25話 それとこれとは話が別なのね
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――一パーセントでも可能性がある限り、諦めるべきではない。誰かが言った、有名な名言。
僕はそうは思わない。
だってさ、僕はそろそろ諦めてほしいんだもの。
確かに1パーセントくらいはあるかもしれないよ? 成功確率が一パーセントでも、それを50回繰り返せば、4割くらいの確率で成功する。
そう考えれば、一パーセントは決して低いものではない。
ただし、これはあくまで確率の話。
僕に意思というものがある限り、確率通りになんていくわけがないんだから――
「2のまる」
「6の竹」
「東」
この場には、ただならぬ緊張感が漂っていた。
「ううう……ここは流石に大丈夫……か? よし! 北」
「それだっ、ロン! ロン! ロオオオオン!!!」
「うっげ、相変わらずお姉ちゃん、変な単騎待ちが好きだなあ……」
「ふふふっ、ハンデありとはいえ、このままじゃあすっからかんになっちゃうよ?」
「……勝った気になるのはまだ早いよ。まだまだ始まったばかりじゃん」
「あれあれぇ??? 悠久? 声が震えてるよ~? あひゃひゃひゃひゃ!!」
深夜も深夜、僕たちは麻雀をしていた。
メンバーは僕、姉、マネージャーさん、ゆーれいの四人。
ゆーれいっていう人を雑に説明しよう。
彼女は僕の腐れ縁であり、親友だ。そして、「後ろのコート屋」というお笑いコンビの片割れとしての顔も持っている。
大帝国、弓なりに続いて、後ろのコート屋が、うちの事務所のトップ3だ。
他のゆーれいの特徴としては、その名の通り存在感が気薄で、いつも寝不足。身長が高く、細身。
腰くらいまで伸びる長い髪の毛を持つ。前髪で顔が見えないけど、普通に可愛いことを僕は知っている。
あとは……メガネをかけたコント師、とか?
うん、これくらい説明すれば充分かな。
「大丈夫大丈夫、いくら僕だけが初心者だからといって、10万点もハンデをもらってるし、僕だけ点数が倍もらえるんだから、大丈夫」
そう言ったのは、僕自身を落ち着かせるため。いくらハンデをもらっているとはいえ、ほとんどの回で僕は負けている。
そもそも、僕は麻雀の初心者だ。
なんとなく数字を揃えていけばいいということしか理解しておらず、役と呼ばれるものも「リーチ」という一つしか知らない。
麻雀上級者が言うような「チーソー?」だかなんだか、難しい手牌の呼び方も覚えていない。
だから、僕に合わせて優しい呼び方にしてもらっている。
「ね? 初心者でも、楽しく遊べるでしょ?」
「……今のところ、ボッコボコにやられすぎて、あまり楽しくはないんだけど」
僕のそんな返答に対し、にひひっと笑う姉。
調子がいいからって、調子に乗らないでほしい。
ほら? 他の女性二人も、明らかに目が死んでるじゃん。
さっきから僕と姉しか喋ってないよ。
「そして私の親番はまたまた続く! さあ! どんどん行くよ! そして! 私たちは確実に悠久を脱がせるのだ!!!」
「ねえ、脱ぐのだけは絶対にダメって言ったよね?」
「大丈夫! 悠久なら死ぬほど頼めばワンちゃんある! だって、悠久はあーしのこと、大好きなんだから!」
「はあ……」
論理が破綻してない?
「あひゃひゃ……脱衣麻雀、狂気の沙汰ほど面白いっ――!! これだよ。あーしの求めていたものは、これだったんだっ――!」
ああ、あの姉の血走った目、あれはダメだ。性欲で目が曇ってやがる。
さて、今何をやっているのかというと、うちの芸能事務所の人気企画「第七回! 笑ってはいけない脱衣麻雀」の撮影中だ。
笑ってはいけない脱衣麻雀。
最初は僕に悪い遊びを教えるというていで、麻雀を教えるというようつべの一企画だった。
それがこんな流れになったのは、大体姉のその場のノリのせいだ。
「罰ゲームあった方がおもしろくない?」
「その時一位の人が、点数が0点以下になった人に一つお願いをできるってのはどう?」
「初心者の悠久にはもちろん、とんでもないハンデをあげるよ」
「悠久だけ笑うの我慢するの可哀想だから、縛りを設けよう! みんな、笑ったらチョンボ、要するに5000点没収ね」
こんな風にどんどんルールが増えていき……今では1対3の構図になっていた。
みんな、特に姉とマネージャーさんは、明らかに僕を負かそうとしている。
だって、目がギラギラしてるもん。鼻息荒いもん。
一位になって、僕を脱がせる気満々だ。
「だからあ、僕は決して脱がないって何度も言ってるでしょうに。往生際の悪い奴らめ」
どれだけ僕がそう言おうと、この場のみんなも、動画のコメント欄も、不思議と僕が脱ぐことをみんな期待している。
みんな、僕のこと息子と思ってるんじゃないの? 僕の母親共は、息子が脱がされてもいいってわけ? それは話が別ってわけですか?
……まあ、少しメンヘラってみたけど、正直分かってるよ。
この世界の飢えた女どもは、限りなくゼロに近い確率だろうが、望まずにはいられない性分だってことはね。
ほんと、そういうとこ、哀れ……って、うそうそ。嘘でーす。
ダメだぞ。僕。人を見下すのって、カッコ悪いんだから。
女性のそういうところも、お茶目で可愛いと思いますよ。うん。
「さあ、悠久をすっぽんぽんにするまで、ようやく一割といったところかな? この調子であと十回同じことをやれば、あーし達の勝ちだね」
「大丈夫。麻雀って運要素が強いゲームのはずだから。ずっと続けていたら、いつかみんなの点が0以下になる時が来る。そうすれば、こんな悪い遊びをようやく終えられる!」
この麻雀で僕以外が一度でも0点以下になったら、縛りは即終了だ。
僕がその人に何か願いを一つ言って、叶えてもらう予定だ。
姉には、これからは野菜も食生活に取り入れてもらうこと。マネージャーさんには、セクハラをやめてもらうこと。ゆーれいには毎日しっかり寝てもらうことを頼むつもりだ。
「そう、悠久はたった2万5千点を奪えばいいだけ。でもね、初心者の悠久には、それがすごく難しい」
「うぐぅ……もう一度聞くけど、イカサマはしてないよね?」
「もちろん。そこはフェアにやってるよ」
僕は初心者なので、イカサマされても見抜けないからね。そこはしっかりやってほしいところだ。
動画にも撮っていることだし、まあそこは大丈夫だろう。
「まあ、そこは信頼することにするけど……みんな、ただ僕からむしり取るだけじゃ、僕にお願いはできないの分かってる?」
「うん、でもさ、まずはその10万点という鎧をむしり取るところまでは、せめて協力しないとね」
そう、いつも序盤はこうしてハンデ分を取り戻そうと、僕に集中砲火してくるんだ。
……まあいい。本当の勝負はこれからだ。
流石に1対3では勝てなくとも、僕が点数を失うにつれ、3人は自然と協力できなくなる。
みんな基本的には「自分」が一位となって、僕にお願いをしたいはずだからね。
一位以外は無価値なこのルールにおいて、最後まで協力するのは不可能。
さあ、そろそろみんな、醜く仲間割れの時間だよ。




