アッシュ戦3 55
「あー、あー!何を会話してるにょ!アッシュ!負けるようなことがあれば」
二人がぶつかり合おうとすると、それを邪魔するかのようにニョルデゴートの声が響いた。
「すまないリーナ。矢を貸してもらっても良いか?」
「はい」
リーナはリュックが落ちている方に駆け寄り、リュックから弓と矢を取り出した。アッシュはそれらを手にすると、最初の攻防によって弓が傷ついた箇所を撫でる。
「あとで直してあげるからね。今は使われてくれ」
アッシュは闘技場を囲っている建物に向かって弓を構える。そして、矢を放つと装飾らしき石を打ち砕いた。その瞬間、あの耳につくニョルデゴートの声が聞こえなくなった。
「これで、邪魔をするのはいなくなったね。始めよう」
どこからともなく、音楽が鳴り響く。その音楽は二人の決闘を盛り上げるかのようだった。
アッシュはリーナに弓を返して、リーナから距離を取る。リーナはそれをリュックに直すと腰から短剣を抜き、アッシュに向ける。呼応するようにアッシュもレイピアをリーナに向けると、アッシュはリーナに向かって走り出した。
アッシュはリーナを射程距離に捕らえると、右肩から左下に向けて振り下ろそうとする。リーナはその攻撃が振り下ろされる前に、短剣の剣身を合わせて押し返した。
「負傷しながらも…。すごい力だね!」
アッシュは押し返された勢いのまま後方に回転して、リーナの追撃を予め回避する。リーナはアッシュの動きを見ると、姿勢を低くして肉薄する。
「てっやぁ!」
リーナはアッシュが着地する寸前に、肩からアッシュの背中に向かって突進する。アッシュはその攻撃を受け流すことができず、顔から地面に衝突してしまった。
「全く、女の子とは思えないね!」
「冒険者らしくないですか?」
二人は笑いあい、この泥試合を心の底から楽しむ。騎士や冒険者、女性同士そんなものは関係なく二人はお互いが抱く感情をぶつけ合うように。
アッシュは起き上がり、レイピアを両手に持つ。
「二本同時でも押し返せるかな!?」
アッシュは再びリーナを射程距離に捕らえると、レイピアをバツ印に重ねてリーナの胸部に押し当てる。それはダメージを優先というよりかは、力比べをしたいかのような攻撃だった。
リーナはそれを右手に握った短剣で受ける、ことはなく右に体を逸らすことで回避した。その際に足を引っかけたため、アッシュは再び顔を地面に打ちつけた。
「今のは勝負する空気だろ!?」
「そんなの受けませんよ!こっちは片手ですよ!?」
そんな二人を見て、ニョルデゴートは我慢の限界を迎えていた。ニョルデゴートは隣についていた騎士を近くまで呼び寄せる。
「あの冒険者とアッシュを殺すにょ」
「は?いえ、しかし────」
呼ばれた騎士は動揺するが、ニョルデゴートは持っていたグラスを地面に叩きつけ有無を言わせない。
「僕に仕える騎士全員を今すぐ向かわせるにょ!」
「さて、次はどんな攻撃を───」
「アッシュ、ニョルデゴート様の命でこの決闘を終わりにします」
アッシュが笑いながら、リーナとの攻防を楽しんでいると、門番をしていた男が大勢の騎士を引き連れて闘技場に入ってきた。
「終わりということはどちらが勝ちになるのかな?それに、君は私の部下なのだから敬称を───」
「双方の絶命を持って閉幕ですよ」
門番の男は腰の長剣を抜いた。それに合わせてか、後ろに騎士たちも長剣を抜く。
「リーナ、私は頭がおかしくなったようだ」
「なんとなく考えてることはわかりますよ」
リーナとアッシュは肩を並べて、ニョルデゴートの騎士たちに剣を向ける。
「君と共闘できるのが、嬉しくて仕方ない」
そう言って笑うアッシュだが、二人は長時間の戦いで体力は底をついていた。大勢の騎士を相手にするには絶望的だった。
「あんた達、あたしも手伝ってあげるから踏ん張りなさい!」
後方からよく通る声が響き、振り向くと水の上に乗ったアムリテが飛んできた。
「アムリテ!」
アムリテが周囲に纏っている水の量は出会った中で一番多かった。
「水の魔法か…!なら、私も魔法をお見せしよう!」
そう言ってアッシュは手にしたレイピアを騎士たちに向ける。
「ボム!」
アッシュが持っていたレイピアの柄の部分が、小さな爆発をして騎士の一人を貫いた。
「火の魔法!」
「アッシュ、アムリテ頼りにしてるよ!」
リーナは頼もしい二人の味方と共に、ニョルデゴートの騎士たちに向かっていく。




