21話 なんでこんな妹ってかわいいんだろうね
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僕が妹のことを世界一信頼している理由。それは、
「今日は背中に手を当てて、女性をエスコートする仕草を練習しましょうか」
ちろるは僕の「かっこいいの師匠」だからである。
「ほんと、いつもありがとう」
「どうしました?突然」
「ううん、なんとなく言いたくなっただけ」
僕のことを正してくれる人は、基本的に妹しかいない。
母も姉も学校の先生もその他の人も僕を否定しないので、僕は周囲から全肯定されながら生きてきた。
……まあ、分かるよ? 男って女性から見れば、魅力的だけど、同時に面倒な存在なんだよね?
この世界では、男性は貴族かのように扱われる。
過剰に男が優遇されているからこそ、そんな文化が根付いてしまったのだろう。
そんな世の中で、女性が男性に注意なんてしようものなら、どうなるか。
そりゃあもう、面倒なことになる。
これ、信じられるかな。いくら女性の方が正しかったとしても、男のわがままが通るケースが圧倒的に多いんだよ? ありえなくない?
前世持ちの僕からしてみれば、それほどこの世界は歪んでいるのだ。
「じゃあ、触れるね」
「ええ、お願いします」
夕食を終えた後に妹から「かっこいい」を教えられる時間が、僕は大好きだ。
この練習は、僕が中学に入った辺りから、ずっとやってきた行事だ。
ゆっくりな動作を意識する。話をしっかり聞く。相手と目を合わせるなど、もう基本的なかっこいいは履修積み。
最近ではこのような、フィクションにいるイケメン男性がしそうな行動を学ぶ時間となっている。
「お兄様、少し力が強いです。あくまで背中に添えるだけ……そうそう。その調子です」
このように、妹はしっかりダメな時はダメと言ってくれる。要領の悪い僕に、できるまで付き添ってくれる。
……やっぱりさ、全肯定するのって、「優しい虐待」みたいなものじゃないかな?
僕はこうやって注意してくれる人の方が、一緒にいて嬉しいな。
だからこそ、僕の認識を正してくれる妹のことを、僕は世界で一番信頼しているのだ。
「流石お兄様ですね! こんなことされたら、女性は確実に腰砕けになるでしょう!」
妹の背中がじんわりと温かくなってきたことが、手に伝わってきた。
同時に妹の纏う空気が淫靡なものに変わっていく。
僕に間近で触れられて、興奮してきたのだろう。
この世界の女性は基本的に男に飢えているので、家族といえどそうなってしまうのも仕方のないことだろう。
ただ、妹に関しては大丈夫だ。
「お兄様、少し休憩させてください」
妹は一度僕から離れ、「ふんっ!」と、とんでもない力で自身の両頬を叩いた。
衝撃で、地面が僅かに揺れる。
同時に今までまとっていた獣のような香りはなりを潜め……いつもの清楚な妹に戻った。
「いつも思うけど、凄い切り替えようだね」
「私、これだけは得意なので」
妹がふふんと胸を張る。
そんな子供のような仕草も様になっていて、可愛い。
この世界の女性は強弱あれど、誰しもが今のようなスキルを持っている。
スキルっていうのは、性欲を抑え込み、表に出さないスキルとでも言えばいいのかな?
それもそのはずだ。自らの猛る性欲を行動に移していたら、あっという間に性犯罪者になってしまうからね。
ただ、ほとんどの女性が、妹のように完璧に性欲を抑え込むことはできない。
たとえ本人が表面上は完璧に抑えているつもりでも、僕から見ればボロは丸出し。
テンションの乱高下、目の動き、距離感、発する言葉、纏う香りなど、男の僕からすれば、すっごく分かりやすいのだ。
「じゃあ、もうちょっとだけ練習していい? 実践でそばかすちゃんに使えるくらい、慣れておきたいんだ」
「ええ、いくらでも付き合いましょう」
ちろるは花開くような笑顔を向ける。
「ほんと、いつもありがとう。ちろるがいてくれるから、僕はまともでいられるんだよ」
「そんな、私も好きでやっていますから、感謝なんてしないで下さい。私も兄に教えるこの時間が、大好きですから!」
もう一度花開く笑顔でそう言ってのけた妹。
……なんかその笑顔、花は花でも、危険な毒を持つ美しい花みたいな印象を感じた気がするが……まあ、気のせいか。
「それにしても、女性から向けられる視線って、大抵どこか偏っているんだけど……ちろるは全然僕にそういうのがないね」
この世界に来てから知ったのだが、女性には、みんなどこかフェチのような物がある。
通行人でも、僕の腕を見たり、唇を見たり、おしりを見たりと、結構人によって見てくる場所が違うのだ。
「ふふっ、私は兄の全てが好きなので、お兄様でも気にならないのでしょうね。でも、しいていえば、兄の香りが私は好きです。なんというか、落ち着くんです」
なんでこんな妹って可愛いんだろうね(n回目)。
「……お兄様、お兄様!!」
「はっ、妹が可愛すぎてトリップしていた……」
「もう、ダメですよ。集中して下さい。次やったらほっぺムニムニの刑ですからね」
ほっぺムニムニの刑……なんて可愛い言葉を使うのだろうか!?
うん、全人類、妹を見習うべきだと思う。やはり妹は天使……
「うりうり~♪」
「っと、あはははは! ごめんっ、ごめんって!」
ほっぺたをムニムニされる感触で、僕は正気に戻った。
「むぐっ」
妹の手が僅かにずれ、少しだけ口の中に入った。
「ふふふっ」
妹は、口に入りほんのりと濡れてしまった指を、ぺろりとひとなめ。
その仕草は、妙に色っぽく、僕は見とれてしまった。
「ふんっ!」
突然、妹がとんでもない力で、自身の両頬を叩いた。
衝撃で、遠くにあるキッチンの食器がカチャリと音を奏でる。
「ふぅ……では、そろそろ休憩は終わりです。次は筋トレの時間にしましょうか」
「うへー。努力する人ってかっこいいって分かってから、頑張ってるけど……ちろるは筋トレに関しては厳しいからなあ……」
「えへへ、優しくするだけが優しさではないのですよ。さあ、今日もいっぱい汗をかきましょう。あっ、いつものように、汗のかいた服は持って帰ってもいいですか? まだ一人で練るのが寂しくて、兄の香りに包まれて寝たいんです」
「それくらいなら、もちろん良いよ。こちらこそ、いつも洗濯してくれてありがとうね」
「えへへ、私のわがままですから、当然です。(証拠隠滅までが犯罪ですから……)」
「ん? 最後の方、聞き取れなかった」
「なんでもありませんよ。えへへ」
その日の夜。誰もいない真っ暗な部屋。
兄の汗が染み込んだシャツをテイスティングしながら、妹は悪魔じみた美しさで嗤う。
「私の本性を知り、絶望するお兄様の表情を想像すると……あっは♡ ゾクゾクしますわ♡」
理想破壊フェチ。
これが兄には決して見せない妹の裏の顔である。
「お兄様には、もっともっと私に理想を抱いてほしいですね……ふふふふふっ」
大好きな人の期待を裏切る瞬間。自らの本性と、相手が抱く印象の落差。
「想像するだけで、倒錯的な快楽に酔えますわ♡ あっは♡」
彼女は愛しの兄の幻想をぶっ壊す日を想像し、今日も日々を楽しんでいる。
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