保安隊海へ行く 79
「まったく親子そろって食えねえ奴だよ」
要はそう言うと額に乗せていたサングラスをかけなおす。そんな要に笑みで答えてみせる茜。
「ふふっ、そうかもしれませんわね。まず私が法術特捜に……」
「ああ、叔父貴から聞いた。稼動はまだ先になるんじゃなかったのか?」
つれない感じで答える要。茜は特に気にする様子でもなく、要の問いに答える。
「実際、同盟司法部はすでにテロ組織は活動を準備していると読んで私に資料よこしたわけなんですけど、状況はそれほど悠長なことを言ってられないことは先ほどのアロハシャツのお客様をごらんになればわかるのではなくて?」
それまでの茶目っ気のある笑顔が茜の表情から消えていた。
「どこだ?動いてるのは」
気の無い調子でたずねる要。誠もまたその問いの答えを期待していた。
「わかりませんわ。でも資料ではっきりわかったことは、ここ最近、すべてのテロ組織が行った破壊活動に法術適正の所有者による法術爆破テロが急激に減少しているということだけですわ」
「良い話じゃねえか。自爆は見ててやりきれないからな。でもテロの件数自体は減っていないことぐらいアタシも知ってるよ」
「そうなんですの。つまりテロ組織の直下で法術適正を持った組織員が自爆テロ以外の行動をとろうとしている、または他の第三勢力の元に彼らは集められて、来るべき活動のために訓練を受けている。今のところ推察できることはこれくらいですわね」
要は静かに天を仰ぎ、にんまりと笑った。
「テロ組織には法術適正の人物に対し、訓練を行う設備など持ってるはずもねえ。いや、正確に言えば制御された法術によるテロを行うための訓練をすれば、逆に無能な上層部は力に目覚めた飼い犬に手を噛まれる羽目になるってわけだ」
「その通りですわ。既存のテロ組織は、宗教、言語、民族、人種、イデオロギーを同じくするものの共同体みたいなものですもの。上層部は作戦立案と資金の確保を担当し、下部組織はその命令の下、テロの実行に移る。そこには必ず組織的ヒエラルヒーが存在し……」
不意に立ち止まり、茜の顔をまじまじと見つめる要。
「話が長えよ。要するにどこの誰ともわからねえ連中が、テロ組織の法術適正所有者を片っ端からヘッドハンティングした。そう言いたいわけだな」
要はタバコを取り出そうとしたが、目の前の茜のとがめるような視線を受けて止めた。
「そうですわね。一番それがしっくりいく回答といえますわ。でも、それだけのことを行うとなれば相当な資金と組織力が必要となりますわ。しかも、今日現れた刺客の言ったとおり、力を持つものが支配する世界の実現と言うことになれば、それに賛同するような酔狂な国は宇宙に一つとして存在しないでしょう」
「逆に、だから支援をする国もあるんじゃないのか?」
皮肉めいたいつもの笑みを浮かべ、要がそう言った。
「同盟の不安定化は地球圏国家の思惑と一致するのは言うまでもないことですわね。でも制御できない力を与えることがいかに無謀かは想像がつかないほど無能な為政者はいらっしゃらないでしょう。それにベルルカン大陸の動乱をごらんになればわかるとおり、下手につつきまわせばそれこそ泥沼の戦争に陥って抜け出せなくなることも経験でわかっているはずですわ」
茜の腕が豊かな胸のふくらみの上に組まれているところを誠はじっくりと見ていた。
「この馬鹿!胸見んの禁止!」
すかさず要がこぶしで誠の頭を殴りつける。頭を押さえる誠を見ながら、茜は心の奥から楽しそうな笑みを浮かべた。




