保安隊海へ行く 94
車内は重苦しい雰囲気に包まれる。
「誠。確かに青銅騎士団は遼南帝国皇帝直属の精鋭部隊だ。だけどなどんな組織だって、なりがでかくなれば目は届かなくなる。ましてや五年前の政権を南城軍閥の頭目、アンリ・ブルゴーニュに譲渡してからどうなったか、そんなところまで叔父貴は責任もたんだろ?」
そう言うと要はタバコを取り出してくわえる。
「要。この車は禁煙だ」
「わあってるよ!くわえてるだけだっつうの」
カウラの言葉に口元をゆがめる要。
「私のところにも結構流れてくるわよ。青銅騎士団ってシャムちゃんが団長していた時とはかなりメンバーが入れ替わっているわね。団長代理の御子神隆志中佐位じゃないの?生え抜きは」
工場の出口の守衛室を眺めているアイシャ。
「叔父貴と言う重石が取れた今。その一部が暴走することは十分考えられるわな。ようやく平和が訪れたとはいえ、30年近く戦争状態が続いた遼南だ。地方間の格差や宗教問題で、いつ火が入ってもおかしいことはねえな」
バックミラー越しに見える要の口元は笑っていた。
「西園寺は相変わらず趣味が悪いな」
そう言うと中央分離帯のある国道に車を乗り入れるカウラ。
「ちょうど退屈していたところだ。多少スリルがあった方が人生楽しめるもんだぜ?」
「スリルで済めばね」
そう言うとアイシャは狭い後部座席で足を伸ばそうとした。
「テメエ!半分超えて足出すな!」
「ごめんなさい。私、足が長いから」
「そう言う足は切っとくか?」
「冗談よ!冗談!」
後部座席でどたばたとじゃれあう二人を見て、誠は宵闇に沈む豊川の街を見ていた。東都のベッドタウンである豊川。ここでの暮らしも一月を越えていた。職場のぶっ飛んだ面々だけでなく、寮の近くに広がる商店街にも知り合いが出来てそれなりに楽しく過ごしている。遼州人、地球人。元をたどればどちらかにつながるであろう街の人々の顔を思い出して、今日、彼を襲った傲慢な法術使いの言葉に許しがたい怒りの感情が生まれてきた。
誠は遼州人であるが、地球人との違いを感じたことなど無かった。先月の自分の法術の発現が大々的にすべてのメディアを嘗め回すように席巻した事件から、目には見えないが二つの人類に溝が出来ていたのかもしれない。
そんなことを考えながら流れていく豊川の町の景色を眺めていた。




