水の魔法 43
朝食を食べ終えたリーナは、二日後の決闘で少しでも弓を使えるようにと、訓練場に籠っていた。アッシュから教わった姿勢を思い出し、弓を引く。的に狙いが定まると、矢を放つ。矢は的の中心に真っすぐ向かい、中心のわずか上に突き刺さった。
「うまくはなってる…。けど、アッシュ相手だと、止まってくれるはずもない…」
リーナは弓を購入してから、三日目で的に当てるだけなら安定した。しかし、生き物、ましてや人間が相手の撃ち合いをしたことがない。動いているものに当てられるという自信がついていなかった。
「動いてくれる的があったらいいんだけど…」
そこまで考え、リーナはある事を思い出した。それは、パーツとのクエストで一匹のホーンラビットに短剣を投げ刺した時のことだ。
「あの時みたいな的があれば…。ギルドで聞いてみよう!」
リーナは考えがまとまると、すぐにギルドに走り、討伐クエストを受けることを決めた。
ギルドに着くと、例の女性が受付にまだ座っていた。リーナがその受付に近づくと、あちらも手を振ってくれた。
「今度はどうしましたか?」
受付の女性はリーナに笑顔で聞いた。明朝に訪れたというのに、昼前に来たのだ。面倒くさいと思われるかも、と思っていたリーナは少し安心した。
「えっと、何か受けられるクエストがあるかなって…。あと、名前を聞いてもいいですか?」
受付の女性は間の抜けた顔をした後に、噴き出した。
「あはは!そう言えば、まだ名乗ってませんでしたね。私は、リンリンって言います」
「リンリンさんですね!私はリーナって言います!」
「知っていますよ。地図をお渡しする際に、冒険者カードを見せてもらったので!」
そう言えばそうだったと、リーナは自分だけ相手の名前を知らなかったことに、恥ずかしくなった。
「えっと、クエストを受けたいとのことでしたよね?何か希望はありますか?」
「希望…。討伐系で、なるべく小さくて、あと数は多い方がいいです!」
リーナは弓の練習ができそうな内容を伝える。リンリンはその希望に沿ったクエストを探し出す。
「これなんてどうでしょうか?既に他の方も向かっていて、共同にはなりますが」
リンリンから一枚の紙を受け取り、内容に目を通すとそこには、害鳥ハタアラシの駆除と書かれていた。
「これは、これから畑にしよう!っていう土地に群れている鳥でして、一匹一匹は簡単に狩れるんですけど、何分数が多くて…。報酬の方は、一匹ごとに三百エルです」
一匹三百エルということは、二匹倒すとギルドでの一食分となるわけだ。矢の数は心もとないが、練習するにはちょうどいいクエストだ。
「リンリンさん、このクエストでお願いします!」
そうして、リーナはリンリンから詳しい説明を受けて目的地に向かった。
リンリンに説明された土地に着くと、そこはある程度が平地になっており、そこから先は雑木林が生えていた。辺りからはチュンチュンと鳥の声が聞こえた。
リンリンが言うには、この声の主ハタアラシを駆除せずに木を伐採すると、農作物が出来上がるころに戻ってきて、食べつくしてしまうそうだ。
「そんなに広くはないけど、一日でとかは無理そうだなぁ」
一通り雑木林を一周すると、ハタアラシの多さがよくわかる。上を見れば一本の木に二十匹ほどの姿があり、下を見れば大量の糞があった。
「そういえば、先に来てる人ってどこにいるんだろう?」
雑木林を一周してみても、その姿は見えなかった。そう考えていると、雑木林の中からガサガサという音が聞こえた。糞を踏むのには抵抗があったが、雑木林の中に入ると、リーナと同じ年齢くらいの少女がいた。
その少女の周りには水が球体をなして浮いており、一匹のハタアラシを睨むと、球体になっている水が細い針のように変わり、ハタアラシの体を貫いた。体を貫かれたハタアラシは静かに地面に墜落した。
「水の魔法…!」
リーナは初めて見る魔法に感動し、口に出すとその少女がこちらに気付き近づいてきた。
「あ、始めまして!私はリーナ。あなたの名前は?」
「うるさい!ここは、あたしの狩場なの!鳥を狩りたいなら、離れたところで勝手にやって!」
少女はリーナに向かって、怒鳴ると再びハタアラシを狩り始めた。
「えぇ…」
リーナは何か少女の気に触れることでもしたのかと思い、おとなしくその場から離れる。
「まぁ、気にしても仕方ないし、私も練習しないと!」
リーナは気持ちを改め、リュックから弓と矢を取り出す。そして、近くのハタアラシに狙いをつけると、弓を構えてから矢を放つ。その矢はハタアラシの体を貫く──ことはなく、ハタアラシは矢が当たる寸前に飛びだってしまった。
「やっぱり、簡単にはいかないよね!」
こんな簡単に当たってしまっては、練習の意味がないと気を引き締める。そして、リーナは次々とハタアラシめがけ矢を放った。
矢の残りが数えるほどになった時点でリーナが狩れたハタアラシの数は、三匹だった。
「やっぱり、生き物相手だと難しいなぁ…」
リーナは弓の調子は悪くはないと思っていた。実際に、放った矢の多くは狙い通りの軌道を描いているし、力加減にも確かな感覚はある。
リーナは再び、ハタアラシに狙いを定めて矢を放った。しかし、ハタアラシはリーナの手から弓が離れた瞬間に、ハタアラシは木から飛び立ってしまった。
「うーん、狙いをつけても飛ばれるとなぁ…」
リーナは一度弓をリュックにしまい、矢の補充と夜食を買うためにリーロットに帰るため、雑木林を出ると、水の魔法を使っていた少女が雑木林から出るのが見えた。
「おーい、水の子ー!今、帰りー?」
リーナが少女に声を掛けると、少女は驚いたようにリーナの方向を見ると、急ぎ足でリーロットの方へ向かった。
「ちょっと、待ってー!」
リーナも少女を追いかけて、リーロットの方へ走って向かった。




