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【笑え】笑ってはいけない貞操逆転世界!【おもんなくとも】  作者: ながつき おつ


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6/8

5話 どうすればいいんだよ……


 っと、物思いにふけっていたら、そろそろこのVTRも終わりだ。


「ならば聞け!」


 おっ、きたきた。大帝国の漫才でいつも言っている、母の決め台詞だ。


 大帝国は地元では知らない人がいないほど有名なので、このセリフを聞くと会場が沸く。


 続けて母は、鋭い言葉で相談主に語りかける。


「常連ばかりで新規が入らないというのは、もはや瀕死と言ってもいいだろう。もっと危機感を持て。とにかく、まずはそれからだ。そしてなにより、無駄にメニューが多い! 売れない商品の三割は今すぐ切り捨てろ。次に店の導線のことだが――」


 なんにも包み隠さないあけすけな物言いと、豊富な知識量からくる的確な助言。これが母の持ち味だ。


 巷では、そんな母のことを「現代の貴族」なんて呼ぶ人もいる。


【容姿いい、スタイルいい、いい性格】 


 なんて、テレビのキャッチフレーズがついたことがあるが、なかなか言い得て妙な表現だと思う。


 このキャッチフレーズの通り、母は女性から見ても容姿が整っている。


 ()()()()ランキングにも常連だ。


 ああ、イケウーっていうのは、前世で言うイケメンのことね。


 男女比が違うからか、ナイスミドルとか、女らしいとか、意味が違う言葉がちょくちょくあるんだよ……って、これも余談か。



 母は相手がお客さんだろうが、有名女優さんだろうが、本当に容赦ない。


『一切の容赦は、むしろ失礼にあたる』


 そう考えていると、本人はバラエティで平然と語っていたっけ。


 その振る舞いは、母というキャラが世間に浸透しているからこそ許されているものだろう。


『コンプライアンスが厳しく、おばさんの肩身が狭い昨今。そんな時代にも関わらず、あれだけ自由に大暴れできる人材は意外と少ないんだよ』


 この言葉は、ここの地元テレビ局のディレクターさんが言っていた発言だ。


 制作スタッフの間では、案外母の評価は高いらしい。


 ただ、実はこの発言には続きがある。


『……といっても、ちゃんと問題になる時はなるから、いつでも使いやすい人って訳ではないんだけどね』


 頬をポリポリと気まずそうに掻きながら、そう語ってくれた。


 うん、正直で良いと思いました。まる。



 イケウーという言葉のような、前世とは違うことは他にも色々あるが、一番納得できないのは、美醜についての価値観……っと、そろそろ僕の仕事だ。


「では、今日の大帝国の街のお悩み解決サービスはこれで終わりです。さよーならー!」


 母の相方さんの親しみやすい笑顔で、このコーナーは終了した。



 後はこのロケについて一言二言コメントして、僕の仕事は終了だ。


「では、悠久君。今日の大帝国の活躍はどうでしたか?」


 マイクを向けられたので、なるべくハキハキすることを意識して答える。


「そうですね。相方さんはいつも通りすっごく面白かったですし、母もいつも通り豪快でかっこよかったです。それに、なんだかこのロケを見ていると、僕も商店街のコロッケを食べたくなりました」


 もちろん、変わらずニコニコ笑顔だ。


 うん、こんなものでいいだろう。


 可もなく不可もない答え。これが、ここでの正解だ。


「そうかそうか! ……ところで悠久君、今日の夜、一発どうでっしゃろ?」


 中年女性司会者さんが濃密な獣の匂いをまとわせながら、僕に質問してきた。


 ちっ、またこんな絡み方しやがって、このクソ司会しゃ……


 こほん。うそうそ。嘘でーす。


 ダメだぞ、僕。僕はかっこいい男になるんだ。野蛮っていうのは、かっこよくない。


 この程度のことはさらっと流さないとね。


 さあ、もう一仕事だ。


「……司会者さん、鼻息が荒いです」


「たはー! す◯んこ。すま◯こ」


「ちょっと! ちょっとぉー! 悠久君の前ですよ!」



――ワハハハハ!


 会場がドッと湧いた。


 こういうことはよくある。この世界はお昼の番組ですら、この程度の下品な悪ノリを許されている。


 女性器のことは連呼してもいいが、男性器の方はダメとか、そういう変な文化があるんだよね。


 で、だよ。こういう時、僕に求められている立ち回りがある。


「……」


 そう、冷めた目で女性たちを見る。これだ。


 冷めた目で見ることで、自分はそのノリには参加しないと態度で示しつつも、流れは決して止めない。


 そうすることで、暗に「巻き込まないのなら許す」ということを伝えているのだ。


 だってその方が、場が盛り上がるからね。


 ただ、この時注意しておかなければならないことがある。


 僕は決して悪ノリに参加してはいけない。そして同時に、絶対に笑ってはいけない。


 もちろん、ブチギレて仕事を投げ出したりなんてもってのほかだ。そんな事をすれば、他のクソみたいな男と同類になってしまう。


 なにより、かっこよくないでしょ?


(正直、下ネタはそんなに嫌いじゃないけど……腹筋に力を入れて、何があっても真顔。何があっても笑うな)


 内心ではどんなに笑いたかろうが、一ミリたりとも口角を上げてはダメだ。


 もしここで僕が笑えば、みんな嬉しくなって、全員がもっと過激な悪ノリを始めるだろう。


 そうなれば、瞬く間にこの現場の治安は崩壊する。始まるのは、悪ノリの連鎖だ。


 今までの経験から、絶対にそうなる。あえてもう一度、絶対にそうなる(確信)。


 ……この世界の女性は、笑うことを「許された」と受け取る人が、結構多いからなあ。


 この風潮は、男が常に不機嫌そうな仏頂面(ぶっちょうづら)をしていることによる、悪い弊害(へいがい)なのかもしれないな。



「ウヒヒ……青少年の蔑んだ目、ゲットぉ~」


 司会者さんがとんでもなくゲスな声色で、目をひん剥きながら、いわゆるアヘ顔を晒す。


 それにより、また一笑い巻き起こった。


 ……うん、ね。


 こうやって冷めた目で見たとて、この世界の女性たちは喜んでしまうのだけど……そこまではもう僕の預かり知らぬところだ。


 一体どうすればいいんだよ、ほんと……


 この流れが収まるまで、とにかく冷めた目――いや、死んだ目を続けたのだった。



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