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ミキタビ始めました!  作者: feel
4章 決闘の街
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魔族と人間 291


 白一色に染まった視界が徐々に色彩を取り戻していき、リーナが霞む目を拭うと、そこはリーナとヒイロが戦っていた更地だった。


「ヒイロ!」


 リーナは地面に倒れているヒイロの姿を目にし、駆けつける。


「…………んぅ。リーナ、さん……?」


 リーナの声に気付いたのか、ヒイロは寝ぼけているような口調と表情でリーナの名前を呼んだ。


 その仕草にリーナは感極まり、横になっているヒイロに抱きついた。


「戻ったんだね!?良かった!良かったよぉ!」


 リーナは涙を流しながら、ヒイロを抱きしめる。ヒイロは驚いた表情を浮かべるも、抱きつくリーナの背中に腕をまわし、その頭を強く抱いた。


「ありがとう、ございます……!リーナさんが、私を救ってくれたんですよね……!」


「覚えてるの!?まだ記憶が……?」


 リーナは長剣によって書き換えられた記憶を戻したわけではない。アムリテの姿をした何かを刺したのも解決できるという確信があったわけではなかった。


「戻った、訳ではないです。ただ、魔族に皆さんが殺された記憶と私の知っている記憶の二つがあるんです」


 長剣が魔族に対しての恨みを持たせるために書き換えた記憶。そして、ヒイロが生まれてからこれまでに体験した記憶。その二つがヒイロの中で共存している。


「どっちも本当にあったことみたいで、いつまた暴走するか分かりません。ですが、今は目の前にリーナさんがいる。それだけで、魔族が出てくる記憶は嘘なんだな、って思えます」


「……そっか。ごめんね、ちゃんと消せなくて……」


 魔族によって親しい人物が殺された記憶を持つということはヒイロの心が揺らいだ時、ヒイロは本当の記憶を信じられなくなり、また勇者に戻る可能性があるということだ。


 あの状況にいた自分ならもっとうまくやれたのではないか。


 そんな後悔がリーナの中に生まれるが、ヒイロは一度リーナから体を離し、その瞳を見つめた。


「謝らないで下さい。リーナさんがいなければ、私はどうなったいたか……。もしかしたら、魔族だけでなく、オーナーやアムリテさんまで……。だから、ありがとうございます。リーナさんは私の恩人です」


 ヒイロは笑顔を作り、感謝を述べた。その笑顔にリーナは涙があふれ、再び抱きついた。


「お帰り……!ヒイロ!」


「ただいま、です!」


 二人はしばらく抱き合ったまま涙を流し、しばらくしてからアムリテ達の元へと歩き出した。



 

「……ヒイロ!あんた!?」


 気に体を寄せて休んでいたアムリテは、リーナに手を引かれるヒイロの姿を見て飛び起きた。


「もう、治ったの……?」



「……アムリテさん、私、すみませんでした!」


 ヒイロは操られていたとは言え、アムリテを殺そうとした。それはヒイロ自身にとっても許すことのできない行為だと思っていた。


 アムリテは深々と頭を下げるヒイロを見つめ、少しの間を置いてゆっくりと近寄る。そして、アムリテはヒイロの前で腕を上げた。


 ヒイロは目を瞑り、叩かれる覚悟をした。殺そうとしたのだ。叩かれる覚悟などとうに決まっていた。むしろ、それだけでは償いきれないと。


「……え?」


 だが、ヒイロが感じたのは叩かれた衝撃ではなく、優しく頭を撫でられる感触だった。


「そんな……!私はアムリテさんを……!」


「殺されそうになったわ。でもね、私もあんたを殺そうとした。ううん、ただ弱かったから殺せなかっただけ。殺せるなら、殺してたわ。それも二回も」


 アムリテはシャートやヨイラと共にヒイロと遭遇したときに一回。そして、ヒイロがリーナの胸を貫いている光景を見た時に一回と、合計で二回の殺意を抱いていた。


「だから、あいこにしましょ。それで許してくれるかしら?」


「そんな、そんな……!アムリテさん!」


 直前まで大量の涙を流していたヒイロ。だが、ヒイロはまたしても大量の涙を流して、アムリテの胸へと飛び込んだ。


 子供のように泣きじゃくるヒイロを、アムリテは目端に涙を浮かべて優しく撫でた。


 そんな二人の横で、ソリューシャが静かにリーナの隣へと歩み寄っていた。


「リーナ、何をした?あいつからはまだ勇者の気を感じる。なのになぜ、あいつは自我を取り戻してる?」


「友達の力、だよ!あはは」


 リーナは冗談交じりに笑いながら答えるが、そんな簡単な話ではないことは深く理解している。


「……ヒイロはまだ戦ってるんだよ。自分の記憶と。だから、ソリューシャ。ヒイロを認めることは難しいかも知れないけど、今はそっとしておいてくれない?」


「……どのみち私にどうこうできる相手じゃない。だが、覚えておけよ?勇者とは魔族を殺すためだけの存在であり、魔王の天敵だと。もしあいつが修行を積み、万が一にも勇者の力を使えば、その時は魔族が滅ぶだろう」


「そんなことにはならない。私がさせない」


 リーナはまっすぐとソリューシャの瞳を見つめ返し、断固とした意志を見せつけた。


 その意志を感じたソリューシャは緊張を解き、ふっと笑いを浮かべた。


「そうか。魔王様の決定なら文句はない。私はもう行く。お前の旅はもう少しかかるのだろう?マクトやメア達には元気にしてたとだけ伝えておくよ」


 ソリューシャはリーナに背を向けて歩き出した。


「ソリューシャ!ありがとう!ソリューシャがいてくれなきゃ、私ダメだったから!」


 ソリューシャはリーナの声に右腕を上げ、その場から消え去った。


 ソリューシャの気配が消え、リーナがアムリテとヒイロに近寄ろうとすると、リーナの脳内にあの性別が分からない声が響いた。


「いつか貴様は勇者に殺されるであろう。魔王と勇者の共存など、あり得はしない」


「……魔族と人間は友達になれるよ。だって、私達はこんなに分かり合えたんだから」


 その言葉を残し、リーナは二人の元へと走り寄った。




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