敵とのご飯 52
朝日が昇ると共にリーナは心地よい睡眠から目を覚ました。隣ではアムリテすぅすぅと寝息を立てている。
リーナはアムリテを起こさないように静かに着替え、リュックを持って訓練場に向かった。
訓練場に着くとリュックから弓と三本の矢を取り出す。そして、弓を構えては一本ずつ丁寧に撃つ。撃った矢は全て、的の中心に当たった。
「うん。落ち着いてる」
リーナは的に刺さった矢を回収して、アムリテが眠っている宿に帰った。
「アムリテ、起きて」
リーナは眠っているアムリテの肩を揺らす。
「う、んぅ…。おはよう…」
アムリテは瞼を擦り、体を大きく伸ばした。
「もう起きてるってことは、あんまり眠れなかったの…?」
アムリテは心配するようにリーナに聞いた。そんなアムリテにリーナは笑みを浮かべた。
「ううん、ぐっすり眠れたよ。弓の調子も良かったし」
「なら、良かったわ。ところで何時から始まるの?場所なら案内できるけど」
リーナはアッシュからの手紙を取り出し、もう一度読んでみる。しかし、そこには時間の指定が書かれてなかった。
「時間が書いてない…。もう間に合わない、なんてことはないと思うから、朝ごはんは適当に食堂で買って青春?ってところで食べようか?」
「そうね。間に合わないなんて言ったら、あたしが沈めてやるわ」
それから二人はギルドの食堂で朝ごはんを買った後、アムリテの案内でニョルデゴートが所有する青春という建物に着いた。
その建物の外見は特に変わった様子もなく、大きな建物という印象しか生まれなかった。門の前には鎧を着た門番らしき男が立っていた。
「あの、私はリーナと言いいます。アッシュさんはいますか?」
「あぁ、君が決闘の…。すぐに呼んでこよう」
大して警戒心を抱いていないのか、門番の男は建物の中に入って行った。
「それにしても、何で建物の名前が青春なんだろうね?」
「さぁ?戦い=汗を流す。だから、青春なんじゃない?貴族はガッコウって言うところで汗を流すみたいだし」
リーナはガッコウと言うものが分からなかったが、アムリテも深くは知らない雰囲気を出していたので聞くのはやめた。
二人がしばらく待っていると、戻ってきたのは門番ではなくアッシュだった。
「やぁ、リーナ。時間を書くのを忘れていたよ。すまない。あぁ、名前の方は街の方から教えてもらったんだよ」
アッシュはさほど気にした様子もなく、リーナに向かって手を振った。
「久しぶりです。何時からか聞いてもいいですか?」
「あと五時間ほど始める予定だよ。お詫びもかねて、ここでお茶を出そう。貴族用のだから、きっとおいしいよ」
リーナはアムリテの方をちらりと見て、判断をうかがう。その視線にアムリテは特に興味がないのか、肩を上げるだけだ。
「もちろん、そちらの魔法使いさんも一緒に」
「では、お願いします」
二人はアッシュの後ろに付いて行き、ふかふかのソファがある部屋に通された。目の前に出されたお茶からは嗅いだことのない、上品な匂いが漂ってきた。
「朝ごはんは食べてきたのかい?」
「あ、ギルドで買ってきました。少し多めに買ったので、アッシュさんもどうですか?」
リーナはリュックからサンドイッチやクレープを取り出した。
「おぉ、ギルドのは食べたことがないのでぜひお願いしたいね」
「リーナ、あたしのコーンサラダとカツサンドちょうだい!」
リーナは自分のリュックからアムリテが買った物を渡す。どうして、アムリテのカバンに入れないのか聞くと、保存の機能はついていないからだと言っていた。
「決闘の打ち合わせをしたいが、幸い時間はあるし今は食事を楽しもうか」
三人は高いお茶を飲みつつ、朝ごはんを楽しんだ。アムリテはお茶を一口、飲むと自分の水筒を取り出して、お茶には手を付けなかった。
三人が朝ごはんを食べ終えると、アッシュはまた違う匂いがするお茶を出してきた。しかし、アムリテはそのお茶も一口飲むだけだった。
「さて、決闘の方だがリーナは私の使う武器を壊してくれればいい。壊れれば私が、降参する口実になるからね」
「アッシュさんて、何の武器を使うんですか?やっぱり弓ですか?」
リーナがアッシュに尋ねると、アッシュは飲んでいたお茶を置いてソファに立てかけていたものを握った。
「私はこのレイピアだね。もっともニョルデゴートが指定したら、その武器を使うまでだが」
アッシュが手にするレイピアは光を反射するほど、綺麗に使われているのが分かった。
「大事に使ってる武器じゃないんですか?それを壊すだなんて…」
「気にしないでくれ。これもニョルデゴートが私に渡したものだ。あまり高い物ではないよ」
リーナは武器を壊すことに抵抗があったが、確かに降参を言わせるには最短だと思った。
「…ルールが何でもありってことは、あたしがリーナの味方をしてもいいわけ?」
「できればやめて欲しいな。ニョルデゴートに無効だと言わせる口実は作りたくない」
アッシュは今回の決闘でニョルデゴートを徹底的に落とすつもりだ。それには、観客となる貴族にも絶対的な敗北を認めさせなければならない。
「…アッシュさん、この決闘が無事に終わったらちゃんと決闘してくれませんか?」
「…どうしてか聞いていいかい?」
アッシュにとってこの決闘はニョルデゴートを失脚させるためのもので、リーナには勝ってくれれば何も言うことはない。
「私はアッシュさんから弓を教えてもらったので、どっちの意見が正しいのかを確かめたいんです」
「…決闘で分かるとは思えないが、そういうことなら決闘を受けよう」
アッシュはそう言うと、立ち上がり部屋の扉に手をかけた。
「この部屋は入らないように言っておこう。次に私が来るのは、決闘の開始だと思ってくれ」
「はい」
リーナは短く言葉を返し、アッシュは部屋を出て行った。アッシュが部屋を出て行くのを見ると、アムリテは靴を脱いでソファの上で寝転がった。
「あんたも寝れるなら、寝といたら?」
「ううん、短剣の手入れでもしておくよ」
リーナは短剣を取り出し、武器屋で矢と一緒に買った布で短剣を磨いきながら決闘の時を待った。




