26話 腹筋が痛いです
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「きたきたきたあ!! リーチ! さあ、今回のはデカいよ!!」
この場には果てしない緊張感が漂っていた。
……やばい。さっきからずっと、姉が止まらない。
このままでは、姉の圧倒的一人勝ちだ。
僕とマネージャーさんとゆーれいで、目を合わせる。
もう、あの手段しかない。
(笑わせよう)
僕達の心は一つになっていた。
この麻雀は笑ってはいけない。笑うとマイナス5000点だ。
姉が動画的に面白くするために付け足したルールだが、存分に利用させてもらおう。
姉はゲラだ。この中で一番笑いやすい。狙うなら徹底的に集中砲火だ。
まずはこの中で「お笑い力最弱」の僕から仕掛けてみよう。
……よし、笑わせるぞ!
僕は今から、面白いことを言うぞ!!
ええっと、ああっと。
あと、あの話は流石にまずいよね。ある女性が「吊り橋効果!!」って叫びながら、包丁を持って僕に向かってきた話。
僕はちょっとおもしろかったんだけど、あの話を笑い話にすると怒られるから……
とにかく、唸れ僕の脳細胞!! なんでもいいから、ひねり出すんだ!!
「あー……漫画とかのデータキャラって、絶対自分の手の内を晒さないほうが強いよね」
「「「……?」」」
ダメだ! 僕に面白いことを言うのは、まだ早い!
そもそも僕、ボケと嘘の違いすら曖昧なのだ。
そんな僕がユニークなことを言えるわけがなかった!
「というか、悠久? それ、ロンだよ」
「――ッ!!」
くそっ、卑怯だぞ!
何か面白い事を言うのに必死で、盤面を見られていなかった!
「僕はまんまと罠に乗せられたってわけか……」
「罠?」
姉が首をかしげているが……うん、これは姉の仕掛けた罠だ。罠ったら罠なのだ。
「まあ、一旦。一旦ね。それに、デカいと言いつつ大したことない上がりだったし……セーフ」
一旦今のはなかったことにしてもろて。あと、泣いてなんかいないからね。
「――またまたリーチ! うん! 今日の私はノリに乗ってるね! この流れは、麻雀の神が私に勝てと言っているようなものだね!」
「……コクリ」
マネージャーさんが僕の目を見て頷いた。
あの有能な社長が動く。これならきっと、姉は笑い転げてくれるだろう。
「一週間前ね、メールでやり取りしていたある男の子に、『あなたとの結婚費用のために、500万振り込んでほしい。もし今日中に振り込みを確認出来なかったら、あなたとは一生連絡をしません』って連絡が来てね」
「え? 振り込んでないよね?」
思わず僕はそう問いかける。
それって、死ぬほど詐欺じゃん。
「いや、ギリギリで踏みとどまったんだよ。振り込む寸前、周りから羽交い締めで止められてね。偉いよね、私。でね。これは今日分かったことなんだけど、そのメールの男の子の正体、昔私と仲良かった友達だったんだよね……」
「……」
「しかも、その友達は友達で、外国人の男に貢いでるみたいな話を聞いてさ。そのお金を稼ぐために詐欺をしたらしくて……ははは、なんか、笑っちゃうよね」
「「「……」」」
笑えねえよ!!!
どうしてくれるんだよこの空気!!!
無言で停滞したこの空気を切り裂いたのは、姉の大きな一言だった。
「なんのためにマネージャーのその目は4つもあるんだよ!!!」
ツッコミのていをなした、勢いだけの雑なボケ。
ただ、この空気の中では、そんな単純なことでも不思議と面白い。
「ぴひょ――ッ!」
「ウヒヒ、はい、悠久は笑ったから5000点マイナスね」
僕が笑ったことで、姉がにぱっと笑った。
「のこ、あなたもアウトよ。ついでに、安いけどあなたのその手、ロンよ」
姉は椅子からひっくり返る。
「オーマイガッ! 麻雀の神は死んだ!」
なんとなくだけど、麻雀に神はいないけど、悪魔とかならいそう……っと、そんなことどうでもいいや。
よしよし。まあ、僕も笑っちゃったけど、姉も笑ったからセーフ。
マネージャーさんの身を削るようなボケは、一応効果はあったようだ。
ちなみに、のこって言うのは姉の本名かつ芸名ね。小張のこ。それが姉の名前。
でも、これで分かったことがある。
やっぱり僕やマネージャーさんはお笑い芸人でない分、意図的に人を笑わせるのは難しそうだ。
頼れるのは、僕の親友のゆーれいしかいない。
「ふ、ふひぃ」
あ、ダメそう。
ゆーれい、ネタは面白いし、物事を斜め上から見るうがった視点での偏見や悪口は、かなり面白いんだけど……
なんというか、ゆーれいって先輩がいる場では、あんまり調子が出ないんだよね。
萎縮しちゃうというか、内弁慶というか、格下しかいない場でしか輝けないというか……
「(ゆーれい! いつもの言い過ぎってくらい偏見悪口芸、頼む!)」
僕は目で合図を送る。
「ふひっ、無理すぎワロタ」
隣にいる僕にしか聞こえないような声で、ゆーれいは呟いた。
「ん? ゆーれい、なんか言った?」
「いえ、なんでもないですぅ……」
えと、まあ、がんばれ! 親友! この場で人を笑わせられるのは、それでもゆーれいだけなんだ!
僕はゆーれいからディープなお笑いを教えてもらった。
ある意味僕の師匠とも言えるゆーれいなら、いけるはず!
それから――
一応ゆーれいは、小心者なりに頑張ってみることにしたようだ。
「雨天決行の旅行。水も滴ってメイクもドロドロのやべえ女。これぞまさに雨天滑稽」
小さな声でぼそっとボケるゆーれい。
「いや、歩いていかんかい!!」
大きな声と勢いだけで、めちゃくちゃなツッコミをする姉。
この二人のせいで、もうめちゃくちゃだった。
「どこへ行っても、どんなに逃げても、いつもそこには――アルミ缶の上にあるみかん」
「流石にそれは執行猶予だろ!!」
「ふっとんだ布団が戻ってきた!?」
「女は黙って、肉眼!!」
「『このつくね、熱くね? あっなんかダジャレみたいになった。うけるー!』『おい! 囚人番号35番! 黙って食べろ!』」
「いや、主人が帰ってきた時の柴犬かよ!!」
……ね? めちゃくちゃでしょ?
でもさ、そんなめちゃくちゃに弱い人もいるんだよね。
「あははははは!!」
「うぴぴぴぴっ。はあ……はあ……」
「はい、小張家の二人はまたアウトね。ちょっと二人とも笑いすぎ。のこに関しては、自分で言って自分で笑ってるじゃない」
うん、腹筋が痛いです。
笑うのを我慢しようとしても、虚弱な僕には無理だったよ……
結局この回、僕は0点以下にはならなかったが、やはり最下位。
そして、たくさん笑った姉が3位、淡々と笑わずにボケ続けたゆーれいが2位、一度も笑わず、ちまちまと小さな上がりで点数を積み重ねたマネージャーが一位となった。
「今回もあーし達は無様に足を引っ張り合い、悠久を脱がせられませんでした。次こそは頑張るので、チャンネル登録、高評価、お願いします」




