31話 仲いいなあ
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母の死体を海に沈め、僕はにやりと笑う。
「これで僕の秘密を知るものは、この世にいなくなった……」
うん、分かってるかもだけど、もちろんそんなのは嘘である。
ただ単に、海の水で母を綺麗にしただけね。
「ふへ、ふへへへへ……我は魔王。世界の半分を悠久にプレゼントしよう。きっと喜んでくれる……」
あはは、幸せそうに夢見てるし、もう放っておこうね。
「あれ? そういえばちろるはどこ行ったの?」
「飲み物を買ってきてもらってるはずだけど……あ、噂をすれば、来たみたいね」
「お兄様! そばかすちゃん。戻ってきました。少し休憩にしませんか? えへへっ、少しだけ小腹が空いてしまって」
「そうだね。ちろるもそばかすちゃんも可愛いし、そろそろ休憩しようか」
「……?」
妹がコテンと首をかしげる。
それから、どんどん獣のような香りが漂うようになり……
パンと、大きく自身の頬を叩いた。
衝撃により、大きく地面が揺れる。
それから、ちょいちょいと、妹がそばかすちゃんを手招きして、なにかコソコソと話し出した。
「(……兄が普段よりニッコニコなのですが、なにかしました? 今の兄、やばいです。もはや女性にとってテロです。テロいです。それに、微妙に会話の因果関係がおかしかったのですが……)」
「(きっと、海でテンションがおかしくなってるせいね)」
「(……本当にそれだけですか? とうとう折れて好きとでも言ったのかと。いや、死ぬほど意地っ張りなあなたが、この程度の活躍具合で言うわけないか)」
「(……そんなの、私の勝手でしょ。とにかく。落ち込んだところに慰められて、さらに大好きな海に来て、ちょっとだけいつものバランス感覚がおかしくなっているのは確かね)」
「(なるほど……大体分かりました。要は大好きな海とそばかすちゃんのダブルパンチで、兄の脳がやられてしまったというわけですか)」
「(そうなるのかしら)」
「(……ていうか、あなた、どうせ兄のこと好きなんでしょ? いつも言っているけど、さっさと諦めて『好き』って言えよ。兄はひとつのことしか考えられない人だから、今は初恋のあなたで頭の要領がいっぱいなの。私たち家族を筆頭に、後がいっぱいつかえてるから、あんまり焦らさないでくれる? さっさとしないと、粉々にするわよ?)」
「(私には私なりのプライドってもんがあるのよ。あなたの脅しなんかに屈しないわ)」
「(そんな足をガタガタ震わせながら、よくそこまで意地はれるわね。はあ~、めんどくさい女)」
もちろんヒソヒソ話を盗み聞くようなカッコ悪いことはしない。
何を話しているのかは知らないが、とにかく仲が良さそうでなによりだ。
きりの良さそうなところで、僕は二人に声を掛ける。
「そういえば、今日は少し張り切って、たくさんお弁当を作ってきたんだった。せっかくだし食べない?」
「「ええ、もちろん!」」
うん、やっぱり二人、息ぴったりだ。仲いいね。
母を寝かせてあるレジャーシートの元に集まり、僕はお弁当を広げ始めた。
「ねえ、距離が近くない?」
「ん? そうかな? でもいいじゃん。僕が幸せだし」
「……そうね」
えと、なんでそばかすちゃんは、僕を救いようのない者を見る目でみるんだろうか?
……でもまあ、僕はすっごく楽しいし、どうでもいいや。
「お兄様、幸せオーラのせいで、母がビクンビクンと痙攣しているのですが……」
「まあ、そういうこともあるよね~ ふんふんふ~ん♪」
どうせ倒れているだけだし、大丈夫でしょ。うん。
「……お母様は避難させておきましょう。死体撃ちによって、本当に死にそうですし」
ちろるは母を片手で抱え上げ、車に避難させた。
……よし、これで作ってきたものは全部かな。
ちろるが帰ってきたと同時くらいに、全ての料理を広げ終わった。
「それにしても、ほんとに大量に作ってきたわね……」
「うん! そばかすちゃんが来るって聞いて、張り切っちゃった」
そばかすちゃんは本当によく食べる。
大食い番組で桁違いの量の料理を、何度も平らげたことがあるほどだ。
……よくそんな小さな身体で、そんなに入るなあと、その食べっぷりにはいつも感心してしまう。
でも、いっぱい食べる子って、なんか可愛いよね。
「唐揚げに焼きそばにハンバーグに焼き鯖に焼き肉にウインナーに……見事に茶色ね」
「うん、女の子って茶色が好きでしょ?」
「「間違いない」」
うん、やっぱり二人は仲が良いな。
茶色い食べ物が好きな気持ちは、よーく分かる。
なぜなら、僕も前世でそうだったから。
今世では野菜は大好きだけど、前世では野菜なんて「あれば食べる」程度の認識だったもんなあ……
特に芸人さんは、茶色の食べ物が好きな人が多い気がする。これ、芸人さんたちにご飯を食べさせている僕の経験則ね。
あと、これはすっごく余談だけど、この世界の芸人さん、その中でも中堅芸人さんより年齢が上の人は、特に茶色が好きだ。
この茶色っていうのは……うん、人間が下からトイレで出す、汚いやつのことね。
若手芸人はそうでもないけど、よくテレビで下の話で笑いを取っている芸人さんを見るからさ。
茶色っていうのは、芸人界では覇権コンテンツなのだ。
「お腹すいてるから、いっぱい食べちゃいます! (確かそばかすちゃんは太ったことを気にしているのでしたよね? 代わりに私が全て食べてあげます。あなたは指を咥えてただ突っ立ってなさい)」
ん? 妹が視線に何か意味を含ませて、そばかすちゃんに向けたぞ?
それを受けたそばかすちゃんは、どこかこめかみがピクピクしている。
仲の良いそばかすちゃんにはしっかり意図が通じ合っているっぽい。
ちょっと僕にはその会話術は高度すぎてよく分からないけど……とにかく、妹にもいっぱい食べてほしいな。
ちなみに、妹もほんとによく食べる。食べようと思えば無限に入るらしい。
実際妹の口から「お腹いっぱい」という言葉を聞いたことがない。
凄いよなあ……僕なんて、水族館に行っただけでお腹いっぱいになっちゃうくらい、少食なのに……って、僕の話なんてどうでもいいよね。
「私もお腹ペコペコよ。(知らないのかしら? この国にはこんな名言があるのよ。『ダイエットは明日から』そう、明日から頑張ればいいのよ)」
おっと、今度はそばかすちゃんも同じように、高度な「視線会話」で返した。
当然僕には内容までは分からない。
「そうですか。私も同じです。(ダイエットは明日から、ですか……ふふっ、色んなことを先延ばしにしてきた、あなたの人生みたいな言葉ですね)」
妹はいつものような天使のような笑顔で、そばかすちゃんと視線を交わす。
でも、なぜだろう、いつもは天使にしか見えない妹が、一瞬悪魔じみた陰りが見えたような……まあ、気のせいか。
それにしても、すっごく高度な会話術だ。もはや、テレパシー?
これがヤムチャ視点ってやつか。
やっぱり二人、仲いいなあ。
「悠久の手作り弁当、楽しみだわ。(あなたこそ、いいのかしら? こんなご馳走を目の前にして、テンションが上がったせいかしら。それとも、あなたの最愛の兄のテンションがおかしくて、つられたのかしら? 本性を隠すのを忘れていない? あっ、ごっめーん。私がどんなに醜くても愛されているからって、あなたにもそれを求めるのはお門違いだったわね)」
「それ以上言うと、足先から順番に壊しますよ? (ふふふっ)」
二人はバチバチと視線を交わしながら、和やかにテレパシー会話をしている。
最後、妹の口からものすごく物騒な言葉が聞こえてきた気がするけど……まあ、気のせいか。そんなわけないもんね。
「ほら、二人ともじゃれ合ってないで、食べよう。いただきまーす」
「「いただきます」」
二人がガツガツ僕の作った料理を食べてくれる姿を見て、胸がいっぱいになる。
そんな様子を見て、不意に魔が差した。魔が差してしまった。




