最終話
「私は悠久と何が何でも結婚するわ!! ってことで、放送日にでも告白してきてやるわ!! 母親気取りの国民共。私達の結婚発表を、ただただ指をくわえて見てなさい!! エナジー!!!」
この言葉は最初、嘲笑の対象だった。
またあの生意気な芸人がテレビで見栄を張っている。
無理に決まってるだろ。
お前みたいなブサイクが悠久君を手に入れられるわけないだろ。
金も持ってないただのピン芸人がほざくな。
世の中はそんなに甘くないぞ? ガキが。
あんな有名な男が、お前みたいなただの一芸人を好いてくれるわけないだろwww
妄想乙。
幸せな脳みそしてますね(笑)脳みそマカロンかよ。
若いなあ……身の丈を知らない夢追い人って感じ。
はいはい、いつものやつね。
など、世間の声は冷たかった。
しかし次の日。
それは、とある地下芸人のラジオでのことだった。
「僕こと小張悠久は、この度、入籍しました!」
国民の息子、悠久。突然の結婚発表。
もちろん、世間は騒然とした。
息子同然に可愛がっていた男が、突然の門出。
喜ぶ者。悲しむ者。安心する者。困惑する者。嘆く者。祝福する者。絶望する者。嫉妬する者。逆に冷静になる者。
様々な人がいたが、とにかく複雑な感情が胸の中を渦巻いていたのは、皆同じだろう。
それから、彼はお相手の事を語る。
お相手の女性達は、彼が所属する芸能事務所「ダンディズム」関係者が主だった。
ただ、一人だけ例外がいた。
その嘲笑されたピン芸人が、結婚相手に入っていたのだ。
ここで思い出してほしい。放送であるピン芸人が吐いた言葉を。
『私は悠久と何が何でも結婚するわ!! ってことで、放送日にでも告白してきてやるわ!! 母親気取りの国民共。私達の結婚発表を、ただただ指を咥えて見てなさい!! エナジー!!!』
その放送を見て彼女を笑っていた者は、とてつもない敗北感に襲われたそうだ。
結婚を発表した後も、もう少しラジオは続く。
「ねえ、ダーリン」
「いや、ダーリンって」
「ダーリンは、いずれ十人の女性と結婚するつもりがあるんだよね?」
「うん、国がそう推奨してるからさ」
「じゃあ、あーし達が一軍ってわけだね。でもさ、今のところ6人しかいないけど、どうするの?」
「えと、それはまだ、決めてなくて。僕の心から好きな人達は、今のところこの6人だけだから……」
「あはっ、じゃあ、こっから残りの4枠をかけた、デスゲームの始まりだね!」
「えっと、そうなるのかな、あはは……」
結婚相手の一人である、姉であり、地下芸人である女は、それはもう楽しそうに笑った――
「って記事が出てるよ。そばかすちゃん」
僕達は近所の河川敷で二人、ひらがなになっていた。
結婚発表したおかげで、こんなに堂々と外でデートできて、嬉しい。
「あああああ!! あの時の私、バカすぎて死にたい!! なんであの時の私は国民全体を煽るようなことを言ったのかしら!! もっと穏便な方法もあったのに!!」
「ぴひょ――ッ!」
「笑わないで!!」
結婚発表をしてから1週間後。
そばかすちゃんは、ものっすごく後悔していた。
あの収録での放送も、あの日の出来事も、僕にラジオで結婚発表させることも、全て思い通りにいったのに、だ。
……まあ、自らの大言壮語のせいで、国民の嫌われ者となってしまったから、しょうがないね。
さっきここに来る前も、その辺の人に「悠久君、結婚おめでとー。あと……ちっ、そこのお前。さっさとDM解放しろ」とか言われてたくらい。
「道行く人が、私を見て舌打ちしてくる。共演者もシェアハウス仲間も同期の芸人も可愛がってくれた先輩も、みんな手のひらを返したようによ。つらい! つらすぎる!」
「まあ、国民の息子をよく分からない女に奪われて、みんな心穏やかじゃないんだよ」
「なんであなたは祝福されているのに、私には舌打ちするのよ!! 態度が違いすぎるわよ!!」
「みんな、そばかすちゃんの悪趣味な計画のせいで、脳が破壊されたもんだから……これはもうしょうがないね」
「私はただ、私をナメている世間を見返したかっただけなのに!! あああああ!! 死にたいいい!!!」
「ヒュッ――! うぴぴぴぴ!」
「笑わないで!!」
僕が結婚を発表した直後。そばかすちゃんは、SNSでこう言った。
『あんたらの大事な息子を寝取らせてもらったわ!! ざまあみやがれ!! ぷふっw』
……そりゃあね。嫌われるよ。うん。
「ま、まあいいわ。ようやくあなたを手に入れたんだから、それくらい大したことないと考えましょう」
「僕、ずっと前からそばかすちゃんのこと、大好きだったんだけど……」
そもそもそばかすちゃんが意地を張らずに僕のことを素直に「好き」と言ってくれさえすれば、もっと簡単に手に入れられたと思う。
ここまでこじれたのは、そばかすちゃんが意地を張ったせいだからね? 僕はとっくに準備万端だったんだからね?
「なんなら、もっともっと煽りまくって、もっともっと自慢しまくって、徹底的に心を破壊しにいきましょう。嫉妬の中で生きるなんて、なかなかかっこいいんじゃないかしら?」
「なるほど。“かっこいい”ならやるしかないね」
僕達は二人で寝転びながら向き合って、ニンマリと口角をあげた。
「いやでもやっぱり! あんなことしなければ!!」
「ふふっ、めんどくせえ」
僕は小さく笑う。
めんどくさい世界。めんどくさい人々。めんどくさい彼女。
ははっ、案外僕は「めんどくさい」が愛おしいみたいだ。
「「「おーい!!!」」」
僕達を呼ぶ、愛する人達の声。
起き上がると、僕の結婚相手が勢揃いしていた。
さあ、全員そろったことだし、結婚報告の宣伝用に写真を撮りに行こうか。
「それにしても、ゆーれいやマネージャーさんとも結婚するとは思わなかったなあ……」
なんとなしに、小さくつぶやく。
正直さ、心の隅では、家族とはどうせ結婚することになるとは思っていたんだ。
でも、マネージャーさんとゆーれいとも結婚するとは、夢にも思わなかったなあ……
僕が二人と結婚することになったのは、そばかすちゃんと結ばれてすぐだった。
初恋が叶い、今一度立ち返って二人のことを考えてみた。
「……あれ?」
どうにも二人が他の男と幸せになることが嫌だった。
だから僕は、二人にも結婚を申し込んだのだ。
「ふふっ、私は最初からこうなると思っていました」
真っ先に駆け寄ってきた妹が、セミロングの美しい髪を揺らしながら、色っぽく笑う。
僕がひとり暮らしの家を選ぶ時、大きな家にしたのはこの時のためだったそうだ。
妹は何でもお見通しだ。
「幸せか?」
ふと、母がぶっきらぼうに僕に問うた。
本当にこの選択でよかったのか、後悔していないか、最後の確認のつもりなのだろう。
「うん、最高に幸せ。なんとかここまでこれて、本当によかった」
「今回の人生、悠久のゴールは、ここか?」
力強い目で、僕を覗き込む。
いやいや、そんなことないよ。
だってほら、こんな言葉がある。
――人生は一度きり。誰かが言った、有名な言葉。
僕はそうは思わない。
だってさ、みんなのおかげで、これから僕の遺伝子は、悠久の時を生きるんだ。
拝啓、未来の僕へ。
未来の僕は、ちゃんと「かっこいい男」になれているだろうか……?
ふと、母の言葉を否定するのに、いい言葉を思いついた。
僕はとても自然な笑顔で笑いながら、大好きな言葉を放つ。
「そんなわけないだろ! もうええわ!!」
どうもありがとうございましたー。
なんてね。
――完――
悠久達の人生を楽しんでくれてありがとうございました。
作者は「TS系」と「貞操逆転系」の作品を交互に書いています。
次回作は「さしすせそで攻略する異世界」
https://ncode.syosetu.com/n6154me/
明日から毎日投稿予定。
次次回作は「多分非モテ男の妄想世界に転生してしまった」です。
では次の物語でお会いしましょう。




