保安隊海へ行く 78
「誠ちゃん」
着替え終わった誠は浜辺を名残惜しげに見渡していた。そんな誠の肩を叩いたのがシャムだった。
「シャムさん、何ですか?」
さすがにいろいろあった一日で、心地よい疲労感のようなものが誠を包んでいた。
「これ拾ったんだけど、要ちゃんにあげてね」
シャムが差し出したのはピンク色の殻を光らせる巻貝だった。子供のこぶし程度の大きさの貝は次第に朱の色が増し始めている日の光を反射しながら、誠の手の上に乗った。
「良いんですか?」
「お姉さんのことは気にしないで。まあ仲良くやりたまえ」
年齢不詳なシャム。誠がつかんでいる確かな情報としては、今年三十路に入った技術部長明華の二つ下という話がまことしやかに囁かれている。ホテルの駐車場に向かうシャムと小夏、そして春子を見守りながら誠はシャムに渡された巻貝を耳に当てた。
潮の音がする。確かにこれは潮の音だ。
「何やってんだ?」
背中から不思議そうな要の声。誠は我に返って荷物を抱えた。
「なんか落ちたぞ」
そう言って要が誠の手から滑り落ちた巻貝を拾い上げた。
「こりゃだめだな。割れちまってるよ」
誠は思わず落胆した表情を浮かべる羽目になった。
「アタシに渡そうとしたのか?」
そう言うと、珍しく要がうつむいた。
「ありがとうな」
そう言うと要は自分のバッグにひびの入った巻貝を放り込む。
「良いんですか?あれって……」
「お前の始めてのプレゼントだ。大事にするよ」
要はそう言うと誠を置いてきびきびと歩き始める。
「今日はいろいろありましたね」
「まあな、最後にとんでもねえ目にあったけどな」
「そして私の手に助けられたわけですわね」
ホテルに入る小道、街路樹の太いイチョウの木の陰から現れたのは茜だった。東和警察の勤務服にぶら下げられた日本刀が違和感を感じさせる。
「オメエ帰れよ」
「命の恩人にそれは無いんじゃなくて?それに要さんはいくつか私に聞きたいこともあるって顔してますわよ」
そう言って口先だけの笑みを浮かべるところが、父である保安隊隊長の嵯峨惟基を彷彿とさせた。




