保安隊海へ行く 74
「でも丸腰じゃないですか?」
「そうでもないぜ」
要が先ほど羽織ったシャツの背中を見せる。要の愛銃、スプリングフィールドXD40のシルエットが見えた。
「しかし、こんなところでやるわけには行かないんじゃ……」
周りには少ないながらも観光客の姿が見える。要も同感のようで静かに頷いた。
「偶然かもしれないからな。もう少し引っ張ろう。あそこに見える岬まで行けば邪魔は入らないだろうからな」
そう言うと要は誠の手を取って早足で歩き始めた。午後を過ぎて風が出始めた海べりの道を進む。さすがにこれほど人通りが少ないとなると、赤いアロハシャツを着た男が後を付いてくるのが嫌でもわかった。
こちらにばれることはすでに想定済みといった風についてくる男。要はすでに銃を抜いている。とりあえず人のいない所で決着をつけることは後ろの男も同意見のようで、一定の距離を保ったまま付いてくる。
岬に着いたところで、要は男に向き直った。
「見ねえ面だな。おや?ただのチンピラにしちゃあ動きが良いし、兵隊にしちゃあ間が抜けてるな」
「これは辛らつな意見ですね。確かに軍事教練など受けたことが無いもので」
角刈り、やつれているように見える細面。アロハシャツから出ている両腕は、どう見ても軍人のものには見えなかった。鍛えた後も無くただぶら下がっている赤く日焼けした両腕。
「金目当てだったらアタシが銃を持っていることをわかった時点で逃げてるはずだ。非公然組織なら仲間を呼ぶとかしているしな。何者だ?テメエは」
まるで幽霊みたいだ。誠は男の顔に浮かんだ版で押したように無個性な笑みを見つけて背筋が寒くなるのを感じた。
「元胡州帝国陸軍、非正規戦闘集団所属、西園寺要大尉。そして東和宇宙軍から保安隊に出向中である神前誠曹長」
男はそう言いながらゆらりと体を起こした。その動きに反応して要は銃を向ける。
「知らないんですか?西園寺大尉とあろうお方が。高レベル法術適格者にはそんなものは役に立ちませんよ」
男はゆらゆらと風に揺れながら右足を踏み出した。
「試してみるのも悪くないんじゃねえか?とりあえずテメエの腹辺りで」
そう言い終ると、要は二発、男の腹めがけて発砲した。銀色の壁が男の前に広がり、弾丸はその中に吸収された。
「さすが胡州の山犬ですね。現状では理性的に私の正体でも聞き出そうとするのが優先事項じゃないですか?まあ私も話すつもりはありませんが」
また一歩男は左足を踏み出す。
「神前君。君の力は我々は高く買っているんだよ。地球人にこの星が蹂躙されて二百年。我々は待った、そして時が来た。君のような逸材が地球人の側にいると言うことは……」
「うるせえ!化け物!」
要は今度は頭と右足、そして左肩に向けてそれぞれ弾丸を撃ち込んだ。再び銀色の壁に吸い込まれる弾丸。
「力のあるものが、力の無いものを支配する。それは宇宙の摂理だ。そうは思わないかね、神前曹長」
再び男の右足が踏み出される。誠は金縛りにでもあったように、脂汗を流しながら男を見つめていた。




