保安隊海へ行く 47
「んじゃー行くぞ!」
要が手を振ると皆はエレベータルームに向かった。
「西園寺さん。この絵、本物ですか?」
印象派、ということしか誠には分からない絵を指して要に尋ねる。要はまったく絵を見ることはしない。
「ああ、モネの睡蓮な。模写に決まってるだろ」
「そうですよね」
「本物は実家だ」
それだけ言って立ち去る要。あまりの事実にただ呆然とする誠。
「本物持ってるの?要ちゃん」
思わずアイシャが突っ込む。要はめんどくさそうに額に乗っけていたサングラスを鼻にかける。
「親父が9歳誕生日にプレゼントだってくれたのがあるぜ。アタシは印象派は趣味じゃねえけどな」
開いたエレベータの扉に入る。感心したように要を見つめるアイシャと島田。
「昨日の格好も伊達じゃないわけね」
アイシャが独り言のようにつぶやくと、要は彼女をにらみつけた。
「怖い顔しないでよ。別に他意はないんだから」
笑ってごまかすアイシャ。島田は両手で計算をしている。誠にはつぶやいている内容からして、実物のモネの睡蓮の値段でも推理しているように見えた。扉が開き、エレベータルームを抜けたところで、先頭を歩いていた要の足が止まった。
「これは奇遇ですね」
立っていたのはアメリカ海軍の夏服を着たロナルド、岡部、そして初めて見るみる浅黒い肌の将校と、長いブロンドの髪をなびかせている眼鏡の女性の将校も一緒にいた。
「こいつか?昨日、誠が見たって言う……」
失礼なのをわかっていて要がロナルド達を指差す。
「そう言うことなら話は早い。西園寺中尉、お初にお目にかかります。私は……」
ロナルドの言葉に要のタレ目がすぐに殺気を帯びる。
「おい!誰が中尉だ!アタシは大尉だ!」
食って掛かる要の形相に戸惑っているロナルドだが、要は急に襟首に伸ばそうとした右手を止めて静かにロナルドを見つめた。
「失礼、では西園寺大尉。そして第二小隊隊長、カウラ・ベルガー大尉。運用艦『高雄』副長アイシャ・クラウゼ少佐。私が……」
「オメエ、パイロット上がりじゃねえな」
ロナルドの言葉をさえぎって、不敵な笑いを浮かべながら要がそう言った。
「なぜそう思うんです?」
まるでその言葉を予想していたように、ロナルドも頬の辺りに笑みを湛えている。誠には要の言葉の意味がわからなかった。岡部と隣の軽そうな雰囲気の将校。二人とロナルドの雰囲気の違いなど誠には区別が付かなかった。だが得意げに要は話を続ける。
「なに、匂いだよ。カウラやうちのタコ隊長みたいに正規任務だけをこなしてきた人間にゃあつかない匂いだ。海軍ってことはシールか?」
一呼吸置こう、そう考えているとでも言う様に、ロナルドは呼吸を置いて話し始めた。アメリカ海軍の特殊部隊。誠も話は聞いていた。敵深くに軽装備で潜入して調査、探索、誘導などを主任務とする部隊の隊員。それぐらいの知識は誠にもあった。だがロナルドは相変わらず社交辞令のような笑みを絶やそうとはしない。
「それは否定も肯定もしませんよ。なんなら吉田少佐に調べてもらったらどうですか?彼のテクニックならペンタゴンのホストマシンに介入するくらいの芸当は出来るでしょうから」
特殊部隊上がりに良く見られる態度だ。誠は以前保安隊に配属された初日に警備部部長のマリア・シュバーキナに感じた違和感をようやくロナルドに感じて納得がいった。
「まあ、その口ぶりではっきり分かったわ。どことは言わんが非正規戦部隊出身の特務大尉殿か」
「旦那!俺等のわかるように話してくださいよ!」
ラテン系と思われる髭を生やした中背の中尉がロナルドの脇をつつく。そして岡部の脇からチョコチョコと眼鏡をかけたブロンドの女性将校が誠を見ている。誠が微笑みかけると、逃げるように岡部の後ろに隠れた。




