次の街へ! 57
リーナとアムリテの二人は甘い匂いで目を覚ました。朝をアッシュの家で迎えた二人は昨晩、夕飯を食べたリビングへ向かう。
「お、ちょうど起こしに行こうと思っていたんだが」
昨日と同じエプロンをしたアッシュが朝ごはんの用意をしていた。
「おはようございます!」
「おふぁよー」
アムリテはまだ眠気が残るのかあくび交じりの挨拶をした。アッシュはその様子を見てクスクスと笑う。
「ご飯の前に、顔を洗っておいで。アムリテは胃もたれなんか、してないか?」
「えぇ、大丈夫よ。むしろ、お腹ペコペコだから多めに用意しといてほしいわ」
昨日の夜に倒れるほど食べていたのに、小さな体のどこに入るのかとリーナは不思議に思った。
二人が朝の支度を終え、もう一度リビングに戻るとアッシュはエプロンを外して席についていた。
「何から何まですみません」
「いいんだよ。私がやりたくってやってるのだから」
ご飯だけでなく、泊めてもらうことまでも。リーナは少しだけ申し訳なくなったが、アッシュは気にしないでくれという。
「さっそく、食べましょうよ」
「そうだね」
三人は手を合わせていただきますをする。テーブルに広がっている料理は、野菜やフルーツをメインにした料理が多かった。アムリテはその中でも、アップルパイを頬張っている。
「あの、アッシュさんはこれからどうするつもりですか?」
食事中に不意に疑問に思ったことを口にする。アッシュの目的だったニョルデゴートの鎮圧は一通りの収まりを見せた。なら、彼女がこの街に残る理由は無いに等しいはずだ。
「良かったら、私達と旅をしませんか?」
ずっと一人で旅をするつもりだった。だが、アムリテが一緒に来るという選択肢を提示したことにより、リーナはアッシュとも旅をしたいとう感情が芽生えていた。
「…魅力的だが、遠慮させていただくよ」
アッシュは首を横に振り、リーナの申し出を断る。似たような志を持つものが、近くにいるという安心感を得たいというリーナの考えは失敗してしまった。
「君たちとの旅を想像すれば、とても楽しい旅になるだろうとは思う」
「だったら───」
「だが、私はその環境に甘えてしまうと思うんだ。きっと、このままでいいと思ってしまう時が来るんだ」
アッシュは自分の胸に手を当てて言葉を紡ぐ。それは、彼女の信念そのものを確かめるように。
「だから、私が満足する事ができたらその時はこちらから誘わせてもらうよ」
「ふふ、アッシュさんが満足するなんて思えませんが、気長に待ってますね」
三人は朝ごはんを食べ終えた後に、それぞれのたびに必要な物資を買いに街に出た。
街の様子は心なしか昨日までに比べると活気にあふれており、野菜の押し出しは少なくなってしまったが、その分個々の店の個性が溢れているように思えた。
「そういえばアッシュ、あんた冒険者登録はしないの?」
「あぁ。冒険者になると便利なことは多いが、貴族や教会に警戒されてしまうからね」
その言葉を聞き、リーナはアマナのことを思い出した。彼女は冒険者と仲間になり、クエストにも出ていたが、役職は神官と言っていた。シオンの言う通り、特別な立場にあるのだと感じたのだ。
「アッシュさんは、次はどこに行くんですか?私達はミッシェル・ヴェリルってところです」
「私は教会が作った街、レイシエルだね。少し気になることがあるんだ」
リーナは街の名前を聞いたのはいい物の、知っている街が数えるほどしかなかった。
「今回みたいに、無理はしないでくださいね」
「だね。リーナのような救世主が現れてくれるとも限らないし」
アッシュは茶化すように言うが、リーナはアッシュの行動が少し心配になっていた。
「そんなに心配しないでくれ。何かあったら自分の身を守るし、君に助けを求めるから」
「絶対ですからね?」
リーナとアッシュは昨晩の約束を再び誓う。三人はその後、一度解散して買い物を済ませた。
リーナが待ち合わせの場所に着くと、そこにはもうすでにアムリテとアッシュの姿があった。
「それじゃ、話すことも話したしお別れにしようか?」
「そうね。あんたのご飯美味しかったわ!」
アムリテは満足だと言う風に笑みを浮かべると、アッシュは、それは良かったと返した。
「それじゃ、アッシュさん。またどこかで!」
「どこかで!」
「バイバイ!」
リーナとアムリテは馬車に乗り、馬車の中からアッシュに向かって手を振る。それに返すように、アッシュも大きく手を振った。お互いの手は見えなくなるまで、降りることはなかった。




