保安隊海へ行く 71
「何だよ」
要が誠をにらんでくる。
「別に何でもないですよ」
「嘘つけ」
要は一度誠の視線から逃れるように下を向くと顔を上げた。
「どうせオメエも怖いからここまで付いてきただけだろ?アタシに近づく奴は大概そうだ。とりあえず敵にしたくないから一緒にいるだけ。まあそれも良いけどな。親父のことを考えて近づいてくる馬鹿野郎に比べればかなりマシさ」
そう言って皮肉めいた笑みを口元に浮かべた。どこと無くさびしげで人を寄せ付けない乾いた笑顔。そして自分を誤解している要が誠には悲しく感じられた。
「そんなつもりはないですけど」
「自覚がないだけじゃねえの?アタシはカウラみたいに真っ直ぐじゃない。アイシャみたいに器用には生きられない。誰からも煙たがられて一人で生きるのが向いてるんだ」
そう言うと、吹っ切れたように岩場に打ち付ける穏やかな波に視線を移す要。
「確かに僕は西園寺さんのことわかりませんでした」
「そんな一月くらいでわかられてたまるかよ」
そう言って要は誠の顔を見た。そのまま山の方でも見ようかというように安易に向けた視線だったが、誠のまじめな顔を見て、要の浮ついた笑顔が消えた。
「そうですよね。わかりませんよね。でもいつかはわかろうと思っています」
「そいつはご苦労なこった。何の得にもならねえけどな」
「そうかもしれません、でもわかりたいんです」
真剣な誠の視線。要にとってそんな目で彼女を見る人物というものは初めてだった。何か心の奥に塊が出来たような感覚が走り、自然と視線を落としていた。
「そうか……勝手にしろ」
搾り出すように要が言葉を吐き出す。
「ええ、勝手にします」
誠はそう言うと要の隣に座った。
「ろくなことにはならねえぞ」
「でも、僕はそうしたいんです」
風は穏やかに流れる。二人は真っ直ぐに水平線を眺めていた。
「ラブラブ!!」
背後で聞きなれた甲高い声がして、二人は飛び上がって後ろを見た。手に袋を持ってシャムと小夏が突っ立っている。
「外道が神前の兄貴に色仕掛けを仕掛けていますよ!どうします、師匠」
「アイシャちゃんとカウラちゃんに教えてあげなきゃ!」
二人が走り出そうとしたが、二人の頭を押さえつけた春子の手がそれを邪魔した。
「余計なことするんじゃないよ!」
いつもの女将さんといった風情からかつての後ろ暗い世界を生きてきた女の顔がそこにあった。シャムと小夏はその一にらみで静かに座り込んでいた。だがそれも一瞬のことで次の瞬間には女将の姿に戻っていた。
「私達は戻るけど、要さん達は……」
「戻るぞ、誠」
春子の言葉に要はすぐさま立ち上がった。




