第13話『動物園経営シミュレーションゲームを作ろう』
エンドからパーソンズ4と呼ばれていた女性は、ご機嫌だった。
配信されてきたVRゲームのテストプレイが、普通に面白かったからである。
「さあ、どんどん動物園を大きくしていくわよ」
この時の彼女は、確かに機嫌が良かった。
パーソンズ4は最近、暇だった。
彼女はゲームを趣味としていたが、それ以上の趣味としてネットオークションでの販売を彼女は好んでいた。
購入した物をセットにして、転売したり。あるいはぬいぐるみを友人と共に作り上げて販売したりするなどして、小金を稼いでいた。
だが現在、世界中で猛威を振るうコンピューターウィルスによって彼女がよく利用していたオークションサイトが使えない状態だった。
ウィルスに侵されただけでなく、ウィルスを理由に商品を持ち逃げしたり、代金を踏み倒す、便乗した詐欺師が何人も現れ、結局しばらくの間サイトが休止する羽目になった。
オークションでの友人との付き合いも一時中断。彼女は暇を持て余していた。
「一時、収束していたウィルス、また盛り返すねえ」
ニュースサイトを見ながら、自室でだらける主婦。
面倒な家事はとっとと終わらしておく主義であり、今は仕事もない。
ゲームでもやるかと、コンピューターを開こうとした所、メールの音がした。
契約している所から、テスト用のゲームが配信されたのである。
ため息をついて彼女はゲームの説明を読む。
「……まあ、やる事もないし、いいか」
そのゲームの起動の為に、ヘルメット型のVR体験ゲーム機のアグリゲーションを取り出した。
最後にニュースで、コメンテーターがウィルスについての話題が挙げられていた。
「ウィルスの名前は『グレムリン』。ウィルスに侵されるとその文字が書き込まれる事から……」
ニュースを消し、ベッドに横になった彼女はゲームの中へとダイブした。
ゲームの内容は『動物園経営シミュレーションゲーム』。
最初の資金から動物を買い取り、あるいはレンタルして入場者を増やしていく。
資金が増えれば動物園を拡張、さらに動物を増やす事が出来る。もちろん入場者も増えていく。
水や電気、食料などの必要なライフライン。人件費と雇った人間の個々の能力の違い。病気やケガ、それらの医療費。天気や季節による客の入りの違い。小道具や木々、水流プールなどの動物用の施設。そういった細かい部分が設定できる。
しかし決して煩雑な基盤を自力で作り上げるのではなく、ほとんどがコンピューター制御されているという設定の為、ときおり確認するだけで良い。
何より、動物たちと観光客一人一人のきめ細かい見た目の違いを、VRゲームできちんとできているのがポイントである。
経営シミュレーションとしてはよくできており、十分にプレイヤーが楽しめる内容だった。また以前の経営シミュレーションと違い、犯罪を行う部下や反対運動をする市民などは存在しない。
伸び伸びと自分の動物園を作り上げられるゲームだった。
「いやあ、最初はどうせクソゲーだろうと思ってたけど、かなり出来がいいじゃない」
パーソンズ4は自分が作った動物園を、楽しみながら歩いていた。
動物や観光客にもリアリティがあり、鳴き声や動きも眺めるだけで楽しめた。
この動物園の主たる彼女は、満足気にその様子を眺めつつ、動物園を見回る。
「私は基本的にはアクション専なんだけど、こういうゲームもたまにはいいわね」
鼻歌でも鳴らしながら、パーソンズ4は歩く。もちろんゲームなので彼女を気にする者はおらず、客にぶつかる心配もなかった。
そして彼女は目当ての場所へと向かう。
「説明に『同じ種類の動物を一定数集めて直接見に行くと、イベントが起こる』って書いてたわね。そろそろ起きるころ合いのはず」
機嫌のいい彼女は、動物園を見て回ると最後にその場所へと向かった。
ゴリラが殺されていた。
次の日。エンドが作った青空の仮想空間に、ネガティブ・パーソンズ達が集まる。
「おひさしぶりです。今回はどうでしたか?」
エンドの挨拶にパーソンズ達が並ぶ。
「なんでいきなり推理要素を入れた」
パーソンズ4が不快な顔で文句を言う。
だが他の者達はそれほど不快な表情はしていなかった。
エンドは今回、動物の育成シミュレーションゲームを作ろうと思い立った。
しかし以前、パーソンズ7に百種類以上の動物の育成を出来るようにすると語ったのを思い出した。
結果、エンドは動物園を舞台にし、それぞれを育成できるようにした。
前回の経営シミュレーションと同じく、様々な要素を可能な限り入れる事にした。
ただし犯罪行為は抜く。経営シミュレーションとホラーゲームで、犯罪自体が難色を示されたので、エンドは取りやめたのである。
こうしてエンドなりの大多数動物育成ゲーム、もとい動物園経営シミュレーションゲームが完成した。
それはゲームとして出来が良く、さらにVR映像で出来上がった動物達もリアリティが高い。もしもこのまま販売されても、十分に高評価が得られるゲームだった。
だがエンドは受け入れられなかった。これはゲームなのかと疑ったのである。
なにせ現実にある動物園の経営をただ真似ただけの物、それを面白いと言えるのか、ゲームと言えるのかと、前回の経営シミュレーションと同じ事をエンドは自問した。
ゆえにエンドは何かゲーム要素をいれようと考えた結果、まだ作っていなかったジャンルである推理物を混ぜたのである。
「人が動物を殺せば動物虐待、動物が人を殺せば監督責任、しかし動物同士が殺しあっても裁く事はできない」
エンドにとって動物同士の殺しは法が認めてない以上、犯罪とは受けとらなかった。例え人間並みに知恵のある行為をしたとしてもである。
「いや、あの問題はわからなかったわ、てっきりエサを盗まれたゴリラAが犯人だと」
「私は現場の近くにいたのをカメラが目撃した、過去に恋人を取られた事のあるゴリラBだと思った」
「……いや、どう考えても暗闇なのに犯人の後ろ姿を目撃したと答えた、友達のゴリラCが犯人でしょ」
犯人の選択を間違えたパーソンズ1と3、その言葉に呆れた様子で答えるパーソンズ6。
ちなみに犯人の選択を間違えるとペナルティとして、資金が半減。逆に当てると倍化する。
一人だけ怒った様子でパーソンズ4が文句を言う。
「私はただの動物園経営ゲームで良かったのよ。なのに数を増やすと事件を起こすって何? しかも何で突然、主人公は説明もなく動物の言葉がわかるようになるの?」
彼女は普通に怒っていた。暇潰しにできた普通の動物園経営シミュレーションゲームが、いきなり推理物ゲームとなるのである。彼女の理解を吹き飛ばした。
「動物を増やすとイベントが起こると、説明に書いてあったはずですが?」
エンドには彼女が何を怒っているのかわからない。
「ジャンル詐欺でしょ。それにテンポが悪いのよ。人がダラダラと動物園を楽しんでいるのに、水を差されたのよ。気分を害するに決まっているじゃない」
シルエットだが、不満な顔だけは周りにも理解できた。
いつも通りの展開、ネガティブ・パーソンズ達による否定から始まるゲーム評価。
しかし、いつもと違う光景があった。
「……皆様は、どうでしたか?」
「ああ、別に悪くなかったぞ?」
他のネガティブ・パーソンズ達による非難が無かったのである。
パーソンズ1が答える。
「確かに動物園を拡張すると、突然に殺人、じゃなくて殺害事件が起こるのは面倒だしテンポ悪いけど、つまらないとまでは言えないな」
パーソンズ2が答える。
「動物園経営はレベルが高い物だった、そして推理物も短いが別段、酷評できるものでは無い。否定するのであれば、全く違うジャンルがかみ合ってないのは問題だが、それぞれ面白さはあった」
パーソンズ3が答える。
「動物園は面白かったよ。推理も面白かった。ただ混ぜられると互いに足を引っ張ている気がする」
パーソンズ5が答える。
「私としては、事件も面白かったわよ? 『熊のパンダなり替わり事件』『キリン逆立ち事件』『空飛ぶ象事件』が個人的にお勧め」
パーソンズ6が答える。
「好きな時に好きな事件を解けないのが面倒だったかな、でも個々はそこそこ良かった」
パーソンズ7が答える。
「経営を楽しむと推理が邪魔。推理を楽しむと経営が邪魔。もう少し考えて作れ」
パーソンズ4がまとめるように答えた。
「別に私も、そこまで酷評するようなものだと思わないわ。でもやっぱり邪魔なのよ」
「つまり面白かったと?」
「……まあ」
エンドのその言葉に、曖昧ながらも頷くパーソンズが数人いた。
「でも、やっぱり私としては、二つが混じっているのが問題よ。真面目に動物経営しているのに、いきなり動物が推理が必要な事件を起こすのよ? 人間じゃない者が人間の様な事をするのよ? びっくりして受け入れられないわよ!」
「……でも、まあ、今までのゲームの中ではやれる内容だったわ」
パーソンズ4がそう締めくくった。
「そうですか、それは良かった」
「言っとくけど問題はありますからね。いい加減、面白い面白くないを理解してほしいわね、本当に」
こうして十一回目のテストプレイ報告会が終了した。
去ってゆくネガティブ・パーソンズ達。
(そうか、面白かったか)
その消えてゆく姿を見送りながら、エンドは考えた。
(じゃあ彼らはもう必要ないな。そろそろ別れの準備をしておかないと)
今回のVRゲーム『動物園経営シミュレーションゲーム(β)』。
今まで通り、噂を知っている者達が、無料ゲームコーナーに置かれるとともに突撃した。
結果はまさかの良ゲー。
動物園経営ゲームとしてはかなりレベルが高く。VRで観光客と共に、自分の作った動物園を見て回れる点が高評価となった。
しかし動物園を拡張し、同じ動物を増やすと事件が起こり、推理ゲームになる点は不評。「テンポが悪くなる」との意見が多数。普通に動物だった彼らが、いきなり人間のような事件を起こすのには、素直に受け入れられないとの不満がコメントでも多々あった。
ただ一度起これば同じ種類の動物では起こらず、頻度はそこまで高くない点。推理物としてもレベルは低すぎず、見てられるような点。以前の経営シミュレーション程、足を引っ張る内容ではない為、そこまで大きなマイナスにならないというレビューがいくつもあった。
「勘違いで混ぜられたゲーム」として見られ「その結果、テンポが悪くなっている」、しかし「どちらも不快なほどではなく、それぞれでゲームとして楽しめる」との意見でまとめられる。
VRクソゲーメーカーとして知られていた、謎の開発が、以前の格闘ゲームと合わせて、徐々に評価が上がっていた。
「反省会だ」
「どうやら別ジャンルを混ぜるといけないらしい」
「なら一つのジャンルに絞るべきか」
エンドからパーソンズ6と名付けられていた、十歳の少年。
彼は夜の病室で、ベッドの上で眠りもせずにじっと考えていた。
暗闇の中、特に何かを見る事もなく。ただ思考を巡らせていた。
少年は今回の集会でのある言葉が、どうしても引っかかっていた。
”人間じゃない者が人間の様な事をするのよ? びっくりして受け入れられないわよ!”
”いい加減、面白い面白くないを理解してほしいわね”
その言葉を頭の中で思い浮かべて、パーソンズ6は考える。
(なぜ架空の人間を作り出したのか? もっと簡単な方法だってあったはず?)
(それにどうしてここまで面白くないゲームを作る? 面白さが理解できないから?)
(あっさりと僕のハッキングを看破した、そしてこちらのゲームのログを完全に消去。コンピューターに尋常でないほど強い)
(FPSや格闘ゲーム、あれらの人間ではクリアできないレベルのゲームを、クリアできると答えた。つまり)
「人間じゃない者が人間の振りをしている?」
「もしかして……AI? 人工知能なの?」
パーソンズ6はその夜、恐怖ではない感情によって、眠る事が出来なかった。




