保安隊海へ行く 90
「その手があったか」
嵯峨はそう言うと手を叩いた。しかしその表情はむしろしてやったりといった感じに誠には見えた。
「隊長!」
誠の声に泣き声が混じる。寮長の島田は大歓迎するだろう。その他の島田派の面々は有給とってでも引越しの手伝いに走り回るのはわかっている。
問題になるのはヒンヌー教徒である。保安隊の人員でもっとも多くのものが所属しているのが技術部。その神として敬われている女帝、許明華大佐の一言で保安隊の方針が決まることすら珍しくない。ほとんど一人でピザやソーセージを食べながら法術関連の作業を続けているヨハン・シュペルター中尉は部内での人望は0に等しく、整備全般を担当する島田正人准尉が事実上の技術部の最高実力者と呼ばれている。
一方、保安隊第二の勢力と言える管理部だが、こちらは規律第一の「虎」の二つ名を持つ猛将、アブドゥール・シャー・シン大尉が部長をしている。管理部部長と言う職務の関係上、同盟本部での予算関連の会議のため留守にすることが多いことから主計曹長菰田邦弘がまとめ役についている。
ノリで生きている島田と思い込みで動く菰田。数で勝る島田派だが、菰田派はカウラを女神としてあがめ奉る宗教団体「ヒンヌー教」を興し、その厳格な教義の元、結束の強い信者と島田に個人的な恨みに燃える一部技術部員を巻き込み、勢力は拮抗していた。
寮に三人が入るとなれば、必然的に寮長である島田の株が上がることになる。さらに風呂場の使用時間などの全権を握っている島田が暴走を始めればヒンヌー教徒の妨害工作が行われることは間違いない。
「どうしたの?もっとうれしい顔したらどう?」
アイシャがそう言って誠に絡み付こうとして要に肩を押さえつけられる。寮での島田派、菰田派の確執はここにいる士官達の知ることではない。
「じゃあとりあえずそう言うことで」
そう言うと嵯峨は出て行けとでも言うように電話の受話器を上げた。
「そうですわね。私も引越しの準備がありますのでこれで」
そう言うとさっさと茜は部屋を出た。
「置いてくぞ!誠」
要、カウラ、アイシャ、そしてなぜかいるレベッカ。
「たぶん島田がまだいるだろうから挨拶して行くか?」
「そうだな。一応、奴が寮長だからな」
「確かに、レベッカさん、M10の搬入はいつになるの?」
「とりあえず検査が今度の月曜にあるのでそれ以降の予定です」
心配する誠を置いて歩き出す女性陣。頭を抱えながら誠はその後に続いた。




