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【笑え】笑ってはいけない貞操逆転世界!【おもんなくとも】  作者: ながつき おつ


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1話 なんでだよ



――人生は1度きり。誰かが言った、有名な言葉。


 僕はそうは思わない。


 だってさ、僕、実際に2回目なんだもの。


 でも、赤ちゃんとして生まれたあのときは、びっくりしたなあ……



 

「生まれました! 元気な男の子ですよ!」


 ……あれ? 俺、死んだはずじゃ……?


「おぎゃああ!! おぎゃああ!!」


 なんで俺、こんなに一生懸命泣いてるんだろう?

 

「男の子ですよ!!!! 元気な男の子です!!!! ああああああ正真正銘、男の子です!!!! わっしょい! わっしょい! 私、男の子が生まれるのに立ち会うの、初めてです!」


 ……やけに賑やかな人達だなあ。てか、はっきりとは見えないけど、みんなでっかい。


 ん? これ、みんながデカいわけじゃないか。俺が小さいのか? 


 それに、頭もあまり働かないし……一体どうなってるんだ?


 混乱の中、あっという間に大きくて賑やかな人達に呼吸の確認など、色々な検査をされた……んだと思う。


 その後、タオルにくるまれ、女性の胸の上へ乗せられた。


(……ああ、不思議だ)

 

 この女性の鼓動を聞いていると、どんどん落ち着いていく。


 なんでだろう。教えられていなくても、何となく分かる。


 俺はこの人のお腹の中で、とっても大事に育てられたということを。



 落ち着いてきたおかげか、次第にこのとんでもない状況が飲み込めてきた。


(多分だけど、俺はもう一度人生を最初からやり直す機会をもらったっぽいな。ありがてえ)


 いくらバカな俺でも、そういうことが当たり前ではないことは知っている。


 偶然、奇跡、超常現象、事故……うん、どれだけ考えても、なぜ俺がもう一度生まれてきたのかはさっぱりだ。


 この問題の答えを出すのは、バカな俺には荷が重い。


「この男の子、赤ちゃんなのにとっても顔が整ってる! 絶対、絶対にイケメンボーイに育つわ!!! “ショタっ子未来予想検定”一級の私が言うのだから、間違いない!!」


「お母様! 息子さんを私に下さい!!! 一生のお願いです!!!」


「これが、男の子の生おちんちん……ジュルリんティウス。グヘへ、可愛いなあ……せめてへその緒だけでも食べていいですか?」


 てことは、この賑やかな人達は、助産師さんとか、医師の人たちなんだ。


 それにしても、やけに愉快な人達だ。


「ふんっ、どいつもこいつも考えが浅すぎる。息子はお前らのような矮小(わいしょう)俗物(ぞくぶつ)ではなく、()()()と結婚するに決まっているだろう」


 明らかに人を見下したような言葉だ。そのせいか、さっきまでのお祭り騒ぎの空気がピリッと引き締まった。


 でも、親の愛というものに強烈に憧れていた、俺には分かる。


(さっきのセリフ……言葉の内容とは裏腹に、声の音色自体は柔らかかった)


 そもそもの話、俺に触れる手つきが、とても優しい。


 もしかしたらこの人は、少し棘のある人なのかもしれない。でも、絶対に愛情深い人だ。


(ああ、幸せだなあ……)


 親の愛情――どれだけ憧れたところで、決して手に入らないと諦めきっていたもの。それが、今俺の目の前にある。


 それだけで、胸がいっぱいだった。

 

 それにさ、息子と結婚するという“冗談”をさも当然のように言ってしまうようなユーモラスな部分も、個人的に好印象だ。


 ははっ、こんな愉快で温かそうな母の元で育つの、嬉しいなあ。


「ん……? 今この子……この私を見て、笑った……??? む、息子がこの私を見て、笑ったわ!!」


 確かに嬉しくなって、自然とにぱっ、って口角が上がったかもだけど……


 そんな、天地がひっくり返ったみたいなさ。目ン玉をひん剥いて驚くようなことでもないでしょ?


 あれかな。俺の母親は、少し大げさなのかな?


 と、そんな呑気な事を考えていると、母の口から驚くべき言葉が告げられたのだった――


「うむ、決めた! この私がお笑い芸人となり、一生悠久を笑わせよう!」


 ……んえ?



 それから。


 母は遺伝子研究の第一人者だったのにも関わらず、本当にお笑い芸人になってしまった。


「おぎゃあ(なんでだよ)」


 これが、俺の人生初の「ツッコミ」だ。


 ただ、俺の嘆きは、当たり前のように伝わらなかった。



 その後僕は成長し、この世界では男女の貞操が逆転している世界だと知る。さらに、男女比が1:10と偏っていることも知った。


 あ、もう今は「俺」なんて言わないよ。なんか、この見た目で俺って言うの、微笑ましい目で見られて、妙に恥ずかしくてさ。


 男女の貞操が逆転しているっていうのは、要は女性が当たり前のように下品な下ネタを言ったり、男が純潔であることを大事にしたりな世の中ってことだ。


 これでなんとなく伝わっただろうか。


 そして、男女比が偏っているということは、異性への貞操観念が、過剰になることと繋がっている。


 簡単に言ってしまえば、女性は性欲があまりに強く、男はそんな女性に過剰に優遇されている世界って感じかな。


 ……ただまあ、男は男で、別に生きやすいというわけでもない。


 いつだって僕は「猛獣の群れに囲まれた子鹿」のような気分で過ごしているからね。

 

 言い過ぎって思うかな? いいや、全然言いすぎじゃないんだよね、これが。



 ま、そんなふうな一風変わった世界だ。


 で、だよ。


 そんな世界だろうが、僕にとってはあまり関係ない。


「前世の弁当屋のおばあさんや、先生のような、かっこいい人になる」


 あの時僕に手を差し伸べてくれたように、僕もそんな風にかっこいい人間になりたい。そうすることが、さも「当たり前」であるかのように。


 とにかく、それだけを目指して生きてきた。


 優しくしてくれた家族には、優しさで返す。それが、当たり前。

 

「母も姉も妹も、家族はすっごく優しい」


 母も姉も一癖も二癖もある人だけど、僕の尊敬する大人だ。妹だって、まさに聖母のように、優しくて可愛い。


「まあ、家族との距離感だけが、あまりに前世とは違ったんだけどね」


 家族なのに、まるで恋人のように僕と接してくるのだ。


 ただ、ずっとそうされているうちに、いつしか僕も毒された。

 

 今では甘い距離感も、まんざらではない。



 本当に僕は家族に恵まれた。そのおかげで、なんにも意識しなくても、自然と家族を大事にできた。


 逆に家族が()()()()()ことに問題があるくらいだ。



「だから後は、とにかく『かっこいい人』になることに集中すれば良い」


 かっこいいといっても、別にアイドルになるとか、異性にモテるとか、そういうのではないんだ。


 ただ普通に色んなことを経験して、傷ついて、それでも前に進んで生きるような、そんなかっこよさ。


 見た目や肩書きではなく、身体のうちから滲み出るようなかっこよさだ。


 どうすればそうなれるかは分からなかったが、とにかく試行錯誤した。


 当たり前を当たり前に行動できるように、僕なりに頑張ったと思う。




 その結果、今どうなっているのかというと……


「そ、そそそそそそ、そろそろ出番でしゅ!!!!!」


 茹でダコのように顔を真っ赤にしながら、若い女性スタッフさんがそう告げた。


「はーい」


 はてさて、なんで僕、「国民の息子」なんて存在になってるんだろうなあ……




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