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笑ってはいけない貞操逆転世界!  作者: ながつき おつ


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17話 とにかく愉快だった 

一ミクロンでも口角が上がれば★やブックマークをお願いします。



 夕食を食べ終わり、後片付けをしていると、ふと、ミニトマトのヘタが目についた。


 これを見ると、あの日の出来事を鮮明に思い出す。


 あの日。


 僕が彼女を好きになった日であり、彼女が芸人を目指した日。

 

 あれは、僕がまだクールぶっていた小学6年生の頃――



 両手を頭の後ろで枕にしながら、クラスを見渡す。こうやって無駄にクールぶりながら、僕は思った。

 

 彼女は、お弁当箱からこぼれたミニトマトみたいだ。


 この6年2組というお弁当箱で、僕は半分を占めるお米みたいな存在だ。


 あのグループは卵焼き、あっちのグループはきんぴら、あっちはサバの塩焼き……何が言いたいかっていうと、割と綺麗にグループ分けされていたクラスだったんだ。


 ただ、その一つのミニトマトだけが例外。


 どのグループにも属せず……ついには、いじめが起きそうになってしまった。


「そういうの、ダサいよ?」


 だから僕は、一言だけ強い言葉でみんなを非難したんだ。


 モテたい盛りの女子にとって、男から「ダサい」と言われるのはかなり不名誉なことだ。


 それも、この世界の男の中ではまともな部類の僕に言われるのは、かなり心にきたことだろう。


 だって僕、小学生時代の時でも、今と同じく頭二つ抜けて女性ウケする容姿だったからね。

 

 僕が女性に与える影響は、絶大なのだ。


「あははー。別にそういうつもりじゃなくて……」


「ごめんね、ちょっとやりすぎちゃったみたい」


「ごめんなさい」


 いじめっ子3人は態度を(ひるがえ)した。


 僕の一言で、いじめは未然に防がれたのだ。


 ただ……


「……」


 いじめられていた張本人、そばかすちゃんだけは、力強い瞳で僕を睨みつけていた。


 この世界に来てそんな目で見られたことなど初めての経験だったので、この時の僕は結構混乱してたっけ。


 そばかすちゃんの事をよく知っている今なら分かる。

 

 あの時の彼女は、自らの力のみでいじめに対処したかったんだと思う。


 彼女、芸人になる時、好きな言葉を「情け不要」って履歴書に書いたくらいだからさ。



 それからのそばかすちゃんはすごかった。


 彼女は鬼気迫る様子で、教室で猛勉強しだしたのだ。


 全てを投げ打って、学校では勉強に明け暮れていた。


 それと同時に、彼女は運動の方にも手をつけ始める。


 学校では勉強。学校が終われば運動と、とにかく一つのことだけに集中して日々を燃え尽きるように過ごしていたと、後に教えてくれた。


 その成長ぶりは本当に凄まじく、たった一年で平均点よりちょっと下だった女の子が、地元で有名な高偏差値中学校に受験し、合格をもぎ取ったほどだ。


 ……まあ、合格という看板が欲しかっただけで、そこには通うつもりはなかったらしいが。



 さて、なぜ彼女がそんな必死に頑張り出したのか。クラスの全員がうっすらと疑問に思っていた。


 意図がようやく判明したのは、卒業式の日だ。


 そばかすちゃんはいじめようとしてきた3人グループ全員を校舎裏に呼び出した。


 そして。



――パシン!!!


 それはもう気持ちのいいフルスイングでビンタしたのだ。


「……はん、二度と私をばかにするんじゃないわよ。あなた達はこれからずっと、下から私のことを見上げてなさい」


 そう言って、彼女は学校を去っていった――


 

 そう、僕はそのシーンを、偶然目にしていたのだ。


 頭の中で、きらめくように点と点が線につながる。


 なぜそばかすちゃんが努力してきたのか――それは、彼女たちより全ての分野で上に立って、復讐したかったからだ。


 なんと強い人だろう! なんてかっこいい人だろう!


 そして、なんとみみっちく、人間らしい人だろう!


「あはははは!」


 僕は笑っていた。


 クールを演じていたことなんて忘れ、笑う。


 とにかく愉快だった。


 その笑い声は、そばかすちゃんにも届いてしまっていたようだ。


 呆然と立ち尽くしながら、そばかすちゃんは僕に見入っている。


「……何よ?」


 数分後、やっとのことで発した一言目がこれだ。


 こんなに僕が笑ったことなど初めてなので、彼女は少し動揺していたらしい。


「ねえ、一緒に帰ろ?」


 思わず手を差し伸べた。


 それが僕の初恋であり、クールをやめたきっかけであり――なんと、そばかすちゃんが芸人になったきっかけでもあるらしい。


 そばかすちゃんの将来の夢は、医者とか、パイロットとか、宇宙飛行士とか、日によってとにかく凄そうなもので揺れ動いていたのだが……


 どうもあの時の僕の笑顔がどうしても頭に焼き付いて離れないので、芸人で有名になることを決めたそうだ。


 彼女曰く、「あなたの心からの笑顔って、頭の芯が痺れるほどの快楽があるの。あれ、確実に違法よ。もっと自分が対女性特化生物兵器であることを自覚しなさい」とのことだ。



 っと、そろそろ洗い物も終わりだ。

  

「私、明日は昼から仕事なのよ。だから、少し早く寝るわね」


「ええ~、夜は長いよ?もうちょっと僕と遊ぼうよ?」


「私、あなたみたいに夜型人間じゃないのよね。睡眠が足りていないと、明らかにパフォーマンスが落ちるの」


 基本的にそばかすちゃんは要領が悪い。


 小学生の頃、学校では勉強、帰ってからは運動と分けていたのは、一つのことにしか集中できないタイプだからだそうだ。


「あーあ、ベッドの上で濃密なイチャイチャ、したかったなあ……」


 ちょっとだけ僕は餌を垂らしてみた。


 これで引っかかってこなければ、諦めよう。


「あら? あなたって性欲が薄いって有名じゃなかったかしら?」


 この儚げな見た目から、その噂は信憑性がかなり高い噂として広く広まっている。


「ぼ、僕だって好きな人の前では結構なもんだよ?」


 強がりっぽく言ってみたが、これはホント。


 僕って心を許していない女性と性欲まかせの夜を過ごすの、絶対ムリなタイプなんだよね。


「ふぅん……ホントかしら。あなたって明らかに虚弱だし、夜の激しい運動なんてできないんじゃないかしら?」


 手で輪っかを作って口元で前後に動かすジェスチャーしながら、挑発的に彼女は笑う。


 意外とそばかすちゃんも、こういう下品な下ネタとかも好むタイプだ。


 そもそも彼女、性欲強いらしいからね。


(ニヤリ――!)


 ただ、僕だってこの時、内心では笑っていた。


「……じゃあ、試してみる?」


 あくまで強がりに聞こえるように、弱々しく演技して言う。


「はん、かかってきなさい。あなたなんて、一瞬で腰砕けにしてやるわ」


 そう答える彼女は、テレビで輝いている時と同じ、最高にかっこいい表情だった。


 ふふ、ふふふふふ。そうだよね。そばかすちゃんは、いつもそうだ。


 そばかすちゃんは、落とし穴に落ちるときも、ぬるぬるのローションの上を走る時も、ロシアンたこ焼きを選ぶ時も、いつだって自信満々だ。


「じゃあ、いろんなどぎついおもちゃ、用意してくるね!」


「……え?」


 それは同時に、いつだっていつも自信満々で失敗するということでもあるんだ。


 分かるよ? この世界の男性は性欲が薄い。基本的に一週間に一回くらいしか射精しないのが普通だ。


 でもさ、これは僕が前世持ちだからなのかな? 


 僕、平気で一日数回程度、余裕だから。


 僕が心から満足するまで、どうか付き合ってね?



 この日の夜、何があったのかは具体的に語らないが……


「あれ? そばかすちゃん、なんか……色気増した?」


 芸人仲間にそう言われることが増えたそうだ。



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