お互いの気持ち 56
「リーナ!あんたは休んでなさい!」
「ううん!アムリテのフォロー頼りにしてるから!」
リーナはアムリテの言葉を蹴飛ばして、敵の真ん中に走っていく。
「あんのバカ!」
アムリテはリーナの後ろに付くように水球と一緒に、飛行する。
リーナの正面にいる騎士は直進してくるリーナに向かって、長剣を振り下ろす。リーナはそれを右手の短剣で受け流すと、攻撃することはなく脇を通り過ぎた。
「なっ!?」
攻撃されるものと思っていた騎士は通過したリーナを見るために、振り向いた。その結果、背後から来る陰に気付かなかった。
「ごぼぉぉお!?」
騎士は地上であるにもかかわらず、顔が水の中に浸かってしまいもがき苦しむ。
「安心しなさい。気を失ったら解いてあげるから」
アムリテはその後も、リーナに目を奪われて自分から視線を外した標的に向かって水球を飛ばした。速度自体はゆっくりなもので、気付いた騎士には回避されるが数人の騎士は気を失った。
「魔法使いだ!魔法使いを優先しろ!」
どこかの騎士が叫ぶ。その声に呼応して、アムリテの周りにいた騎士たちがアムリテを中心に輪を作った。
「すぐに襲ってこない分、狼とかの方が利口よ?」
アムリテは囲われているにもかかわらず、笑みを浮かべた。なぜなら、騎士たちの裏を取っている存在を信頼しているからだ。
「お前たちにはもっと実践を積ませた方が良かったな」
ただ待機しているだけで、騎士たちの背後を取る形になったアッシュは、元部下たちの脇腹を次々と刺していく。
「ぎゃぁああ!」
「さっさと、仲間を連れて治療室に行ってこい!」
アッシュの一喝を浴び、騎士たちはアムリテによって気絶させられたものを連れて、闘技場を出て行った。
「さて、残ったのはお前だけだが?」
リーナを含む三人のほかに残ったのは、最初に声を発した門番の男だった。
「アッシュ、今までいただきご教授感謝します!どうか、お元気で」
男は短剣を掲げ、アッシュの方向へ直進する。アッシュはレイピアを構え受けて立つ姿勢だ。
男が短剣を振りあげた。それに対し、アッシュはレイピアを目にもとまらぬ速さで、男の首に突き付けた。その一瞬で勝負は決まった。
「お前は良い騎士になるだろう」
その言葉を聞き、男は崩れ落ちる。その瞬間、ニョルデゴートとリーナ、アッシュの決闘の勝敗が決定した。
戦う相手のいなくなった決闘場から三人は出て、建物の外で話をしていた。
「二人はこれからどうするつもりか聞いてもいいかな?」
「私はメルモっていう街を目指して旅ですね」
リーナは王国で出来た目標を変えずに口にする。
「あたしは…リーナについて行くわ」
「え!?」
ついて行くと言われたリーナは驚きのあまり、大きな声を出した。
「なによ?悪い?」
「いや、私は嬉しいけど…。いいの?」
リーナは一人が好きで、一人で旅をしていたわけではない。旅の仲間ができることは願ってもないことだった。
「そうか。なら、旅立ちは明日にしてくれないか?お礼もかねて食事をご馳走したい」
「そういう事なら、ぜひ!」
時間と場所の約束を済ませると、アッシュは後の処理があるからと建物の中に戻って行った。おそらく、奴隷制度の改定や集まった貴族の対応が残っているのだろうとリーナは思った。
「アムリテ、付いてくるってほんとなの?」
「えぇ、一人より二人の方がお金も稼げるし、宿の割引も譲れないわ」
アムリテは指でOKサインを作り、反転させた。
「ありがとう!私も、アムリテが一緒なら心強いよ!」
リーナはアムリテに抱きつく。その衝撃でアムリテは倒れそうになるが、後ろに数歩戻るだけにとどめた。
「あ、そうだ。メルモとは方向が違うんだけど、ミッシェル・ヴェリルって街に行ってもいい?」
「うん。別にいいけど、どんな街なの?」
メルモを急ぐわけではないので、リーナはアムリテの申し出にすぐに了承した。すると、アムリテは唇に人差し指を当てた。
「それは、着いてからのお楽しみよ!」
結局、リーナが何度聞いてもアムリテは教えず、リーナは右手の治療をしてアッシュと約束した時間になるまで睡眠についた。
日が暮れて周囲が暗くなったころに、リーナとアムリテはアッシュとの約束の場所に着いた。そこは、一般の家よりも少し大きな、家だった。玄関をノックすると中から、アッシュの声が聞こえてきた。
「やぁ、待ってたよ」
家の中から出てきたアッシュは騎士の恰好ではなく、女性らしいエプロンを付けていた。
「料理がちょうどできたところだ。早く上がってくれ」
「お邪魔します!」
二人はアッシュの家に上がり、案内された部屋に入ると目の前には豪華な料理が広がっていた。
「もしかしてこれ、全部アッシュさんが!?」
「料理までできたのね…」
二人して驚愕していると、アッシュはフフフと軽やかな笑いをした。
「貴族の騎士になるために学んだんだ。食料もニョルデゴートから奪ってきた最高級品だから、食べてくれ!」
三人は席に着き、いただきますをして料理を口にする。どの料理も素晴らしい素材の味だけでなく、アッシュの腕前が分かるほどにおいしい物ばかりだった。
「さて、ニョルデゴートの件だが」
三人が食事を終え、デザートを食べ終わるころにアッシュは口を開いた。アムリテは料理の食べ過ぎで、ソファに眠ってしまった。
「まずは謝罪しよう。君に迷惑をかけたすまない。そして、ありがとう」
リーナはアッシュに会ってから、幾度となく頭を下げられてきたが、今回のは今迄と違い素直に受けられるものだと感じた。
「お礼を言うってことは…?」
「ニョルデゴート家には政府とギルドの職員が介入して、奴隷への過度な労働や罰を取り締まれることになった。街の中での行進も撤廃した」
その言葉を聞いたリーナは安心から、肩の力が抜けて椅子に深く倒れこんだ。
「そして、今まで奴隷たちが作った野菜をニョルデゴートが独占販売、強要取り扱いも見直されることになり、ギルドにも野菜が適正価格で売られるようになる」
「ギルドにも…。だから、ギルドは野菜がメインの料理が少なかったんだ」
軽く疑問に思っていたギルドの食堂も、野菜を大々的に各店舗が取り扱っている理由もリーナなここで知った。
「全部、君のおかげだよ。ありがとう」
「いえ、このためにアッシュさんが本気で頑張っていたのはあの決闘の中で分かりましたから」
ニョルデゴートの事を、立場の事を気にしなくなったあとの戦いでリーナはアッシュの、全ての人を救いたいという言葉に嘘がないことが感じ取れた。
「私もあの決闘は楽しかったよ。まるで、何も知らない子供に戻ったようだった」
「なんなら、もう一回しますか?約束もしましたし」
リーナはその回答を知っていながら、口に出す。
「いや、それはまた今度にしよう。君が決闘を申し込んだ理由は十分にわかったからね」
アッシュは求められた言葉をそのまま口に出す。それだけでも気持ちのいい物だと思えた。
「リーナ、何かあったら私が必ず力になろう!」
「アッシュ、困ったことがあったらまた言ってね!」
二人は持っていたグラスをお互いのグラスに当てて、夜を終えた。




