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ミラクの果てしない旅 ~千年後の後始末~  作者: 橘 珠水
第2章 ロンバルディア大陸編
37/89

37.森の中で迷ったら

 目が覚めると、太陽の光がカーテン越しに光っている。

 やばい、寝過ごしちゃった!

 昨夜、夜中に起こされた上、カーテンをキッチリと引いて寝たので、朝になったのに気付くのが遅れてしまったみたい。

 慌てて着替えて顔を洗うと、朝食も食べず、一目散に王宮へ走った。

 ちょうど、門から出てきてククロの森へ向かう軍の一団に遭遇し、さり気なくその中へ混じる。

「遅刻だぞ」

「すみません」

 魔法戦闘部隊の隊長に叱られて、おずおずと後方からついて行く。

 百人近い軍の一団の中で、魔法戦闘部隊はまだわずか五人。ククロの森へ派遣される者が、ではなくて、メンバー自体がまだそれだけの人数しかいない。

 その五人の中で、私以外のメンバーはローザラントで生まれ育ち、魔法使いの私塾や魔法教育課が派遣する家庭教師に指導を受けた魔法使い達。つまり、ウィザーストンで本格的な魔法教育を受けた者は私しかいない。

 だから、私はこの魔法戦闘部隊の中でも浮いた存在だった。

 他国、しかも別の大陸から渡ってきた流れ者だということもあり、元々彼らと私との間に共通点は少ない。

 加えて、彼らはこの魔法戦闘部隊で実績を上げて、宮廷魔法使いとして成功しようと意気込んでいる。したくもない仕事をさせられていると後ろ向きな私とは、気が合うはずもない。

 終始無言の私の隣で、ワイワイと楽しく喋りながら歩く他のメンバー達。

 たまに、私でも分かる話題の時に二言三言口をはさんだことはあったけれど、「入ってくるな」と目つきや言動で示されると、何も言えなくなってしまった。

 私がもっと積極的で明るい性格なら、同じ状況でもこの関係を少しずつ改善していけたのかも知れないけれど。そう、ミラクみたいに。

 それとも、私の気付かないところで、私の何かが彼らを不快にさせているのかも知れない。

 けれど、私にはもう、今の状況を変えようと前向きに行動する気力さえなくなっていた。

 ただ、与えられた仕事をこなすだけ。

 一年。一年頑張ったら、その間にきっとクロスさんかミラクが帰ってくる。それまでは我慢しよう。

 私にとって、この仕事は我慢して耐えるだけの苦行でしかない。


 ククロの森へ到着してからも、私は他のメンバーから離れて単独行動をとっていた。

 本当は、魔物が現れた時に一人で対処するのは危険だからと、単独行動は許されていない。

 けれど、五人だから二人一組になると誰かがあぶれることになる。そして、それは常に私だった。

 だから、なるべく軍の兵士の気配が感じられる位置で、私は森の中を巡回している。もし何かあったときに、すぐに彼らに助けを求められるように。

 ……この、ずっと奥だったわよね。

 道なき森のずっと奥。神獣王妃が張った結界の中でグルグル迷って、けれどやってきたのが同じ神獣族の若者だと分かったのか、結界はいつの間にか消えていた。

 優しく包み込むような白い光の中で微笑む神獣王妃の神々しい姿。思い出しただけで涙が出てきそうになってしまう。

 森の奥を見つめながらしばらく立ち尽くしていた私は、ふと近くに人の気配が全くなくなっていることに気付いて、慌てて周囲を見回した。

 あれ。皆、どこに行ったの?

 慌てて元来た道を戻ろうとしたものの、同じような風景が広がる森の中で、私はどちらが森の出口なのかそうでないのか分からなくなってしまった。

 ……どうしよう。

 人を惑わせる結界が復活した、というのではなくて、ただ単に鈍くさい私が迷ってしまっただけなのだけれど、森の奥へ迷い込めば死に至る危険が増すことには変わりない。

 でも、そうなったら、そうなったで……。

 クロスさんやミラクが戻ってくる保証はない。その上、仕事は辛いだけだし、心を許せる相手もいないし。

 今の辛い状況は他人のせいばかりじゃない。自分にも責任があることは充分分かっている。でも、それをどうやったら打開できるかが分からない。努力しようとする気力もない。

 ……この森で迷ってしまったのも、何かの運命なのかも知れないわ。

 そう思うと、何故か足が勝手に動き出していた。周囲の中で、一番暗くて鬱蒼とした、森の奥へ続いていると思われる方へ。


「きゃっ!」

 足を踏み出すと、そこは斜面になっていた。

 咄嗟に近くに生えている木を掴もうとするも間に合わず、私は木にぶつかりながらなだらかな斜面を転がり落ちていった。

 しばらく気を失っていたのだと思う。

 目を開けると、ひんやりとした空気が頬を撫でていった。

 一瞬、全てが夢だったのかと思ってしまう。ロンバルディア大陸へ渡ってきたことも、ミラクやクロスさんに会って一緒に暮らしたことも。

 それが夢じゃないんだとすぐに我に返ったのは、すぐ傍に白蛇の杖が落ちていたからだった。

 クロスさんが、いなくなるほんの少し前に、私に贈ってくれた大切な杖。

 腰のベルトにしっかり挟んであったのに、斜面を滑り落ちていく間に落としてしまったらしい。

「うっ……」

 特段痛いところはないけれど、気分的に呻きながら、私は杖を手に取りながらゆっくりと身体を起こした。

 見れば、斜面はなだからなものの、高さは結構なものだった。生えている木を掴みながら登るとしても、途中でまた足を滑らせたら今度は無事では済まない。

 ……というより、登る必要もないわね。

 立ち上がった私は、周囲を見回した。近くに沢があるのか、水が流れる音がする。

 そう言えば、ミラク達と筏で川を下って流れ着いた湖に、他にも数か所から小さな流れが注ぎ込んでいたな……。

 この沢を下っていけば、あの湖にたどり着けるかも知れないわ。

 まるで、そこに行けば楽しかった日々がそのまま残っているような気がして、私は水の音がする方向へ向かって緩やかに下る斜面を下りて行った。

 しばらく歩くと、木々の間に水の流れが見えてきた。

 あれね……。

 斜面を勢いよく駆け下りて、近くの木を掴んで足を止めた時だった。

 沢の水を飲んでいた黒い塊が、不意にこちらを振り向いた。

「……っ!」

 慌てて木の陰に身を隠したけれど、間に合わなかったのは明らかだった。

 真っ赤な目、剥き出しになった黄色い牙。パトリックほどの大きさの獰猛な魔物が、唸り声を上げながら沢から駆け上ってきた。


「おいっ! 気をしっかりもて!」

 恐怖で一瞬、気が遠くなりかけた私の耳に、若い男の声がはっきり聞こえてきた。

 えっ……?

 背後から風のような速さで私を追い抜いて行った猫が、自分の何倍もの大きさのある魔物に向かって突進していく。

 ばっ、……馬っ鹿じゃないのっ!?

 向かってくる猫の出現に足を止めた魔物の前で、一瞬走る速度を緩めたかに見えたオークルは、無謀にも魔物に向かって勢いよく飛びかかった。

 思わず悲鳴を上げた私の目の前で、オークルは魔物に爪を立ててしがみ付き、喉元に食らいつこうとしている。

 けれど、いくら猫が噛みついたところで、魔物の固い毛の奥にある肉の、更に奥にある喉笛を噛み切ることなどできない。

 そのうち、暴れ回る魔物に振り落とされたオークルは、逆に魔物に伸し掛かられてしまった。

 仰向けに転がされ、必死に猫パンチを繰り出して抵抗するものの、迫る牙をいつまでも防ぎきることなど到底不可能だ。

 ……ダメっ!

 私は、必死で白蛇の杖を手に取ると、魔物に向かって火の玉を繰り出した。

 魔物を倒す威力はなくても、オークルが逃げる隙くらいは作れるはずよ……!

 ところが。

 ゴオオオオーッ!

 突如、杖の魔石から噴き出した巨大な白い炎が、魔物どころかなんとオークルまで飲み込んでしまった。

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