保安隊海へ行く 89
「まあ後は吉田や安城さん達に任せてだ」
嵯峨は取り出した紫色の袋の紐を解いた。抜き出されたのは朱塗りの鞘の日本刀だった。
「刀ですか」
「そう、刀」
そう言うと嵯峨はその剣を鞘からゆっくりと抜いた。厚みのある刀身が光に照らされて光る。
「お父様。それ忠正じゃないですか?」
茜がその刃を見ながら言った。
「備前忠正。幕末の人斬り、岡田以蔵の使った業物」
そう言うと嵯峨は電灯の光にそれをかざして見せた。
「一応、神前一刀流の跡取りだ。こいつがあれば心強いだろ?」
そう言うと嵯峨は剣を鞘に収めた。そのまま袋に収め、紐を縛ると誠に差し出す。
「しかし、東和軍の規則では儀礼用以外での帯剣は認められていないはずですよ」
「ああ、悪りいがお前の軍籍、胡州海軍に移しといたわ」
あっさりと言う嵯峨。確かに胡州海軍は士官の帯剣は認められている。誠の階級は曹長だが、幹部候補教育を受けていると言うことで強引に押し切ることくらい嵯峨という人物ならやりかねない。
「そんなもんで大丈夫なんか?」
「無いよりましと言うところか?それにあちらさんの要望は誠の勧誘だ。それほど酷いことはしないんじゃねえの?」
嵯峨はそう言ってふかしていたタバコを灰皿に押し付ける。
「でもこれ持って歩き回れって言うんですか?」
誠は受け取った刀をかざして見せる。
「まあ普段着でそれ持って歩き回っていたら間違いなく所轄の警官が署まで来いって言うだろうな」
「隊長、それでは意味が無いじゃないですか!」
突っ込んだのはカウラだった。誠もうなづきながらそれに従う。
「そうなんだよなあ。任務中ならどうにかなるが、任務外では護衛でもつけるしかねえかな……」
そう言いながら嵯峨の視線が茜の方に向く。
「叔父貴!下士官寮に空き部屋あったろ!」
急に頭を突き出してくる要。それに思わず嵯峨はのけぞった。
「いきなりでかい声出すなよ!ああ、あるにはあるがどうしたんだ?」
タバコに火をつけようとしたところに大声を出された嵯峨がおっかなびっくり声の主である要の顔を伺っている。
「アタシが護衛に付く」
全員の目が点になった。
「護衛?」
カウラとアイシャが顔を見合わせる。
「護衛……護衛?」
誠はまだ状況を把握できないでいた。
「隊長、それなら私も護衛につきます!」
言い出したのはアイシャだった。宣言した後、要をにらみつけるアイシャ。
「私も護衛に付く」
カウラの言葉に要とアイシャの動きが止まった。




