アッシュからの手紙 42
リーナはまだ日が昇り切っていない時間に、空腹で目を覚ました。アッシュと別れた後に、そのまま晩御飯を忘れ眠ってしまったのが原因だろう。
「この時間から食べられるとこって、あるのかなぁ…?」
ギルドで貰った冊子に載っている、施設の営業時間を見てもあと二時間後になっている。
ぐぅうう…。
「うう…。リュックにあるのを食べるのもなぁ…」
保存リュックの中には、もしもの時のためにいくつかの食糧は入れている。しかし、せっかく野菜の街に来たのだから、店で野菜を食べたいという欲求がある。
それとは別に、昨日の件で曇った気持ちを晴らしたいというのもあった。
「んー、とりあえず外に出てから考えようかな」
リーナは宿から出て、大通りの方を目指す。昼間や夕方が汗の出る季節になったとはいえ、夜明けはまだ肌寒さがある。
通りに差し掛かると、各店舗はまだ開店していないことが分かった。困り果てて適当に歩いていると、食欲をそそる匂いがリーナの鼻を刺激した。
「もうやってるお店が!?」
リーナは匂いのする方向に足を進めると、その匂いは見覚えのある建物から出ていることが分かった。
「そっか、ここなら何時でもやってるじゃん!」
その建物はこのリーロットに来てから初めて訪れたところで、地図や冊子を貰ったギルドだった。リーナがその建物に入ると、匂いは強くなり、再びお腹の音が聞こえた。
「やっぱり、ここのギルドもおいしい野菜を出してくれるのかな?」
期待に胸を弾ませ、食堂らしきところに向かって歩く。
「あ!そこの冒険者さーん!」
受付の方から声を掛けられて、そちらに目を向けると、リーナに地図と冊子を渡した女性が呼んでいた。
「呼びましたか?」
リーナは受付に近づくと、女性は一枚の手紙を差し出した。
「ニョルデゴートの騎士から手紙を預かっていまして、一度はお断りしたんですけど、事情があるようでしたので、お渡しいたしますね」
ニョルデゴートの騎士、恐らくアッシュの事だろうと思い、リーナは手紙を受け取る。
「わざわざ、ありがとうございます!」
リーナは手紙を受け取ると、すぐに封を切って中身を見る。そこには、決闘の日時や場所、決まりなどが書いていた。
「あの、冒険者さん。こんなことを聞くのもなんですけど、ニョルデゴートと戦うんですか?」
受付の女性はリーナを心配するように、尋ねてきた。その様子で、どれだけ貴族が大きい存在かが分かる。
「ちょっと、許せないことがあって。でも、心配しないでください!」
リーナは女性を心配させまいと、明るく振る舞う。すると、女性は肩を震わせ始めた。
「あの、大丈夫ですか…?」
「応援してます!頑張ってください!」
リーナはあまりに唐突な言葉にキョトンとする。
「あの子豚の鼻と腹肉をそぎ落としてやってください!」
「あ、あのー?」
「毎日毎日、あの最低な音楽ばっかり鳴らして!あれのせいで、こっちは頭痛に悩まされてんですよ!そもそも、あの子豚は何もしてないのに、あんなに威張り散らして──」
その後も、数十分間受付の女性によるニョルデゴートへの愚痴に付き合った。
受付の女性から解放された後、リーナは食堂でメニューの注文をした。しかし、メニューの違和感に気付いていた。
「野菜がメインになってない…」
リーロットの街はほぼすべての飲食店が野菜をメインにメニューを作っていたのに対し、ギルドのメニューはバランスよく肉系や魚介系のメニューもあった。
「五番でお待ちの人―!」
注文を済ませた時に貰った番号札の番号が呼ばれたので、注文を取りに行き朝食を食べ終えた。ちなみに、野菜がメインではなくとも、リーナは食堂のご飯に満足して完食した。
アッシュからの手紙
拝啓、名前の知らない冒険者様へ
なんて、堅苦しいのは省略させていただくよ。それと、名前は知らないので君と書かせてもらおう。
決闘の日程の方だが、三日後に決まった。これを書いているのが、君にぶたれた後なので、二日後になるか明日になるかは分からない。もしかしたら、当日になっているかもしれないね。
次に場所の方だが、ニョルデゴート様が所有しているニョルデゴートの青春という建物に決まったよ。名前は悪趣味だが、建物自体は普通なので安心してくれ。もしかしたら、場所が分からないかもしれないがそこはギルドの職員にでも聞いてくれ。
三つ目がルールだね。基本は何でもありだけど、故意の殺傷だけは禁止となっている。つまり、事故なら仕方ないということだから、十分気を付けてくれ。君も殺傷能力が高い毒は勘弁だが、麻痺毒なんかは用意しておいた方がいいかも知れない。
そして、これは決闘とは関係ないが報告だ。君が助けた女性はしっかりと治療して、今は安静にしている。それと伝言で、ありがとう、と。
願わくば、君との決闘が平和に終わることを。
ニョルデゴートの騎士 アッシュより




