24話 すいませんでした
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パシャリ。
僕がそっと視線をそらした瞬間、マネージャーの方向からシャッター音が聞こえてきた。
「ねえ、隠し撮りするなら事前に言っておいてよ」
「ふふふっ、こういう素の写真にこそ、悠久君の価値があるんだ。これも宣伝として使わせてもらおう」
「……まあいいけどさあ」
この世界で男を隠し撮りするのは、もちろん立派な犯罪だ。
男の価値が高い世の中、プライバシーの侵害に対しての罪はかなり重い。
ただ、僕がこうして許しているのは、僕がこのマネージャーさんに「あるとんでもない弱み」を握られているから、仕方ないんだ。およよよよ。
そう、実は僕が他国の凄腕スパイで、各国の機密情報を持ち帰っていると――
うん、もちろんそんなのは嘘である。
僕が隠し撮りを許しているのは、ただ単に中学の頃に僕がこう言ってしまったからだ。
『お母さんがもっと有名になるために、僕、なんでもするよ?』
『……ん? 今何でもするって言ったかい?』
マネージャーさんにすごい目で詰められ――僕は宣伝に使われることとなった。
二度と「何でもする」という言葉を使わないと心に誓った。
「では、そろそろ真面目な話をしようか。最初にひかりに来月の仕事の報告を済ませるから、悠久君は少し待っていてくれ」
それからマネージャーさんは、母に仕事の予定を話し出す。
うちの母はピーキーな性格をしているので、どんな仕事でも受けるというわけにはいかない。
こうしてマネージャーさんがある程度選別したものを、母がもう一度吟味する。母は独自の視点を持っているので、判断が難しいのだ。
それが、母達の仕事を受けるまでの流れだ。
こうやって二人で相談しながら、ダンディズムは大きくなってきた。
さて、その間に、僕も仕事の確認だ。スマホを取り出して、予定の確認を始める。
ええっと、いつものお昼の帯番組のコメンテーターに、似たような仕事が3本ね。
他には、姉たちのコンビ、弓なりのラジオのゲスト。これは気合い入れなきゃね。
おおっ、今月は母とCM撮影が2本と、弓なりとネットCMがあるのか。弓なりを使ってくれるなんて、なかなか酔狂な企業さんだ。最高だな。
他には……母と二人でモデル仕事が仮抑えで入っており、母との取材が3本。これも仮か。
後はようつべの企画に参加するのが主な今月の仕事だね。
うん、概ねいつも通りの仕事量だな。
「このオーディション――」
「却下だ。この仕事は――」
うん、あっちはもうちょっと続きそうだね。
じゃあこの間に、僕はここの料理でも楽しませてもらおうかな。
ここの喫茶店のカフェオレとナポリタン、絶品なんだよね。
麺の絶妙な焦げ具合による香ばしさと、自家製ケチャップによるほどよい甘みと酸味。そして、僅かな唐辛子によるちょっとした辛味も最高だ。
この味、どうしても家では真似できないんだよね。
「すいませーん――」
注文を終え、もう一度今月の仕事をチェック。
改めて見てみると、僕は国民的と言われるほど有名ではあるのだが、仕事数自体は少ない。
僕ってギャラが果てしなく高いし、うちの事務所の芸人が活躍する仕事しか受けないって、固く決めているからね。
そうしないと、僕は大量の仕事に忙殺されることになる。それほど僕の需要は高い。
「おまたせしました――」
おっ、きたきた。
「いただきまーす」
さてと、この絶品料理を、ゆっくり堪能しますかね――
「……ふぅ、ごちそうさまでした」
お腹パンパン。大満足。
僕が食べ終わっても、まだ二人の会議は続いていた。
「却下だ。それでは2日以上悠久成分を摂取できないではないか」
「それくらい我慢しなさい! もう!大事な仕事なのよ! あなたってほんとにもう……めんどくさいわねえ」
「これは譲れない。ところで、そんなに強気でいいのか? この私にだって奥の手があるんだぞ? 今からお前の裏垢を悠久にバラし――」
「分かった! 分かったから! その仕事はもういいから!!」
……うん、いつものように、白熱してるな。思う存分話し合ってくれ。
マネージャーさんの「めんどくさい」という言葉で思い浮かんだ事がある。
そういや、僕ってさ、めんどくさくない男ってだけで、芸能界を5段飛ばしくらいの勢いで駆け上がってきたんだよね。
一応芸能界にも男性アイドルなどはいるが、あいつらはまともに仕事をしないし、すぐ辞めるし、そのくせ要求だけはいっちょ前だからさ。
突然帰ったり、癇癪を起こしたり、全てに無視したりと、ほんと凄いよね。
時には生放送でそんなことをやっちゃう男も結構いるのが、僕には到底信じられない。
ちゃんと言われた仕事はやり遂げようよ……
僕のめんどくさいところなんてうちの事務所の芸人を使わないと出演しない程度なので、可愛いものだろう。
僕だけが有名になっても意味がないからね。
僕はただ、みんなに有名になってほしいだけだから。
……よし、これ以上考えることもないし、後は母達の話し合いが終わるまで読書でもしてますかね。
っと、その前に、やることがあった。
(さささっ……)
僕はこっそり向かいに座っている母のテーブルの上に手を伸ばす。
目標は僕のアルバム。あんな特級呪物は、大至急封印しなければならない。
あそこには、僕の「勘違いかっこいい」が大量に詰まっている。
正直お焚き上げしたいのだが、そうすると母が本気で号泣してしまう可能性が高いので、封印するだけにしよう。
……ほんと、なんであの時の自分はさあ。
食事を塩で食べることがかっこいいと思っていたし、腰パンなんてクソダサい格好をしてたし、ジャケットに袖を通さない格好をしてたし……うん、挙げだしたらきりがないほど、やってたわ。
ああ、死にたい。なんでタイムマシーンって発明されてないんだろう。
(話し合いに熱中している間に……よしよし、アルバムの角を掴めた。じゃ、そっと、そおっと……)
ん?
どれだけアルバムを引っ張っても、びくともしないぞ?
「ふふふ」
顔をあげると、母が自信満々に笑っていた。
僕の行動は全て気づかれていたようだ。
「この私に隙なんてものは――」
言い終わる途中。なにくそという気持ちを込め、僕は母の足にツンツンと突いた
正直さ、ほんの小さないたずらのつもりだったんだよ。
でも、これがダメだった。
「あふんっ」
あまり母から聞くことのないその反応に……
「――ぴひょっ」
咄嗟に手を押さえたが、遅かった。
「やっべ」
ああ、また僕は母を殺してしまった。
幸せそうに鼻から血を流して、倒れ伏している。
「ねえ、悠久君。真面目な話してるって言ったよね?」
マネージャーさんに怒られてしまった。
これ、僕が悪いの?
あ、はい、すいませんでした。
おまけ
マネージャーさんの裏垢。最近のツイート。
女盛りの嫉妬日記
@………………
はあーあ、どうせ世のカップルなんて、水族館で、
「えへへ。泳いでる魚を見てると、お腹空いてきちゃった。じゃ、今からあなたを食べるね。ジュボジュボ……」
「あっ、いく」
「えへへ。イカくさーい」
とかやってんだろ! けっ!
女盛りの嫉妬日記
@………………
久しぶりに会った陽キャの友達に、第一声で「大丈夫、どんな困難も夫となら乗り越えられるよ!」って肩ぽんされた。
「その夫を見つけること自体が困難なんだよ!!!!!」
とは言えませんでした。
おばさん、つらいよ……
女盛りの嫉妬日記
@………………
私がウェディングドレスを着るには、もう私服にするくらい奇抜なことしなきゃ、一生着られない気がしてきた……
金だけはあるから、ポチってしまった。
実際に届いて、ちょっと泣いた。
おばさん、つらいよ……
女盛りの嫉妬日記
@………………
はあーあ、どうせ世のカップルなんて、初セクース中に、
「違う違う、そっちの穴じゃない!」
「ふふふ、こっちも違う棒だぜ」
とかやってんだろ! けっ!
女盛りの嫉妬日記
@………………
男と関わる仕事してるんだけど、なまじ近くにいるからかな。手の届かなさが私をより惨めにさせる。なんか目の奥が痛いんだけど、大丈夫かな?
その日の夜、名状しがたいナニカに追い詰められる悪夢を見て、飛び起きた。
おばさん、つらいよ……
女盛りの嫉妬日記
@………………
うっはwww
今日こんな夢を見たwww
イケメンがさあ、私のお尻の穴にさあ、拳銃を突きつけて「金を出せ」って言ってくれたwww
最高かよwww
ケツから鉛玉撃ち抜かれてえwww うえっうえっwww




