表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑ってはいけない貞操逆転世界!  作者: ながつき おつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/46

33話 言ってないんだけど

一ミクロンでも口角が上がれば★やブックマークをお願いします。




――人は失敗からのみ成長できる。誰かが言った、有名な言葉。


 僕はそうは思わない。


 だってさ、僕は身近でその実例を見てきたから。過去の失敗を振り返らず、今だけを徹底的に頑張る成功者を。


 そう、僕の姉。小張のこは、まさしく今を生きる女である――

 


「ねえ、悠久、慰めて?」


「そばかすたん。遅れてごめんね」


 目の前には、肩を落とした姉と、ゆーれいの姿があった。


 そんな二人に謝られる、僕とそばかすちゃん。


「……まあ、明らかに姉が悪いから、しょうがないね」


「たまには先輩も怒られるべきよ」


「「そんなぁ!」」


 姉とゆーれいが捨てられた犬のような瞳で僕たちを見てくる。


 この二人は、さっきまでマネージャーさんにしこたま怒られていた。


 原因はそれぞれ違う。


 姉は悪ノリをやりすぎてしまい、ラジオで放送禁止用語を連発してしまったこと。

 ゆーれいは度重なる遅刻が原因だ。


「じゃ、時間も押しているし、先輩、さっさと稽古場へ行きますよ」


 そばかすちゃんがこう切り出す。


 そもそもそばかすちゃんがここにやってきたのは、ゆーれいとのツーマンライブが迫ってきているからだ。


 二人は中高と一緒の高校で、昔からのゲーム仲間らしい。


 その縁は強く、今でもこうして「どくどくだま」という謎の名前のライブを定期的に開くほどだ。


 なんか、二人が親の敵ってくらい憎んでいるゲームのアイテム名らしいが……あまりゲームの世界に明るくない僕には当然ピンとこない。


 でもこの二人、ライブでは毒を吐くことが多いので、ピッタリの名前ではあると思う。


「じゃあ、悠久、いつものいい?」


 いつものとは、二人の稽古を見学することである。


 そばかすちゃんは、僕が見ているほうが気合が入るらしい。


「もちろん! いやあ、楽しみだなあ!」


 実は僕、超やり手作家としての裏の顔があるんだ。いつもビシビシとネタのダメ出しとアドバイスをして、二人を助ける影のボスで――

 

 分かってるかもだけど、もちろんそんなことは嘘である。僕に面白いものを作る才能はない。


「いつものように、大人しく見させてもらうね」


「ええ。あなたは出しゃばってアドバイスとかしないから、助かるわ」


 ある程度人前に出せるレベルになると、この二人は最後の修正のため、いつも僕にお願いする。


 アドバイスなどはされたくないが、人がどう反応するかは見たいんだってさ。


「ふひっ、ウチ達のネタに対して、我が物顔で『絶対あそこもうちょっと間を開けたほうがいい』とか指図してきたあの他事務所の先輩芸人。一生許さないから」

 

 ゆーれいは黒い笑みを纏いながら、続けてボヤく。


「こういうやつがいるからこの国は良くならないんだよ。こういうやつ、『詐欺業者に引っかかったふりをしてみた』とかの動画が好きなタイプだわ。あれ、一ミリも面白くないからな?」


 ゆーれいは止まらない。


「ふひっ、ああいうやつに限って、バスツアーとか開催したりするんだよ。そんなんだから地元の友達しかお客が来ないんだよ。そして結局、霊が見えるとか言い出すんだよね。はいはい、ワンパターンワンパターン」


 まだまだ止まらない。


「『唐揚げにレモンかけるの? ないわー(笑)』じゃねえんだよ。その話題、もう飽き飽きだわ。お前の存在が『ないわーwww』だよ」


 ここでようやく、そばかすちゃんが止めに入った。


「あの先輩のことでしょ? 気持ちは分かるけど、言い過ぎよ。そういうのはツーマンの時までにとっておきなさい」


「ふひっ、そばかすたん。ライブでは一緒にダークサイドに落ちようね」


「私を先輩と一緒にしないでよ。そこまで堕ちるほど、性格がひん曲がっていないわ。私はただ、日頃の鬱憤を叫んでいるだけだもの。あと、気持ち悪いからそばかすたんって呼ばないで」


「ツンデレそばかすたん、可愛い。ふひっ」


「近寄らないで! 鼻息が荒い! キモい!」

 

 相変わらず二人は仲が良さそうだ。


「でもさー」


 突然、姉が二人がじゃれ合っているところに突撃し出した。


 お姉ちゃんって、面白そうなところを見ると、とりあえず乱入しちゃうんだよね。


「ふひっ、なんですか? 百合の間に邪魔する女は嫌われますよ?」


 少し棘のある言葉を平然と受け流しながら、姉はこんなことを言い出した。

 

「結構な回数稽古してるんだから、もう練習はよくない? 仕上がりは完璧でしょ?」


 ここで一瞬、不自然な()が開いた。どう答えれば角が立たないか、迷ったのだろう。


 口火を切り出したのはそばかすちゃんだ。


「私達は『弓なり』みたいな天才と違って、しっかり稽古したものを発表するタイプなんですよ」


 芸人の中には、一から十までアドリブで漫才を披露する人もいるらしい。


 弓なりは全てアドリブではないが、とにかく道中で横道にそれるタイプ。そういう意味ではアドリブと言えなくもない。


「いやあ、真面目だねえ。ツーマンなんてお客さんが優しい人ばっかなんだから、もっと肩の力を抜いたらいいのに」


 姉の気楽な言い分に、ゆーれいが即座に答える。


「ふひっ、ウチ達、“降りる”ことによっておこる笑いが嫌いなんです。ハプニングとかアクシデントとか失敗とかで、笑われたくないから」


 降りるとは、一種のお笑い用語だ。


 コントの役や設定、または平場(トークコーナー等)でのボケ・ツッコミの空気感から抜け出し、素に戻ってしまうことを差す。


「えー、別によくない? その場でお客さんが笑ってくれるなら、なんでもいいじゃん!」


「そこはもう、考え方の違いですね。私たちはネタの中身で勝負したいので。一応言っておきますけど、私たちの考え方のほうが一般的ですからね」


 そう、芸人の間では、降りるというのは忌避(きひ)される文化がある。


 僕も(いち)お客さんとしては、その場が面白ければいいじゃんという考え方なのだが、ここは考え方が分かれるところだ。


「ってことで! あーしも暇だし、ネタの見学したい!」


 ……何が「ってことで」なのかは分からないが、その場を生きている姉にはよくあることだ。


「……先輩だけどタメ口で言わせてもらいますね。嫌よ。あなた、邪魔ばっかりするじゃない」


「いいじゃん! お願い! 絶対邪魔しないから! ほら! 悠久もちゃんとあーしの面倒を見てくれるって言ってるし!」


 ……言ってないんだけど。


「……まあ、ちゃんと手綱をつけてくれるのならいいけど……もう一度言いますけど、邪魔だけはしないでくださいね」


「もちろんそんな事しないよ! さっきも悪ノリで怒られたばかりだしね!」


 さっき怒られたとは思えないような輝かしい笑顔で、姉は頷いた。


「……悠久、くれぐれも頼むわよ」


「もちろん」

 

「あーしに対する信頼感がない!?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ