6話 そろそろ自己紹介でもしますかね
一ミクロンでも口角が上がれば★やブックマークをお願いします。
――可愛いは最強。誰かが言った、有名な言葉。
自分はそうは思わない。
だってさ。性別関係なく「かっこいい」方が、人として魅力的なのだもの――
日本のパラレルワールド。男女比が偏った世界。田舎でも都会でもないような、ただの一地方。
ダブルベッドでぽつんと一人。愛する幼馴染は隣にいない。
「はあー、遠距離恋愛、つらい」
僕が世界一かっこいいと思っている幼馴染は、都会に上京してピン芸人として日々戦っている。
もちろん応援はしているけど、寂しいものは寂しいのだ。
窓の外では、ざああと、雨の音が騒がしい。
そんな夜は、布団に入りながらいつも考えることがある。
――どうすればかっこいい人になれるか
これは、僕の一生の命題だ。
ぶっちゃけ、僕は何の努力をしなくても、生まれ持った容姿だけで「かっこいい」と何度も言われてきた。
「そういうんじゃないんだよなあ」
女性が本気でそう言っているのは分かる。僕に喜んでほしくて、褒めてくれているというのも伝わっている。
それでも、そんな空虚な言葉じゃ満足できないのだ。
「結局これは、僕の心の問題なんだろう」
僕が僕自身のことをかっこいいと思えない限り、一生満たされない気がする。
「僕の周りには、参考にすべきかっこいい人が多いんだけど……」
例えば僕の家族なんて、僕以外はみんな分かりやすくかっこいい。
みんな、自分の実力で世間を認めさせてきた人だ。
母はその類まれなる頭脳で。
姉は他の人には決して真似できない身体の使い方と、周囲を自然に巻き込んでしまうスター性で。
妹は突出した筋肉量を持ちながら、勉学だって一流という総合力の高さで。
僕もそんな風に、能力一つでのし上がっていくような痺れる生き方をしたかったが……
「はあー、なんで僕、こんなに何をしてもだめなんだろう」
虚弱。
僕を表すには、虚弱という言葉が適切だ。
運動は何をやらしてもだめ。努力しても、雀の涙ほどしか成長しない。
それならばと勉強を全力で頑張ってみたが、せいぜい学年の上の下レベル。
芸術方面の能力や、クリエイティブな能力もない。
それでも諦めるのはカッコ悪いので、努力を続けてきたが……
こんな一人の夜くらい、弱音をこぼしたっていいだろう。
正直、分かってるんだ。約23年生きてきて、痛いほど身にしみている。
「分かりやすいかっこよさ……いいなあ」
どれだけ渇望しようが、家族のようなかっこよさには手は届かない。
それでも憧れるのをやめられないから、もがいてもがいて、ここまで生きてきた。
「僕はこの世界に来てから、『ローテンションだね』って言われることが多いけど……内心までは穏やかってわけではないんだよ。くそっ、もっとかっこよくなりたいなあ……」
ローテンションでいることがしっくり来るようになったのは、この世界の女性が、やたら陽気でハイテンションの人が多いからだ。
バランスを取るように、いつの間にかそうなっていた。
僕と相対すると、舞い上がってしまう女性は本当に多いから……
「はは。一言『おはよう』って挨拶しただけで、鼻水垂らして号泣された時はびっくりしたなあ」
他にも「ありがとうございます」とか、「妊娠しました」とか、「えと、強引に脱がされたいタイプ? それとも優しく?」とかさあ。
おはようって言われたら、おはようって返そうよ……
女性が自然とそんな反応をしてしまうほど、挨拶ができるようなまともな男っていうのは珍しいらしい。
この世界で表に出てくるまともな男は、それだけで希少価値が高いってわけだ。
「まあ、聞く話によると、まともな男も一応存在はするらしいんだけど……特にこの国では、まともな男ほど、隠れ住むように過ごしたがる傾向が強いらしいからなあ」
――7割2割1割の法則。
これは、この国で昔からよく言われている比率だ。
7割の男が横柄すぎて、そもそも会話が通じない。
2割の男が女性を怖がる小心者タイプで、決して心を開かない。
残りの1割がまともな男である。という格言だ。
「まともな男ねえ……まともな男がかっこいいなら、喜んでまともになるんだけどなあ……」
そもそも、前提の考え方がこの世界の男と僕では違う。
ほとんどの男は、「どうすれば世の女をうまく利用して楽に生きられるか」に注力しているからね。
そんな男になるために、一般的な男達は都会の男子校へ通い――その後の詳細なルートは僕は知らないけど、なんか色々して裕福な女性に囲まれ、とにかく何不自由なく暮らすんだ。
このルートが鉄板らしいよ。
「うん、やっぱり心底かっこよくない」
僕の王道ではない人生は、だいたいこんな感じだ。
幼稚園時代は、とにかく情報収集に努めた。
小学生時代は、「クールな男」がかっこいいのではないかと血迷い、そんなものを目指していた。
中学生時代は、色んな試行錯誤をしながら、勉強、運動と、とにかくなんでも努力した。この時期あたりから、メディアにちょくちょく出始めた。
高校生時代は、ある程度僕の目指すべき方向性が決まり、身の丈に合うかっこよさを目指した。
大学時代は、料理と勉強と仕事に精を出しながら、同時に親友ともたくさん遊んだ。
そして今、「国民の息子」なんて扱われながら、小さな芸能事務所の副社長として母や姉、親友たちをサポート。
表に出て長年働き続ける男という存在のあまりの珍しさに、ちょっとびっくりするほど成功を収める。
稼いだ莫大な資金で、いつでも漫才やコントができる個人の劇場を作り――今も順調に会社として成長しているって感じかな。
ここまで色々悩んで、考えて、もがいた結果、こんな人生を辿ってきた。
「ははっ、この世界の男としては、相当変な部類だろうな」
こう聞くと独自路線を走っているし、しっかり成功もしていて凄いと思われるかもしれないが……全然そんなことはない。
なにせ、テレビなどのメディアには、そこまで頻繁に出ていないからね。
僕が主にやっていることなんて、「僕」というブランドで事務所の宣伝をすることと、生活力皆無の芸人たちに料理を振る舞う程度だ。
前者はただの客寄せパンダ。後者は……うん、気分は相撲部屋の名物女将さんってところかな?
「芸人のみんな、僕の振る舞う料理を最後の晩餐かってくらい嬉しそうに食べてくれるのは嬉しいけど……やっぱりちょっとこの世界の女性はリアクションが過剰だよなあ。全然大したことはしてないのに」
ある若い芸人は一言も話さず号泣しながら。
ある中年芸人は全身の穴という穴から液体を垂らしながら。
あるピン芸人は謎の奇声を叫びながら、全力でご飯をかっこむ。
ある社員は「助かる」と連呼しながら、神に感謝の舞を踊る。
正直怖いし、見てられな……うそうそ。うそでーす。みんな美味しそうに食べてくれて嬉しいよ。
とにかく、凄いのは芸人のみんなと、ここまで会社を大きくさせた社長だ。
僕なんてほぼ全国民に顔が知られている程度で、大した存在じゃない。
「ま、結局僕は『そばかすちゃん』みたいに、毎日をできる限り必死に過ごして、生き様でかっこよくなるしかないか」
愛する幼馴染のことを思っていると、いつの間にか眠りについていた。




