第12話『アクションパズルゲームを作ろう』
ネガティブ・パーソンズ3と呼ばれる中学三年生の少女。
彼女は現在アクションパズルゲームで、ネット対戦をしていた。
最初は優勢に進んでいくが、相手に粘られ、徐々に追い込まれていく。
最後には、少女のミスに付け込まれ、そのまま敗北した。
「……ありがとうございました、と」
相手に挨拶をして、ゲームコントローラーを投げだし、少女は肩を落とした。
「これで五連敗、ランキング落ちだな」
少女はソファに身を投げて、そのまま目を閉じる。
昨日、少女は学校で将来の夢について教師から問われた。
バカバカしいと思いつつも、誰かの役に立つ仕事をしたいと適当に答えた。
しかし、その時から今まで、どうしてもその時の自分の言葉が何をやっても頭をよぎり、物事に集中できなかった。
おかげで学校に遅刻し、授業を間違え、忘れ物をして、何度も恥をかいた。
その事を忘れるために、帰宅してからゲームに熱中しようとするが、どうしても頭から離れない。
「……将来の夢ねえ」
”将来の夢というのは今の自分から始める事。未来とは今のうちから進まないと、いつまで経ってもどこにもいけないし何も作り出さないわ。もちろん焦る必要はないけれど”
先生の優しい催促の言葉。自室の天井に向かって少女は返事をした。
「そんなこと言われたら、焦るっつーの」
少女は将来について考えるが、何も思い浮かばない。目を閉じても暗闇しかない。
いっそ誰かに道を与えられたいと少女は思うが、きっとそんな道はひねくれた自分は途中で投げ出すだろうとわかっていた。
「コンピューターゲームを止めて、努力に時間を割くのは別にいいけど、その努力したい何かが見えない。う~ん」
片っ端から手を出すのもいいかもしれないと考えるが、肉体労働の上に時間を無駄にする事が、半端に賢しいと自身で思っている少女にとっては、どうしても受け入れ難かった。
「若い頃しか好きな事は出来ない」という好きな事を諦めた大人の言葉には耳を貸したくなかったが、今はその言葉に甘えてただ自室にこもってしまう。そんな自分に嫌気がさしていた。
ゆっくりと進むタイムリミットに、ただ焦燥だけが募る。少女はただ自分勝手に苦しんでいた。
コンピューターから音が鳴る、機械音声で流すと例のゲーム制作者から、新しいゲームが出来たとの声だった。
「『アクションパズルゲーム』か、それVRでやる意味あるの?」
それは少女が最も好むゲームジャンルだった。
少女は身を起こし、テストプレイヤーとしての責務を果たそうと考える。とにかく何かをしている事で、思考から逃れたかった。
アグリゲーションを被り、送られたゲームを起動する。
「もしクソゲーだったら、こき下ろしてやる」
少女は仮想空間へとダイブした。
「つまんないし、意味わかんないんだけど」
少女ことネガティブ・パーソンズ3は、開口一番にエンドへとそう告げた。
エンドの作り上げたアクションパズルゲームは、説明では「落ち物」と呼ばれるタイプのパズルゲームだった。
バラバラに積まれた0~9の数字のブロック、そこに上から数字のブロックを落として同じ数字三つを並べる事で消滅させるというもの。時間ごとに地面からブロックが追加されせり上がってくる。
うまく消す事が出来ず、天井に届くと敗北。逆に五分間、天井まで届かなかったらプレイヤーの勝利となる。
「落ち物」としては至ってシンプルな内容。
説明だけ見れば、そんな簡単なゲームだった。
問題があるとすれば、これはVRゲームであるという事だった。
ゲームを始めると、自身には肉体があり地面に立っている事がわかる。
そしてプレイヤーの目の前の地面に、直径が大人の身長五人分はある巨大な穴が開いていた。
穴を覗き込めば、サイコロ形のブロックが敷き詰められていた。
サイコロ系のブロックはそれぞれ一つずつ、面に数字が書かれている。よく見ると0~9の数字それぞれ一桁が書かれていて、それがバラバラに置かれていた。
穴の側にはいくつものモニターがあり、その画像にはどこに何の数字があるのかがわかるように、横や斜めからの視点でそれぞれ表示している。
そして穴の中にあるブロックと同じブロックが、プレイヤーの横に突然に現れ、置かれる。
それ自体は軽く、簡単に持ち上げられる。
そしてプレイヤーは穴の中にそれを投げ込むのである。投げ込むとまた数字の掛かれたブロックが横に置かれる。
同じ数字のブロックが三つ並べば消える、そして足元まで来たら敗北とシンプルな点は変わっていない。
アクションパズルゲームに求められるのはいくつもの数字を消す為の思考速度、そして素早く行動する反応速度である。
だがこのエンドが作り上げたゲームには、さらに狙った所に投げる投擲能力と、走り回る運動能力を求められた。
ゲーム内で走り回っても疲労はしない。しかし、やはり走り方の理解が体で覚えているかどうかは重要だった。
こうしてプレイヤー達は走り回り、ブロックを投げ込み、モニターを見て次の投げ込む場所を考えるというのを即座にやらないとならない。
ちなみに人間の反応速度を理解していないエンドだが、適当にブロックの天井へと上がる速度を決定した結果、奇跡的にわりと人間に適した速度となった。
ゲームなのに全身を動かし続ける羽目になったネガティブ・パーソンズ達。
家に引きこもったうえに、かつて文芸部だった運動不足のパーソンズ1。
若さはあるが、ゲームばかりの帰宅部であるパーソンズ3。
これまた運動は不足気味のパーソンズ4。
老人であるパーソンズ5。
生まれつき体が弱いうえに、まだ十歳のパーソンズ6。
上記の5人は運動能力も投擲能力も低く、ゲームに振り回されるだけ振り回されて全くクリアできなかった。
唯一、学生の頃は陸上部で今でもスポーツジムに通うパーソンズ2だけが十回ほど挑戦してクリアした。
青空の空間、地面だけのVR世界。エンドが作り出した報告会の為の仮想空間にネガティブ・パーソンズが集まり、パーソンズ3を筆頭にそれぞれ口を開く。
パーソンズ6も、パーソンズ3に続いて非難する。
「何でゲームでこんな全身運動しなければならないんだ!」
ゲームなのに、疲労で倒れかけたパーソンズ5も文句を言う。
「明らかにゲームじゃないわよぉ、これ!?」
「そもそも追い回される気分だけで、ゲームをしている快感が無いんだよお!」
パーソンズ1もゲームなのに運動をさせられ、自身の運動不足を遠回しに指摘された気持ちで気分を害し、批判する。
「私としてはちょっと面白かったけれど、う~ん、三回やったら飽きるわ」
ゲームの中とはいえ、久しぶりに走り回ったパーソンズ4が少し肯定した。
「ゲームがシンプル過ぎる上にブロックの数字が多い、もう少しひねれ、その頭は飾りか?」
パーソンズ7はいつも通り、皆とは違う意見を口にした。
「何がいけなかったのでしょうか?」
一切、他のゲームや科学的研究を参考にせず、偶然にも人間に対処可能な速度を作り出せた事で、今回のゲームには少し自信があったエンド。しかし不平が多く、理解が出来ない。
「まあ単純につまらないな、今までの物に比べると出来は良いんだが」
クリアできたパーソンズ2は、そう答えた。
代わりに最初に口を開いた、中身は少女のパーソンズ3が説明する。
「まずパーソンズ7が言った通りだけど、ゲーム自体がシンプル過ぎるうえにブロックの数字の種類が多い。これのせいでなかなかブロックが消えないため、爽快感が無い。あるのは目当ての数字が出ない事への苛立ちが強い」
「そしてVRゲームとしての問題点。まず穴が広いから全面的に消し切るのに手間がかかる。モニターで親切に表示しているけど、上から見たのとでは表示がわかりにく過ぎる」
「そして最大の問題点は、標的にブロックをぶつける事が異様に難しいのよ!」
ブロックは手のひらサイズの石ころのように軽い、軽いが実際には人間の頭サイズの大きさがある。それを的確に標的にぶつけるには、それなりの技術が必要だった。
少女は何度も挑戦した。これが『アクションパズル』を名乗っている以上、それが得意だという彼女の数少ない小さな誇りを、守りたかったのである。
だが火山の火口のような穴の周りを走り回り、狙って投げ込んでは、失敗して歯噛みするという事を何度も繰り返し、うまくブロックが消せてもすぐに次のブロックを狙わなければならないという焦燥にかられる。ただ疲労感だけが募るゲームだった。
せり上がってくると狙いやすくなるが、その状況だと穴が広いため、いくら消しても手遅れである。
結局これは『アクションパズル』ではないと思い込む事で少女は自分の小さなプライドを守ったのであった。
上手くいってもやり遂げた気持ちになれないくせに、やればやるほど上手くいかない苛立ちだけが残るゲーム、それがこのゲームに対するネガティブ・パーソンズの意見だった。
「正直、俺がクリアできたのも連続でブロックが消せたから、結局、運が良かったからだ。完成度は高いが、二度は挑戦する気になれなかった」
パーソンズ2が面倒なゲームだったと、後付けした。
「……結局、何が駄目なんですか?」
しかしエンドはパーソンズ達の説明に理解できない。完成度が高いなら、問題のないゲームだとエンドは思っていたからである。
「アクションパズルとは、与えられた状況という問題に、思考速度をあげ即座に自分なりの答えを出しクリアしていく、それが快感なんだ。このゲームはどこに何の数字が必要か分かっても、その数字を狙った所に置けないのが問題だな」
パーソンズ2が詳しく答えた。
エンドは自分のゲームの改善をあまりしたくない。それは他人の意見が混ざったゲームを自分の作り出したゲームだと、思いにくかったからである。コンピューターがゆえの完璧主義のために、独りよがりなゲームしか許せなかった。
しかし、あくまでも他人の意見を自分なりに解釈し、自分なりに解決する分にはそれなりには構わないとは考えている。
「わかりました、作り直しましょう」
そうエンドが宣言すると、ネガティブ・パーソンズはエンドの空間から強制的に『アクションパズルゲーム』へと移動させられた。
「びっくりした」
パーソンズ3が目を見開くと、昨日プレイした『アクションパズルゲーム』の舞台にいた。
(ロード時間の読み込みも無しに、別の仮想世界へ移動? いや、もしかしたら最初からあの世界にあって隠していたのかも)
パーソンズ3はそう考えて、目の前の世界を受け入れる。
目の前には昨日と同じ大きな穴があり、中には数字のブロックがぎっしりと詰まっていた。そして周りの空中には数字がどこにあるかを表示したモニターが浮かび、真横には数字の立方体ブロックが一つ置かれている。
「? 何が変わったの?」
とにかくプレイし見ようと、少女は隣のブロックを持ち上げ、穴の中へと放り込もうとした。
腕が伸びた。
「気持ち悪いわ!?」
エンドの世界に戻ったネガティブ・パーソンズ達。最初にパーソンズ3が口を開いて非難した。
「VRゲームで、自分の肉体を乖離し過ぎた仮想の体形は出来ないはずでしょう!? 私の本体の体にも、本来は無い自分の身長の数倍伸びた腕にも、手の先にも感触があったわよ!? 一体どんな手段を使ったの!?」
今までのVRゲームは基本的に、自分の肉体がベースだった。どんな異形の姿になれても、触感は人間のそれを外れるのは技術的に難しかったのである。しかしエンドはそれを無視した仮想の肉体を作る事に成功した。
「そもそも腕だけ伸びてもね、遠くに数字がある分、やり辛いのよ!?」
「わかりました」
エンドが非難を受け入れて、またもや一同を『アクションパズルゲーム』の世界に送り込んだ。
腕と一緒に首が伸びた。
「ちょっとぉおお!? あの時、私はいったいどんな生物となっていたのよ!?」
体幹は離れた所にあり、頭と腕はあったはずの場所から遠くに離れ、そして本来はない腕と首の感触がある。想像しただけで少女は気がおかしくなりそうになった。
パーソンズ1と2は呆然とし、4と5はそういう事もゲームで出来るようになったかと子持ちの大人の貫録を見せ、6と7はなぜかエンドを見つめ続けていた。
パニックになったパーソンズ3は、ただ思った事を口にする。
「腕と首だけが伸びるなんておかしいでしょお!?」
「わかりました」
またもやエンドは、ネガティブ・パーソンズ達を『アクションパズルゲーム』の世界へと送った。
今度は腕と首と一緒に足も伸びた。ちなみに縦に伸びたので意味がない。
「……もういいです」
本来の自分ではない、自分の肉体を味わい、その気持ち悪さに意気消沈するパーソンズ2。
(まだ胴体が伸ばせたのに)
断られて、せっかく準備したシステムが使えずがっかりするエンド。
こうして約束されたダイブ終了時間となり、今回のテストプレイは終わりを告げた。
今回のゲーム『アクションパズルゲーム(β)』。
無料ソフトとしていつも通り、エンドは配布した。
本当は体が伸びるシステムも搭載するつもりだったが、なぜかパーソンズ6が強力に反対し、他の数名も渋ったので、今回は見送る事にした。
今回は落ち物パズルゲーム。
「VRゲームでやる必要あるのか?」というプレイヤー達の意見は、プレイすると吹き飛んだ。
まさかの実際にブロックを落として消していくタイプの落ち物ゲームだとは、だれも予想していなかった。
最初はその新鮮味を楽しんだが、徐々にただ面倒なゲームである事がプレイヤー達のほとんどの意見だった。
レビューも、このタイプのゲームはVRよりも、神の視点で見るべきとの意見が多く、マイナス評価よりとなった。
やっぱり体を伸ばすシステムを追加するべきだとエンドは考えたが、なぜかメールで追加するなとあるパーソンズに先読みされて止められた。
「反省会だ」
「面白くないという、意味が分からない」
「人間は分からないな」
「……」
「シンプルである事を非難されていたな、次は複雑なゲームを作るか」




