アムリテの過去(2) 48
アムリテの過去(1)をお読みでないかたは先に、そちらをお読みください。
翌朝、あたしが目を覚ますとお姉ちゃんがきれいな服に着替えていた。
「おはよう、お姉ちゃん」
「おはよう!アムリテの服もベッドの上に置いてるから、着替えてね!そんな服じゃ、街で笑われるわよ?」
お姉ちゃんは茶化すように笑った。ベッドの上を見ると、今までの素朴な服ではなく、黄色くて可愛い服やスカート、ベッドの下には新しい靴まで用意されていた。
「お姉ちゃん、これ…」
「さ、お母さんが待ってるわよ!可愛くなったアムリテの顔を見せてあげましょ!」
あたしは何も聞けずに、用意された服に着替えてお母さんが入院してる病院まで行った。
病院に着くまでに見た街は、今まで住んでいたところとは比べものにならないほど人が居て、店があって、高い建物があった。
病室に入ると、お母さんが体を起こして窓から空を見上げていたわ。そのお母さんは髪が荒れて顔もやつれていた。抱き着くのもはばかられるほどに、弱っているのが分かったわ。
「お母さん!見て!アムリテの服、可愛いでしょ?」
お姉ちゃんが話しかけると、お母さんはゆっくりこちらを見て静かにほほ笑んだ。
「可愛いわね。アムリテ、お姉ちゃんの言うことを聞くのよ?」
「う、うん…。お母さんも元気でね」
あたしは短い言葉を残して、病室を静かに出ようとした。その場にいるのが、お母さんを見ているのが辛くなって。
「アムリテ、扉の前で待っててね。離れちゃだめよ?」
あたしは首を縦に振って病室を出た。病室の中の会話は途切れ途切れにしか聞こえなかったが、お母さんがお姉ちゃんに何度も謝っていたのじゃ鮮明に覚えてる。
お姉ちゃんが病室から出てくると、あたしの顔を見てにっこりと笑った。
「朝ごはんでも食べにいこっか!」
お姉ちゃんは優しくあたしの腕を引っ張って、病院を出る。あたしは何も言わないまま引かれて歩いた。
「アムリテは何がいい?野菜?魚?朝からお肉でもいいわよ!」
前はあんなにお肉が好きで、お肉ならいつでもいくらでも食べられると思っていたけど、そんな気になれなかった。
「……お姉ちゃん、アムリテ、魔法が使いたい」
「…魔法なら使えたじゃない!焦らなくても───」
「お姉ちゃん、お願い。あたし、魔法が使いたい!」
強くならなきゃダメだって。甘えちゃダメだって。そう思うと、今すぐにでも行動したかった。せずにはいられなかった。
「……アムリテは何になりたい?」
「あたしはもう皆と別れたくない。別れないでいいくらいに魔法で何とかしたい!」
「…そっか。なら、ギルドに行くわよ。ギルドに行って、冒険者になって自分で稼ぎなさい」
あの時のお姉ちゃんには今も感謝してる。あたしの道を示してくれたことに。幼いあたしとお母さんを一生懸命守り抜いてくれたことに。
その後、あたしは冒険者登録をして、冒険者になった。毎日毎日魔法の練習をして、お姉ちゃんと戦って、ボロボロにされた。でも、何度もぶつかって、魔力を高めた。
生活の方はお姉ちゃんに頼りっきりだったけど、あたしも空いた時間にクエストをこなして、生活費を稼いだわ。お姉ちゃんからすれば、はした金だったでしょうけどね。
そんな、生活を二年ほど続けたときにお姉ちゃんから決闘の申し出をされたの。
「アムリテ、明日の朝にギルドの試験場に来なさい。もし、あんたが勝てたらその時は…」
あたしはその言葉の先を理解できた。その晩、お姉ちゃんは部屋に帰ってこなかったわ。
朝になって、試験場に行くとお姉ちゃんとギルドの偉い人が集まっていた。
「来たわね。もう準備は出来てる?」
「うん。本気で行くよ」
試験場の座席には大量の水が入った容器が置いていたわ。それはあたしにとって、屈辱にも思えたけど、なしで勝てるなんて一切思えなかったから、黙って決闘を始めたの。
勝ち負けは簡単で、先に膝をついた方が負け。
そして、あたしは勝った。
お姉ちゃんはあたしと同じ水魔法だけを使って戦っていたわ。それに、用意された水は使わずに。そんなハンデをもらっておきながら、決着がついた時には魔力切れで倒れたなんて、勝ちと言えたもんじゃないけど。
あたしが魔力切れから目を覚ますと、お姉ちゃんの膝の上だった。
それから、あたしは村で何があったか、お父さんがどうなったか、お姉ちゃんがどうやって今まであたし達を守ってくれたかを聞いた。
村では村長が殺され、その日最後まで一緒に居たお父さんが、犯人にされたこと。それで、多額の借金を負った事。それを申し訳なく思ったお父さんが手首を切って、自殺していたこと。お姉ちゃんがその日のうちに魔獣を二体も狩って、ギルドと交渉したこと。全てを。
結局、お姉ちゃんが村長を殺したのは村長の妻だって、言ったのに村人は信じなかったそうだ。
「アムリテ、今まで黙っていてごめんなさい」
お姉ちゃんは頭を下げて、体を震わせていた。
「ううん、お姉ちゃん。今まで、ありがとう。話してくれて、ありがとう。守ってくれて、ありがとう…!」
あたしはお姉ちゃんに抱きついて、声を上げて泣いた。その時はお姉ちゃんも一緒に泣いてたかな。
二人が泣き終わると、お姉ちゃんから一本の杖を貰ったの。
「これからは、一人で生きなさい。お母さんの病院代はあたしが出すから、あんたはあんたの道を」
「ううん。お姉ちゃん、病院代は半分ずつにしよう。村に負わされた借金も、半分はあたしが返すよ」
「生意気ね。けど、それでいいわ」
あたしとお姉ちゃんは固い握手をした。
「アムリテ、どこにいてもあたし達は家族よ。何かあった時は絶対にあなたを守ってみせるわ」
「シオンお姉ちゃん、何かあったらすぐに言ってね。今度はあたしが助けて見せるから」
最後にもう一度抱き合って、あたし達はそれぞれの道に歩き出した。
「「愛してる」」




