表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑ってはいけない貞操逆転世界!  作者: ながつき おつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/46

27話 僕に前世があってよかったね 

一ミクロンでも口角が上がれば★やブックマークをお願いします。



――お笑いで大切なのは「ニン」である。誰かが言った、有名な言葉。


 僕はそうは思わない。


 たとえそれが真実なのだとしても、僕は決してその言葉を信じないだろう。


 そんなにニンなるものが大事なら、キャラクター性のないお笑い芸人が無価値となってしまう。


 お笑いファンの僕としては、たまらなく嫌なのだ。


 だからこそ僕は声高に叫ぶ。


 お笑いは9割以上がテクニックだと――




 SNSに届いたコメントを自室で見て、ゆーれいが一人、悪態をついていた。


「ふひっ、なーにが『ゆーれいはニンがないから、一生売れない』だよ。素人が“ニン”とかほざくな。カスが。その言葉を使ってもいいのは芸人だけだ。だからお前は得意げに食材の産地とか一方的に話して、全員から嫌われてるんだよ。いや、お前のことなんて知らねえけどな。絶対そうだわ」


 ゆーれいの黒いボヤキは止まらない。


「お前、絶対、冠婚葬祭の途中で帰る非常識な人間だろ。学生時代、しょっちゅうメアド変えてめんどくさがられてたんだよな。こういうやつって」


 まだまだ止まらない。


「学生時代、別に友達が居ないわけじゃないけど、友達全員からうっすら嫌われていたね、お前は。あとあれね。えぐり取りたいくらい恥ずかしい黒歴史があって、隠してるタイプね。ウチには分かる」


 一向に止まらない。


「こういうやつが積立投資で貧乏になるんだよ。バーカ。お前、季節の変わり目とか、気づいたことある? ないよね? お前はもうちょっと視野を広く持ったほうがいいよ? あっ、そうか。みんなお前を冷めた目で見てるから、見たくないんだ。ごめん、配慮が足りなかったね」


「ねえ、そろそろ気分も落ち着いた?」


 僕はゆーれいの背後から声を掛けた。


 ……言いたい放題だったけど、ゆーれいはこうやって家でぼやくだけで、表で言わない分、偉いと思う。


 ほら、レスバってなんかこう、見てられないからさ。



 僕に突然声をかけられ、ビクッとゆーれいの背中が揺れる。


「……ふひっ、伝説ポケモンが我が家にいる件について」


「だれが伝説ポケモンじゃ。合鍵を使って勝手に入らせてもらったよ」


「ふひっ、もうそんな時間か。いらっさーい」


「うん、おじゃましてます」


 ゆーれいの家は、たばことアルコールの匂いが鼻につく。


 床には飲み終わった缶ビールが散乱しており、飲みかけのペットボトルや、謎の小物まで、狭い部屋にところ狭しと置いてある。


「相変わらず掃除のできない人だね。うげっ、なんで賞味期限が半年前のジャムなんてあるんだよ……」


 一ヶ月前にもこの部屋を掃除したのに、どこに隠していやがったんだ、こいつ。


 他にも、コーヒーの染みで汚れたレシートや、何故か萎れた花なんてものまで……はあー。


「ひぃ、これでもさっき軽く掃除したんですが」


 多分こんな汚い部屋にこの世界の男が入ったら、発狂物だろうな。


 ほんと、僕に前世があってよかったね?


「で、最近いつ風呂に入ったの?」


 突然の僕の尋問に、不自然なくらい、数秒、()が空いた。


「……そんなことより、ですね。えとあの、そばかすたんのライブ映像が手に入ったので、一緒に見ましょう。それがいいですね。うん、それがいい」


 何故か敬語で、しかも消え入るような声でまくしたてる。その目はしっかり斜め上を向いていた。


「うん、片付けできないのはまだいいけど、せめて風呂には入ろうね」


「あのー、ね。ふひっ、風呂の野郎がですね、正直、性格悪いところあるでしょ?」


「風呂の陰口言ってないで、ほら、今すぐ入ってきて。その間に僕はゆーれい達のネタでも見てるからさ」


「ふ、ふひぃ」


 僕はゆーれいを強引に風呂場に押し込んだ。


「うっは。果てしなくイケメン男子に風呂に連れてかれるとか、絶対バレたら殺されるやつじゃん。やーん、ダーリンったら、だいたーん」


「はいはい、分かった分かった」


 ゆーれいのおふざけは無視。とにかく今は風呂だ。

 

 このように基本的に僕の親友、ゆーれいは生活力皆無だ。


 お笑い鑑賞とゲームとインターネットとネタ作りに一日を費やしているせいで、衣食住がおろそかになってしまう。


 だからこそ、こうやって僕はたまにやってきて、最低限のチェックをしているのだ。


「うん、ちゃんとご飯も食べてるみたいだし、寝てる形跡もある。今月は大丈夫そうだね」


 あいつ、コント中に寝落ちしたこともあるほどだから……


 一応親友として、心配なのだ。


「じゃ、後ろのコート屋のコントでも見ようかな」


 備え付けの小さなテレビで、映像を流し始めた。



 手品師の格好をしたゆーれいが、慌てている。


 セットの感じから、マジックバーのようだ。


 カウンターの椅子に、何故か小さな白い鳩がちょこんと座っている。


『やばい……やばいぞこれ。やばい』


 ゆーれいはさぞ慌てている。


 辺りを見回し、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。


『どうしよう……店長に教えられた通りにやっただけなのに……』


 そう言いながら、お皿の下を覗いたり、店を覗き込んだり、鳩を手に取ったり……何かを探している?


 店長ってことは、バイトか何かなのかな?


『大丈夫、一度深呼吸しよう。すぅぅぅぅ……はあああああ。うん、大丈夫。こういう時は、店長に相談しよう』


 さて、ここまで長々引っ張っているが、何を慌てているのだろうか?


『てんちょー!! てんちょー!! 来て下さい!! 緊急事態です!!』


『はいはい。なんだ?』


『あの、落ち着いて聞いて下さい。手品でスカーフを鳩に変えるマジックをしたらですね……』


『うん』


『何故かお客さんを鳩に変えてしまいました!!』


『…………はあ?』


『クルックー』


「あははははは!」


 うん、面白い。素直に笑いが込み上げてきた。


 いつもこんな風に普通に笑えればいいんだけど……表に出ると、途端に無理なんだよなあ。


『店長! どうしましょう!』


『いや、そんなわけないって』


『でも、実際そこに』


『くるっくー』


『えと……とりあえず……お客さんを探せ!! そんなわけないんだから!!!』


『はい!!』


 今度は店長とゆーれいの二人が揃って慌てだした。


 すると……



――バリンバリンバリン!!ドシャアアア!!ドンガラガッシャーン……パラパラパラ……


 あまりのゆーれいの慌てっぷりのせいで、棚に置いてあった全てのお酒の瓶を割ってしまう事故が起こる。


『……』


『お前……』


『店長。今日までありがとうございました』


『ちょちょちょ! 待て! こんな状況でバイトをやめられると思うな!!』


「あははははは!」


「ふ、ふひひひ。イケメンがうちのネタで笑ってる……やば、濡れる」


「うわっ、びっくりしたあ。ゆーれい、もう風呂上がったんだ。ちょっと早すぎね」


 突然背後から低い笑い声が聞こえてきたと思ったら、髪の毛をビチャビチャに濡らしたままのゆーれいだった。


 バスタオルを巻いただけの姿で、僕の背後に立っている。


「って、どんな格好してるんだよ。ほら、バスタオル貸して? 拭いてあげるから」


「ふひっ、あーれー」


 僕は強引にバスタオルを剥ぎ取ると、頭を拭く。


 普通この世界の女性にこんなことしたら、確実に自分に好意があると勘違いされる。


 でもまあ、ゆーれいなら大丈夫だろう。


「ふひっ、やば、濡れる。流石のウチも、これにはノンケ落ち不可避」


 ノンケとは、同性愛者から見た異性愛者を指す言葉だ。

 

 つまり、彼女は性的対象が女性なのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ