保安隊海へ行く 88
「日記?」
そう言うとアイシャがページをめくる。
「違うな。帳簿だろ?手書きってことはどこかの裏帳簿だな」
アイシャから古びたノートを奪った要はぺらぺらとそのページをめくる。
「分かるわけないか。入金元、振込先。全部符号を使って書いてある。叔父貴、こいつはどこで手に入れた?」
嵯峨はノートの数字を眺めている要達を見ながらタバコに火をつけた。
「近藤資金を手繰っていった先、東モスレム解放戦線の公然組織とだけ言っておくか」
東モスレム。その言葉を聴いて要の目が鋭く光るさまを誠は見ていた。遼南西部の西モスレムと昆西山脈を隔てた広大な乾燥地帯は東モスレムと呼ばれていた。イスラム教徒の多く住むその地域は西モスレムへの編入を求めるイスラム教徒と遼南の自治区になることを求める仏教徒と遼州古代精霊を信仰する人々との間での衝突が耐えない地域だった。
同盟設立後は西モスレム、遼南の両軍が軍を派遣し、表向きの平静は保たれていたが、過激な武力闘争路線を堅持している東モスレム解放戦線によるテロが週に一度は全遼州のテレビを占拠する仕組みになっていた。
「だったら早いじゃねえか。安城の姐さんにでも頼んで片っ端からメンバーしょっ引いて吐かせりゃ終わりだろ?」
そう言って笑う要を嵯峨は感情のない目で見つめていた。
「それが出来ればやってるよ。なんでこいつが俺の手元にあるかわかるか?」
「もったいぶるなよ」
要がタバコに火をつける。煙が次第に部屋に充満し、アイシャが眉をひそめた。
「まあお前等が知らないのは当然だな。報道管制が十分に機能している証拠だ。4時間前、その組織は壊滅した」
「どういう事だ?じゃあ何でその帳簿が叔父貴の手元にあるんだ?」
机を叩きつける要の右手。嵯峨の机の上の金属粉が一斉に舞い上がり、カウラと茜がそれを吸い込まないように口を手で押さえる。
「安城さん達の助っ人でね。そこのビルに行ったわけだが、酷いもんだったよ。生存者なし。ああ言うのをブラッドバスって言うのかね」
要からノートを取り上げた茜がそれに目を通す。
「この帳簿の符牒の解読を吉田少佐に依頼するためにここに運ばれて来た訳ですね」
「まあ、こいつと誠に首っ丈の遼州民族主義者達のつながりがあるかどうかは俺もわからん。だが、その手の組織が存在すると言うのは同盟首脳会議でも何度か話題には出てる。資金的裏づけが近藤資金と言うことならとりあえず金の流れ、そして今、連中が動き出したと言う理由もわかる」
「近藤資金が途切れ、活動に支障をきたし始めた彼等が新たな資金源獲得と組織の拡充を行うために動き出した」
カウラがそう言うと誠の顔を見た。
「そう考えれば帳尻が合う。気持ち悪いぐらいにな」
そう言うと嵯峨は椅子から立ち上がり、ロッカーを開けた。紫色の布で覆われた一メートル前後の長い物を取り出すと誠に差し出した。




