたが、覚えてくるうちにリーナは早く繰り出せるようになっていった。二人の戦いは勝利数が並んだところで、アムリテの睡眠欲により終了した。
リーナもアムリテのタイミングの良すぎる眠気に合わせて眠っていると、馬車が止まる振動で目を覚ました。
「お客さんたち、今日はここで野宿しますよ」
馬車の御者に声を掛けられ、リーナは止まった理由を知る。気が付けば周囲は暗くなっていた。
「アムリテ、起きて」
リーナはいまだに眠っているアムリテを揺すって起こす。アムリテは小さい声を上げて、顔を上げた。
「ここで野宿だって。売ってるご飯もあるみたいだけど、どうする?」
アムリテの答えは分かっていたが、念のためにリーナは尋ねる。
「持ってきた方…」
アムリテはまだ眠気が抜けきらない声で、腰を伸ばしながら言う。リーナはそれを聞くと、御者が作ったであろう大きな焚火の傍にシートを広げた。これはアッシュから、買っておいた方が良いということで、買ったものだ。
「アッシュさんに感謝しなきゃ。他のも役立つときが来るだろうし」
リーナはリュックから、一週間分の食料から今食べる分を取り出す。アムリテの要望で、肉類が多めとなっている。
「まだ温かいなんて、ほんと便利なリュックね」
アムリテが馬車から出てきて、料理を受け取る。リーナもこのリュックの便利さは身に染みており、こんなものをタダでくれたギルド長には頭が上がらない。
「お客さんたち、食べ終わったら馬車の中で寝てくれていいよ」
御者はそれだけ言うと、他の乗客たちの方へと歩いて行った。
「珍しいわね。馬車の中で寝るな!ってうるさいところもあるのに」
二人は御者の言葉に甘えて、その夜は馬車の中で過ごした。




