デルゴン戦3 31
「……」
「ごめん、ね。バレン。お家に返せなくて……」
リーナは涙をこらえて、バレンに笑いかける。
バレンは無言のまま短剣を握り、立ち上がる。そして、起き上がれないリーナの傍まで近寄ると耳元で
「……あ、り、が、と、う」
バレンはその言葉の後に、リーナの背中めがけて短剣を振るった。その場に真っ赤な血が流れ、バレンはリーナの上に倒れた。
「…。意外と退屈だったな」
デルゴンは不満そうに、呟いた。リーナとバレンに興味をなくしたのか、デルゴンは再び木を失いかけているミサキに近づく。
「今度は、もうちょっと楽しませてくれよ?」
デルゴンはミサキの頭を掴むと、ネルの前に放り投げた。ネルはミサキが地面にぶつからないよう、体で受け止めた。
「そいつの毒は抜かずに、意識だけ覚まさせろ」
ネルは首を横に振る。
ここでミサキが起きても……。なら、もうネルも眠りに────
ネルが自身に魔法をかけようとしたときに、デルゴンの後ろに人影が見えた。その気配にデルゴンも気づ
いたのか、後ろを振り返る。
「お前、刺されたはずじゃ…。そもそも、その足でどうやって立っている!?」
ネルとデルゴンが見た人影は、体は魔獣の突進やデルゴンに。足もデルゴンによって執拗に破壊されたはずのリーナだった。普通なら立つどころか、死んでいてもおかしくない状況だ。
「デルゴン、貴様はどうしてこのようなことをする」
「あぁ?」
草木の間から漏れ出た月の光がリーナを照らす。ネルには真っ黒だったはずのリーナの髪が月の光のせいか、輝くほどの白になっているように見えた。
「デルゴン、貴様はどうして冒険者になった」
デルゴンに問いかけるリーナの目は、無機質で感情を読ませない。周囲の全てを感じられるはずのネルですら、目を開けなければリーナを認識できない。
「お前には関係ねぇ!」
デルゴンが懐から短剣を出し、リーナに向かって駆け出す。その動きに対し、リーナは一切反応しない。
「死ね!!」
デルゴンはリーナの首筋めがけ、短剣を全力で振るう。しかし、その剣はリーナの直前で動きを止めた。
「な!?」
デルゴンは何度も短剣を振るい、リーナの命を断とうとする。しかし、全ての攻撃はリーナに触れることなく止まる。
「何をした!?」
デルゴンは短剣を捨て、リーナの顔を素手で殴ろうとする。しかし、その拳もリーナの前で等しく止まる。
「デルゴン、貴様はどうして生まれてしまった」
リーナは静かにデルゴンの右腕を掴んだ。その動作は極めて遅く、回避は造作もないことだった。
「賤しきものよ」
リーナは掴んだデルゴンの右腕を軽く引き寄せる。それだけでデルゴンの体と右腕は離れてしまった。
「ぎゃああぁあ!」
デルゴンは悲鳴を上げて、地面に転がりまわる。そんなデルゴンをリーナは見下しながら、左足を掴んだ。
「やめてくれ!悪かった!もう────」
デルゴンは涙を流しながら、懇願する。だが、リーナは言葉を待たずして左足と体を引き離す。そこで、
デルゴンの意識は途絶えた。
「…リー、ナ?」
ネルがリーナに向かって声を掛けると、リーナは周囲を見渡した。そして、倒れているバレンに近づく。
「……」
リーナが無言のまま、手を置くとバレンの体が強い光に包まれた。しばらくして、光が消えるとリーナはミサキにもバレンと同じことをした。
「息が…」
すると、弱弱しくなっていたミサキの息が安定し、デルゴンの毒も完全に抜けていた。ミサキから光が消えると、リーナはその場に倒れこんだ。
「リーナ!?リーナ!?」
ネルがリーナの体を揺すると、リーナはただ眠っているのが分かった。そして、白に見えていた髪は真っ黒に戻り、重症だった体には何一つ傷がついていなかった。
「デルゴンは…?」
ネルは倒れているデルゴンの方を見ると、そこにはリーナによって、右腕と左足を奪われたはずが、しっかりと四肢が残っているデルゴンが転がっていた。
「……幻覚、魔法?」
ネルはリーナを見つめるが、当分起きそうにない。三人をネル一人では村にまで運べないので、デルゴンを縄で縛りあげた後バレンを近くまで抱え、夜が明けるのを待った。




