第11話『格闘ゲームを作ろう』
「本日はありがとうございました」
ビル内の一室。スーツ姿の男同士が、交渉を終わらせ握手する。
立ち去った相手方を見送り、男は振り返った。
「も、申し訳ありません、係長」
「次からは早く伝えてくれ」
「は、はい!」
部下の男が頭を深く下げ、足早に退散した。
それに目を送らず、自らの机に男は戻る。
(世界的なコンピューターウィルスの流行か)
男は自動車メーカーの販売業者。取引相手の製造会社がウィルスによって生産に問題が出た。
それを取次の部下が、個人で解決しようと動いてしまい、結果を知るのが遅れてしまった。
男はその尻拭いを行っていた。部下に思う事は何もない、ただ黙々と仕事をしていた。
車で帰宅してニュースを見る。
世界中で新型のコンピューターウィルスにより、様々な企業で混乱をきたしていた。
多種の企業、政治、病院、学校、その他。それらが情報の改竄を受けていた。
しかし、それも収束する傾向にあった。
(いつもより規模は大きいが、今までもウィルスによる問題はあった)
その男、エンドからネガティブ・パーソンズ2と呼ばれている者は特に気にした様子もない。
ただ自分のメールに届いていた、新たなゲームにため息をついていた。
メールには『対戦格闘ゲーム』と銘打たれていた。
次の日、九度目の集会がエンドの仮想空間で行われる。
「さあ、どうでしたか今度のゲームは、お久しぶりです!」
いつも通り自信満々のエンド。
そして微妙な顔のネガティブ・パーソンズ達。
とりあえずとの感じで、パーソンズ2が前に出て答えた。
「ああ、まあ、やりたい事はなんとなくわかった」
「え、じゃあ、もしかして?」
「いや、つまらん」
エンドの期待をパーソンズ2は拒否した。
今回の対戦格闘ゲームには、以前のホラーゲーム用の人体作成ツールを用いられた。
つまり自由にキャラクターを作れる。性別、身長、体重、体格、それぞれの部位の長さ、肌の色、髪の色と長さ、傷痕、ホクロ、シミソバカス。服、リュックやメガネなどの道具、ペイントさらに今回はオプションとして、動物の角や尻尾も百種類ほど追加。かなり自由度の高いキャラクター作成ができ、自動バランス調整やランダム作成もついていた。
そして敵側も、固定のキャラクターはおらず、ランダムで作成されるようにした。
エンドは調度いい強さがわからない。なぜなら人間の言うハードモードもコンピューターであるがゆえに、楽にクリアできるからだ。そして面白さという感情を理解できないので、どの程度の強さまで上げればいいのか、歯ごたえがあるのか、それもわからないのである。
そしてそのコンピューターゆえの反射能力を、エンドは全て敵側のキャラクターにつぎ込んだ。これにより人間にはできない、反射速度と高レベルな先読みを持った最強キャラクターが敵として完成した。
このままでは人間が操る、主人公側のキャラクターはクリアできない。
ゆえに操作する側のキャラクターにはあらゆる有利を与えた。
攻撃力に防御力、体力に速度、復活回数の設定を自由にさせた。
さらには剣から戦車、戦闘ヘリ、弾道ミサイル、衛星レーザー砲などの武器を好きに所持できるようにした。
さらにそんな自分のキャラクターを好きなだけ数が増やせる。最高で一万人で戦う事が出来る。そのキャラクター達の動きは、自分で設定する。例えば敵が近づいたら攻撃、あるいは敵が遠くにいたら射撃、何もせずに防御に徹する等、割と細かい設定を一人一人に可能。全体や部隊を編成してコピーする事もできる。
ステージもプレイヤー側が選べ、さらに建物の作成に、罠の設置、それらの施設の作成も百種類以上にわたる。
さらにこれは十ラウンドでクリアであり、敵は倒される度にその倒された手段を学んで、それに対する絶対回避を持つ。
プレイヤー側がクリアしたいなら、最初から全力ではなく手段を絞って倒していかなければならない。
このゲームは一般のプレイヤーが知っている対戦格闘ゲームなどではない。
いうなれば一騎当千の化け物を、あらゆる兵器とチートで倒す。そんなゲームだった。
パーソンズ2は説明するように答えた。
「まず、これは対戦格闘ゲームと言えるものでは無いな。敵は一人だが戦略系のゲームだな。いや追記された説明を見て、わかっていた事だが」
一つ咳払いをし、パーソンズ2はさらに続ける。
「罠を仕掛けて敵を倒すゲームは、色々とあるし、その系統のアクションシミュレーションゲームだろう」
「ここまでの説明だと面白そうだが、問題が色々とある」
そしてパーソンズ2は子供に説明するように答えた。
「まず最初に言った通りジャンル詐欺。格闘ゲームと書かれているが、超反応でこちらを攻撃してこちらの攻撃を避けるため、一対一で勝てる相手ではない。こちらは能力を上げられるが、攻撃が当たらなければ意味がない故に、体力・防御力・攻撃力は大きな意味を持たない。唯一価値があるのはスピードだ。しかし、スピードを上げて倒しても、次の相手はそのスピードに追い付いてくる。そのためステータスを上げて勝てるのは一度だけ、いや段階的に上げれば二回勝てた」
「次にクリアできない。このゲームはステージを好きなように作り替えて、敵を待ち受ける。ダンジョンクリエイトのディフェンスゲームだ。罠を仕掛け、兵隊を雇い、相手を倒す事が最大のポイントであり、逃げ回りタイミングよく兵器を使っていくのがプレイヤーのするべき事なのだが。銃撃で倒せば銃に耐性を得て、爆破して倒せば爆弾に耐性を得て、落とし穴で落とせば落とし穴に耐性を得てと敵はどんどん強くなり、あらゆる手段を用いても六回しか勝てないと判断した。悪いが勝てないゲームはつまらない」
六人でメールを回し、さらにパーソンズ6が解析をして、大まかに相手の耐性とそれによるダメージを受けない武器を省いていた結果である。
メールで話し合っていた以上、実はその内容をエンドも閲覧していた。しかし、特に思う事は無かった。
なぜならエンドは、クリアできないからつまらないという感覚がわからないからである。
「そして最後に、VRでやる意味がない。基本の画像は斜め見下ろしであり、アップや全体映像を見る事も出来る。だがこれなら平面画像でも良い。体験を主とするVRゲームでやる必要性を感じなかった」
「以上がこちらの感想だ」
パーソンズ2が言い終える、それは事前にメールで話し合っていたがゆえに、他のパーソンズ達の意見でもある為、他のレビュアー達は口を開かなかった。
パーソンズ2は締めくくりに答えた。
「言っておくが、方向性自体は良いと俺は思う。VRである事は別にしても、ジャンル詐欺を止めて、万人にクリア可能まで難易度を下げれば十分な良作だと思うが……」
「私はクリアできますが?」
エンドの発言に、何人かのレビュアーが少し苛立つが、相手は子供だと抑えこむ。
パーソンズ6だけはその発言の意味を考えていた。
(嘘で言っているように見えない、本当に彼はこれをクリアできる? でも僕でもこの敵は無理だった。反応速度が人間のそれを越えている。彼は一体……?)
その後、いくらかの話し合いを終え、今回のダイブ時間を終えて、ネガティブ・パーソンズ達は現実へと帰って行く。
悩みながら帰って行くパーソンズ6。
そしてパーソンズ2は、ふとある人間が気になった。
エンドがネガティブ・パーソンズ7と裏で名付けていた者である。
基本的に無口であり、今回もほとんど発言しなかった彼をパーソンズ2は事務員としての目線で観察していた。
(アドレスを交換しなかった彼だが、やはりおかしい)
(最初は機械のように微動だにしなかった、今も発言が少ないのは変わりないが、明らかに人間の癖のような動きがある)
(レースゲーム辺りからだ。中身が入れ替わった? 誰か別の人がダイブしているのか?)
(それに……妙にあのプログラマーを注視している。何かを見極めようとしている。知り合いか?)
パーソンズ2はジッとパーソンズ7を見る。しばらくするとパーソンズ7はエンドを見つめながら、そのまま掻き消えた。
エンドはそんなパーソンズ7に、意識しているかのように視線を最後まで送らなかった。
今回のゲーム『対戦格闘ゲーム(β)』
エンドが作ったゲームにネガティブ・パーソンズ達の意見を取り入れ改良して、制限時間を設けた。
さっそく謎の開発者の噂を知っているプレイヤー達がダウンロードしてプレイ。
格闘ゲームなのにキャラクターやステージを好きに作れる。自身のステータスを改造でき、さらに部下まで雇える。
特に自身が操るキャラクターの作成の自由度の高さが、プレイヤー達を喜ばせた。思い思いの自身の作ったキャラクターで、敵と格闘していくのだろうと思いながら時間をかけてキャラメイクをしていく。
だがゲームスタートしてみれば、相手はすさまじい反応速度で銃弾を避け、敵を蹴散らす化け物。
なんとか倒してみるとさらに倒した手段に耐性を持って強化され、より強敵となる。
対戦ゲームなのに対戦できない事態に困惑するプレイヤー。
だが制限時間が二分なので、その間逃げ切れば勝利となる。
何度か挑戦したプレイヤー達は、ひたすら複雑な迷宮を作り逃げ回る事で勝利していった。
それを学習し、壁を壊したり、さらにスピードを上げて追いかけてくる敵。
「十階建ての迷宮の塔を作ったら、建物ごと倒壊させられた」等の仕様まである。
大不評だった前回と違い、今回のゲームは今までで一番の好評でプラス評価。
ネット対戦も可能であり、誰かの作った迷宮を頑張ってクリアする事が出来る点も受けが良かった。
ただし「格闘ゲームじゃない」「VRの意味がない」等のマイナス評価も多数見受けた。
「反省会だ」
「クリア不可能なのはつまらない、それが人間だという」
「あと難易度の調整か」
「いっそ誰か人間を雇い、テストプレイさせながら調整していけばいいのだが」
「……」
「そんなところまで他人の力を借りれば、それはすでに私の作品ではないな」
「……」
「さて、次はVRの要素を生かした作品を作ろう」




