保安隊海へ行く 51
「アタシが二つ持つから、ジャリはつまみでも持ちな」
サーフボードの青年を避けて振り返った要の言葉に誠と小夏の目が点になった。
「おい、要!何か後ろめたいことでもあるのか?」
小夏が生意気にそう言った。いつもの要ならそのまま小夏の頭をつかんでヘッドロックをかますところだ。しかし、振り向いた要は口元に不敵な笑いを浮かべるだけだった。
「なんか変だよ、要ちゃんどうしたの?」
不安そうにシャムがつぶやく。
「一応握力250kgあるんだぜ、アタシは。缶ビール二ケースくらい余裕だよ」
上機嫌に話す要。そしてそのまま彼女は浜辺に目を向ける。
「それにしてもヒンヌー教徒はどこ取ったんだ?」
海岸線沿いの道路。一同は歩きながら浜辺のパラソルの群れを眺めていた。赤と白の縞模様のパラソルを五つ保安隊は備品として倉庫から引っ張り出してきていた。
「どれも同じ様なのばっかりじゃん。分からないっすよ」
小夏が一番にあきらめて歩き始める。誠もどうせ分からないだろうとそれに続く。
「菰田っちなら結構広いところ取ってくれるよね?」
シャムはそう言いながら砂浜を見渡している。
「あれじゃねえか?バッカじゃねえの?」
要が指差した先には、『必勝遼州保安隊』というのぼりが踊っていた。野球部の部室の奥にあった横断幕である。
「アホだ……」
思わず誠はつぶやいていた。
「誰も止めなかったのかよ、あれ」
そう言うと要は足を速めた。さすがにいつもより心の広い要でも恥ずかしくなったようだった。
「きっと正人っちが片付けてくれるよ」
さすがにシャムですら菰田達ヒンヌー教徒の暴走にはあきれているようだった。海に沿って道は続く。
「やっぱ車でも借りりゃあよかったかな?」
暑さに閉口した要が思わずそう口にしていた。
「やっぱりアイス買おうよ」
そんなシャムの言葉に要の視線が厳しくなる。
「それはお前が買え。アタシは缶ビール買ってその場で飲む」
二人の飽きない会話を聞きながら誠はようやく見えてきたコンビニの看板を見てほっとしていた。




