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ミキタビ始めました!  作者: feel
2章 旅に出ます!
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アムリテの過去(1)  47


 どこから話すか迷ったけど、あたしの家族がまだ普通の家族だったころから話すわね。


あたしたちの家は村から少し離れた場所にあって、お父さんの少ない稼ぎで暮らしている貧乏な家族だったの。

 それで、あたしは小さいころからお姉ちゃんと一緒に山菜を取りに行ったり、釣りをしたりして夕飯を豪華にしてたの。


「お姉ちゃん!今日もいっぱいとれたね!お父さんとお母さん、喜ぶかな!?」


「そうね!アムリテが頑張ってくれたおかげ!二人とも褒めてくれるわよ!」


 山菜や魚が多く取れた日は、お腹いっぱい食べられるのがうれしくてね。何よりも、お姉ちゃんの優しい手で撫でられるのが大好きだったわ。


「お母さん!見て!いっぱい取れたの!」


「まぁ、こんなに!?お父さんも泣いて喜ぶわ!」


 お父さんの帰りはいつも遅かった。他の家の人たちは日が落ちるころにはもう家に帰ってるのに、お父さんはずっと残らされて、帰るのは日が落ちきってからだった。


「アムリテ、お腹空いてない?先に食べっちゃおっか?」


「ううん!お父さんの事待つ!」


 まだ小さかったあたしを気遣って、お姉ちゃんはご飯を勧めてくれたりして。でも、あたしは家族みんなで食べるご飯が一番おいしいと思ってたから、ずっと待っててね。


「ただいまー!お!今日は豪華だな!誰が取ってきたんだ!?」


「アムリテだよ。小さいからか、アムリテはよく山菜を見つけてくれるんだ」


「お父さん!今日はね、アムリテもお魚釣れたんだよ!」


 褒めて欲しくって、その日釣れた魚の中で一番大きい魚を見せたの。今思えば、あれはお姉ちゃんが釣った魚だったんでしょうね。



「そうか!アムリテももう立派なお姉ちゃんだな!」


 お父さんの手はお姉ちゃんとは違ってごつごつしてて、撫でられるたびに頭が左右に振られるの。けど、やさしさはお姉ちゃんと同じくらいに感じられた。


「さ、ご飯にしましょう。シオン、火をお願いできる?」


「うん」


 お姉ちゃんは昔から何でもできて、指を鳴らしただけで集めた木に火をつけるのもできた。


「アムリテもいつか、お姉ちゃんみたいに魔法、使えるかなー?」


「きっと使えるわよ!アムリテはあたしの妹なんだから!」


 お姉ちゃんは火でも水でも風でも、電気でさえも使えた。今のあたしより年下なのに。あの時のお姉ちゃんにすら、追い付けてないの。でも、あの時は純粋で、あたしでもお姉ちゃんみたいになれる!って思ってたわ。


「シオン、すまないが、また明日の朝に木を切ってくれるか?どうしても、と頼まれて…」


「お父さん、アムリテが寝たらね」


 その会話を当時は理解できなかったけど、きっと村の村長とかからの依頼だったんでしょうね。お姉ちゃんが報酬をもらってる風には見えなかったけど。


「さ、ご飯ができたわよ。はい、アムリテが釣った一番大きい魚よ!」


「わーい!」


「こら、アムリテ。いただきます、をしてからよ?」


 このルールのせいで、今でもいただきます、をする癖は抜けないわね。


「「「「いただきます!」」」」


 いつもと同じような魚と山菜、たまにお父さんが少ないお肉を買ってきたときもあったわね。貧乏だけど、幸せだった。


「アムリテは将来、何になりたいの?」


寝る前にお姉ちゃんがそんなことを聞いてきた。


「んー!偉い人になりたい!」


「偉くなって、何をしたいの?」


「お父さんとお母さん、お姉ちゃんと一緒にお腹いっぱいお肉が食べたい!」


 子供の頃は職業なんて知らなかったし、それが自分の中での一番の贅沢だった。


「お姉ちゃんは!?お姉ちゃんなら、何でもできるよね!」


「どうして?」


「だって、お姉ちゃんは魔法が使えるし、頭は良いし、可愛いもん!」


 あたしの中でお姉ちゃんは完璧だった。何でもできる、何にでもなれると本気で思っていた。


「ありがとね。けど、あたしはそうは思わないの」


「どうして?」


「魔法が使えるって言っても、魔力が切れたらおしまい。頭がいいのも年齢のわりには、だし。可愛さなら、アムリテには負けてるわ」




 それから少し経って、あたしが十歳になったころに事件が起きたの。


ドンドンドン


 家の扉が何回も強く叩かれる音であたしは起こされた。その音が怖くて耳を塞いでいると、お姉ちゃんが優しくなでてくれてね。お父さんと二人で、家の外に出て行ったの。


「アムリテ、ちょっと待っててね。そうだ、山菜でも取ってこれる?」


「嫌だ!お姉ちゃんと一緒がいい!」


 その時のあたしはお姉ちゃんと離れるのが嫌でたまらなかった。ここで、別れると一生会えないような気がして。


「アムリテ、もう子供じゃないんだから。分担もできてたんだし、大丈夫よね?」


 その時のお姉ちゃんは少し怖かった。初めてだった。そんなお姉ちゃんを見るのは。


「…お姉ちゃん、帰ってきたら魔法、教えてね」


「……うん。帰ってきたらね」


「約束だよ!?」


 その約束をした後に、お姉ちゃんとお父さんは村の方に走って行っちゃったの。


「アムリテ、今日はシオンがいないから山の奥まで行っちゃだめだよ」


「うん。お母さんも寝ててね」


 あたしのお母さんは数年の間に足が悪くなっちゃってね。結局、その日はあたし一人で山菜を取りに出かけたわ。



「あった!こっちにも!お姉ちゃんたちもう帰ってるといいな…」


 いつもはお姉ちゃんが釣りであたしが山菜だったけど、その日はあたしだけだから多めに取ってたの。気づけば、日は沈みかけてて急いで家に帰ると、家の中には寝たきりのお母さんしかいなかった。


「アムリテ、遅かったね?何もなかった?」


「うん。ちょっと多めに取ってたの。お姉ちゃんたちは?」


 まだ、お父さんが帰ってくる時間じゃない。けど、お姉ちゃんも一緒に行ってたし、お姉ちゃんだけでも帰ってるものと思ってたの。


「お姉ちゃんが一度帰ってきて、今日は遅くなるから先に食べてて、ってさ」

「そっか。じゃ、先に料理だけするね!」


 お姉ちゃんの料理には勝てなかったけど、あたしも少しはできるようになった料理の準備をしだした。火はお姉ちゃんがいないから火種から起こして、乾燥させてた魚と火を通した山菜を用意して、待ってたの。お姉ちゃんが帰ってきて、びっくりして、褒めてくれるのを。



「ただいま…」


 二人は今まで見たことのないような顔をして、家に入ってきた。帰ってきたのは料理が冷め切って、いつもならもう寝てる時間だった。


「お帰り、遅かったね…」


 あたしは眠気と空腹で、少し機嫌が悪かった。でも、料理を見たお姉ちゃんが褒めてくれるだけで、嬉しくなれると思っていた。


「これ、アムリテが作ったの…?」


「うん、そうだよ!」


 気づいてくれた!褒めてくれる!そう思っただけで、自然と笑顔になった。


「ありがとね。明日にでも、食べるわ…」


「……え?いま、食べないの?冷めちゃうよ…?」


 もう冷め切ってたんだけどね。あたしは頑張ったのを褒めて欲しかった。ううん、褒めてくれる前に食べて欲しかった。


「ごめんね…。今、食欲が無いの…」


 あたしは悲しかった。だから、あんなことを言っちゃったのかな。


「お姉ちゃんのバカ!アムリテ、頑張ったんだよ!?一人で、取りに行って!一人で、料理して!帰ってくるまで、待ってたんだよ!?」


 あんなに泣いたのは初めてだった。褒めてくれないのも、食べてくれないのも、元気のないお姉ちゃんを見るのも嫌だったから。


「ごめんね…。でも、先に食べてて、って…」


「聞いてないもん!お姉ちゃんから、聞いてないもん!」


 わがままで屁理屈で、けど、悲しい気持ちが止まらなかった。その時は謝ってほしくなんてなかった。今でもどうしてほしかったのかは分からないけど。


「アムリテ、今日は疲れてるから、また明日ね…?もう子供じゃない──」


「子供だもん!ご飯はみんなで、いただきますしてからだもん!」


パン!


 その時、何をされたのか分からなかった。後から来た痛みで、お姉ちゃんがあたしの頬っぺたを叩いたっていうのが分かった。


「アムリテ!わがまま言わないで!ちょっとは、あたしのことも──」


 そこまで言って、お姉ちゃんの言葉は止まった。あたしがお姉ちゃんの顔を見ると、お姉ちゃんは涙を流していた。


「お姉ちゃん…?」


叩かれたことよりも、それが何よりの衝撃だった。いつも笑っていて、完璧だったお姉ちゃんの泣いてる姿なんて、想像もできなかったから。


「……叩いてごめんね。とにかく、今日は寝ましょう」


 それで、あたしとお姉ちゃんは布団の中に入ったの。あたしは空腹でろくに眠ることなんてできなかったけど。隣の布団からは、一晩中泣くのを抑えている声が聞こえたわ。



 翌朝、目を覚ますとお姉ちゃんが火を使って料理をしていた。


「あ、アムリテおはよう!もうちょっとだから、椅子に座っててね」


「うん…」


 朝に見たお姉ちゃんはいつも通りの完璧なお姉ちゃんだった。でも、あたしは昨日のことが忘れられなくて、不安だった。


「はい!お待たせ!」


 お姉ちゃんがあたしの前に置いたのは、昨日あたしが作った料理だった。


「お姉ちゃん、これって…?」


「そう!昨日、アムリテが作ってくれたのよ!温め直したから、食べましょ?」


 そう言って、四人でいただきます、をしてあたしの料理を食べた。その料理に入れた覚えのない香辛料の味がしてね。やっぱり、お姉ちゃんだなぁって。


 四人で食事するのが久しぶりのような気がして、とてもうれしかったわ。


「そうだ!アムリテ、食べ終わったら魔法を教えてあげる」


「ほんと!?」


 その言葉で、昨日のことが全部どうでもよくなったわ。だって、今までずっと教えてくれなかった魔法を教えてくれるって言うんだもん。


「アムリテはどんな魔法が使いたい?」


「アムリテ、火がいい!料理とか、寒い時に便利だもん!」


「火は便利だもんね!それじゃ、早く食べちゃいましょ!」


 それで、あたしとお姉ちゃんは食べ終わってからすぐに山に行ったの。



「それじゃ、アムリテ、後ろを向いてね」


 お姉ちゃんの言う通りに、あたしは後ろを向いた。そしたら、お姉ちゃんがあたしの背中に手を当てたの。その瞬間、体が熱くなったわ。


「お姉ちゃん、これ何!?」


「今、アムリテの体に魔力を送ったの。あたしが火をつけるから、アムリテはそれに魔力を送ってみて」


 お姉ちゃんが指を鳴らすと、落ちていた一枚の葉っぱが燃えて、周囲の葉っぱはどこかに吹き飛ばされた。その燃えてる葉っぱに向かって、あたしは何度も指を鳴らしたわ。


「アムリテ、両手を広げて指先から、見えない力を送る感じよ」


「むー!」


 お姉ちゃんに言われた通りにするけど、全く火が変化する様子はなかったわね。


「お姉ちゃん…。アムリテ、魔法使えないの…?」


 あたしは泣きそうになって、お姉ちゃんの方を見た。そしたら、お姉ちゃんは火の下の方を指さしたの。


「アムリテ、ほら見て!」


 あたしも火の下の方を見たら、地面から水が少しだけ出てきて火を消したの。


「アムリテ、すごいわ!アムリテは水の魔法が使えるんだわ!」


「ほんと!?でも、アムリテ火が…」


 ずっと火が使えるものと思ってたからね。もちろん、魔法が使えたことは嬉しかったけど。


「水でもすごいわよ!それに、あたしは水の魔法は苦手だから、アムリテが使えると助かるなー?」


「ほんと!?じゃあ、アムリテ、水の魔法使う!」


 お姉ちゃんが苦手な魔法なんて、なかったのにね。毎日の飲み水もお風呂も、お姉ちゃんが用意してくれてたし。


「それじゃ、山菜と釣りをして帰ろっか?」

「うん!」



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