保安隊海へ行く 34
日本庭園を抜けて正面に見える、風情のある数奇屋作りの建物が露天風呂だった。女湯の中でははしゃぐ声がしているところから見て、まだブリッジ女性軍が入っているのだろう。誠は寂しさに耐えながら、静かな男湯の脱衣所に入った。
ここもまた一流らしく落ち着いた木と竹で出来た壁面のかもし出すたたずまいの脱衣所で服を脱ぎ、タオルを片手に風呂に向かう。
中には二人の先客が湯船に浸っていた。一人は金髪の白人。もう一人はアジア系らしい。彼らは誠を見ると軽く会釈をした。会釈を返した誠の視線の中で、二人は誠にはわからないぐらいの早口の英語で談笑し始める。
誠はとりあえず体を洗おうと洗い場に腰を落ち着かせる。なにやら背を向けた湯船のほうで話し続ける二人の言葉が気になる。体を洗い終わり、頭から湯を浴びてシャンプーに手を伸ばす誠。
しかし、時折聞こえる『シンゼン』という言葉から考えると、二人は誠のことを話し合っているようだった。知り合いに金髪の持ち主が出来たのは保安隊に奉職してからである。警備部員のマリア貴下の隊員達だが、彼等は話すとしたらロシア語かドイツ語である。
以前、誘拐されかけた時のことを思い出したが、少なくとも誠から聞こえるような大声で話し合っているところから見て誠の拉致を狙っている組織の関係者という線は限りなく薄い。
ともかくお湯でも楽しもうとシャワーを浴び終わって振り向いた時だった。
「神前誠曹長だね」
湯船から半身を乗り出して金髪の男が話しかけてきた。しかも流暢な日本語である。
「そうですけど……?」
誠はそそくさと湯船に足を入れる。二人の男はどこか親しげな姿を装うことを決めたかのような笑顔で近づいてくる。
「失礼した。私はアメリカ海軍特務大尉、ロナルド・J・スミスだ。まあその肩書きも数日で遼州保安隊付き特務大尉に変わる予定だがね」
握手を求めるロナルドの言葉に面食らった誠。静かに手に力を入れると、ロナルドは満足そうに微笑んだ。誠はただ唖然として手を握るだけだった。
「彼はジョージ・岡部中尉。同じく数日後には保安隊第四小隊の隊員としてお世話になることになる」
ロナルドの言葉を受けてゆっくりと右手を差し出すジョージ。どちらも筋肉質な体つきは歴戦の猛者といった風情があり、誠は圧倒されつつあった。
「第四小隊の噂は本当だったんですね?」
静かにそう言う誠に向かい、穏やかに笑うロナルド。
「君からすれば意外だろう。しかし、合衆国は遼州同盟の安定には強い関心を持っている。保安隊という存在も私という個人から言わせれば非常にユニークな存在だった」
ゆっくりと湯船を移動するロナルドとジョージ。誠はその後をついて湯船の奥の岩の一つにもたれかかった。
「そして近藤事件、その後の各方面への根回し。嵯峨惟基大佐と言う人物は実にユニークだ。そして君の活躍。正直、脱帽したよ。そして興味を持った」
静かにそう言うとロナルドはタオルを四つ折にして頭に載せる。誠がまず考えたのはこの会話がアイシャに聞かれた場合に始まる騒動のことだった。アイシャは二人を端末で撮影、そのままほぼすべての知人に『愛人と後輩。男同士の愛の行方』などの副題をつけて晒して回ることだろう。彼女を部屋に取り残した自分の決断の正しさを自覚して胸を撫で下ろす誠。
そんな誠の考えなど知らないロナルドは言葉を続けた。
「今や君は有名人だ。遼州星系、地球やその他の植民惑星で軍属をしているものなら、君の名を知らないものはいないだろう。こうして出会えて本当に光栄だ」
「そんなことは無いですよ」
褒めちぎるロナルドの言葉に誠は照れ笑いを浮かべた。




